18 ただいまぁ。重大発表しまぁす

「なぁサラちゃんあの人血縁の方? 俺そんな方の前であんなこと言うたん?」

「あの方は、孤児院からザインを預かってくれた方だ。ザインが小官と離れたくないと言って結局小官も預かってくれた優しい方だ。直後、小官は騎士領にいくことになったからともに生活できてないのだがな」

「あのばあちゃんええ人なんやな」


 少し悲しそうな表情を残して笑みを浮かべるサラちゃん。

 孤児院から預かってくれた……か。幼い子を育てたいから孤児院から孤児を預かるってのはよく聞くけどおっきい子まで預かるってのはあんま聞かんから稀有なんやろうな。ええ孤児院に、ええ人に巡り会えたからこんなええ子に育ったんやろうな。てか今更やけどこの年齢で副騎士団長ってスーパールーキー過ぎん?


「ばあちゃん、実はな。騎士団長とは話ついてんねん。これまでの残虐な行いを反省してこれからじいさんは下っ端として魔王軍に属する。国は俺に委ねてもらってる」


 村人たちは、ざわつくのやめて真剣な眼差しで俺の話を聞く。なんか発表会みたいでドキドキするな。


「さっきちらっと言うたけど俺は世界征服しようとおもとる。前までは、世界征服はゆっくりのんびりしよおもてた。平和になればそれでええから。せやけど急ぐ理由ができた。だから手っ取り早く国が欲しい」

「そんな……俺たちの国が魔王に……」

「でも、さっきの告白見たら……」

「俺たちに被害が出ないように魔都への移動と手厚い歓迎。どこまでも俺たちのために行動してくれてるし……」


 各々が、どうするべきかを悩んでる。さっきの告白とか言うたやつ誰や、恥ずいから忘れてくれ。


「みんな! カナタさんを信じてくれ! 私の言葉に聞く耳を持ってないかも知んないけど、カナタさんは私が悪魔憑きじゃないって気づいてた! 本当の私を受け入れてくれた! 今はまだみんな不安だと思う、だけどきっと、カナタさんは私たちの人生を楽しくしてくれる!」


 部屋の外におったリエルちゃんが勢いよく部屋に飛び込み、弾丸みたいに言葉を次々と放っていく。想いの籠った言葉。若干言葉足らずに思えて、理解しきれんやつもおったと思うけど……この熱に心打たれへんやつはおらんかったみたいや。それに、誰も憎んでへんかったやろ?


「「リエル!」」


 涙目で、リエルちゃんに駆け寄るリエパパとリエママ。話せばみんなわかってくれるんやから、話さな損やな。話してもわかってくれへん場合もあるけどそれは根気でなんとかするしかないな。


「ごめんねリエル。ママ薄々気づいてたの、無理してるなって。でもなかなか聞けなくて」

「ごめんな。リエル……パパが厳しくしすぎた、辛かったよな」

「パパ……ママ」


 リエパパたち釣られるみたいに村人たちも次々と声を上げる。みんなええ人らやん。


「魔王様、私たちは……魔族を誤解していたようです。どうかこの国を、世界を。平和へとお導きください」


 ばあちゃんは俺を見上げるように両膝ついて、手を胸の前で握り合わせる。目ぇ閉じて祈るばあちゃんを筆頭に、他の人らも両膝ついて祈り始める。


「ばあちゃん、任せとき! あ、せやちょっと待っててな」


 そう言うて俺は宴会場から、キョトンとする村人置いて出ていく。

 なんか機嫌悪そうな蛇女ちゃんが「カナタ様」って呼び止めながらついてくる。なんか怒ってる?


「婚約って本気なんですか?」

「まぁな」


 真顔で放たれた言葉。


「そう……ですか……」

「どないしたん?」

「いいえ、なんでもありませんわ。私はリラ嬢を呼びにいきますわ、部屋で工作をすると言ってたので」


 ちょい不満げな表情で、去っていく蛇女ちゃん。なんか無理させてんのかな、今度それとなく聞いてみるか。

 そういえばリラのこと忘れてた。あとでちゃんと杖のお礼せな。



 ***



 蛇女ちゃんの様子気になりながらも、俺は客間までたどり着く。おっさん娘とは仲直りできたかな。そろそろ冷静になっててもおかしくないやろうし。


「おっさん、ちょっとええか?」

「おっ坊主! 戻ってたのかい? どうしたんでい?」


 気さくに話すおっさんやけど、奴隷やった子全員に距離取られてる。あ、娘はもう正気に戻ってるんか。でも距離取られとんの笑う。


「いや、こっちのセリフや。どないしてんな」

「このお嬢ちゃんたち、目を覚ました途端に警戒しだしたんでい。娘にも警戒される始末でい」

「まぁそんななりしとるし囚人服やしな。この子らの危機察知能力は正常みたいやな」


 つなぎの囚人服をだぼっと着とるおっさんなんて危なすぎる。俺やったら絶対近づかへん。


「坊主もじゃねぇか」

「あ、ほんまや。着替えてへんかったわ」


 俺も人のこと言えんかった。まぁなんでもええや、俺は何着ても似合うから。


「坊主、お嬢ちゃんたちの鞭跡も消してやってくれねぇかい?」

「せやな、完全に忘れてたわ。って言うとる間にパパッと終了」


 客間全体に俺の魔力を張り巡らせて、女の子らの状態異常の回復と鞭跡の治癒。ついでに状況説明すんのだるいから、俺が知ってる事実を女の子の脳に焼きつけた。これが合理主義ってやつ。


「私たち、無事なの!?」


 パッと意識が戻った途端、自分らの安否を確認する。脳に負荷かけすぎたか? 流石に超展開やわな。奴隷にされて傷だらけやったのに、今は魔都で魔王に治癒されてるって濃い内容が一瞬で脳に流れ込んでるもんな。


「せやで、めっちゃ無事やから安心し。辛かったな、でももう大丈夫やで俺が国もらったから安泰や!」

「坊主、それは騎士団長になるってことかい?」


 なる訳ないがな。魔王が騎士団長て絶対正気じゃない。あくまでもらっただけ、俺は政治なんてできへんしな。


「ならへんで。国もらった言うても、これからどうするかを決める権利をもらったみたいなもんや」

「な、なるほど? あいつはそれを納得したのかい? まさか殺し……」

「待て待て! 人聞き悪いこと言うなや。俺は平和に世界征服しようおもとんねん、そんなことしやんわ。あのじいさんにはちゃんと話つけとる」


 若干引き気味に訪ねてきたおっさん。心外やな、そんな巨悪に見えるか? 心なしか女の子らも怯えとる気がする。怯えさせてどないすんねん。


「あいつが……あれだけ求めていた国を手放すとはな」

「国を思う気持ちがデカなりすぎて権力求めるようなったんやろな、知らんけど。まぁ本人後悔しとるみたいやし魔王軍の下っ端として、更生させるわ」


 なんか真剣な面持ちで言葉を吐くおっさん。そんなおっさんを、「シリアスキャラは似合わんやろおっさん」って腹を軽く突く。

 シリアスな顔やめたおっさんは、俺に言われるがままに客間に置かれたソファーに腰掛ける。俺はそんなおっさんに今回の出来事の全てを話していく。


「――おい坊主。サラ嬢との婚約の件でそれより先の話が全部薄れたぞ?」

「まぁ過去に囚われんなってことやろ。さ、宴会場いこか」


 空間を歪めて、こっから直接いく。なんかちょっとの移動すらしんどい。さっきなんで歩いていったんやろ。


「ただいまぁ。重大発表しまぁす」

「急に出てこないでくださいカナタくん。まだ村の方は慣れてないんですから」


 ステラはさっそく新入りの雑用係に指示しながら、俺の方に寄ってくる。


「ステラ……おまえさんほんま容赦ないよね」

「何か勘違いしてますよ? 何をしたらいいですか? って聞かれたから仕事してもらってるだけですよ」

「そ、そうか。ならいいや」


 じいさん、自分から仕事もらいにいくってやっぱマゾなんかな? まぁええや。今はじいさんよりおっさんの話や。

 俺には案があんねん。この国のトップに立たずに、効率よく国を変える案が。

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