17 お……おじさんやないで? おにーさんやで?
「お……おじさんやないで? おにーさんやで? 魔王のおにーさん。ほら言うてみ? おにーさんって」
「おじーさん」
「老いちゃった! まぁええや、僕ちゃん名前は?」
楽しそうな顔でおじーさん呼ばわり。完全におちょくられとんな俺。かわええからええや。男はやんちゃくらいでちょうどいい。
やんちゃな僕ちゃんは、両手をパーにしてぐいっと前に突き出して……。
「ザイン・ティーツ! じゅっさい!」
ドヤ顔で俺の反応を待ってる。こういう時の対応はちょっとでも選択ミスったら、ギャン泣きご機嫌斜めコース突入や。考えろ、ザイン・ティーツが求める最善のアンサーを。お? ティーツ? おお? どっかで聞いたことある響き。
いや、今はそんなことよりじっくり思考を巡らせろ。自信満々の顔、堂々と突き出された両手。そうか! 導き出したで、最適解!
「ほえ〜ちゃんと自分の年齢言えるんやなぁ! 賢い!」
どや? きっと自分の年齢理解して、手で表現することにより賢さをアピールする作戦やろ? こんくらいの年齢の男の子は賢さに憧れるんや。俺も思ってた、ことあるごとに「俺頭ええから」って自己主張してた。え? 今思えばアホすぎんか? 「俺頭ええやんな?」にしとけばよかった。
「じゅっさいだよ? それくらいわかるよ。僕はサラねぇを守ってるんだ! 魔王って悪いんだって村のみんなが言ってた!」
俺の脳内コンピュータが惨敗した。十歳児に。ってかサラねぇ!?
「こら、ザイン! さっきみんなに説明しただろ? この魔王は悪くないんだ、助けてくれたうえに美味しいご飯まで。そんなことをしてくれる者が悪だと思うか?」
「思わない……ごめんなさい、まおーさま」
ほんまに兄弟なんや。サラちゃんにお説教食らったザインくんは、しゅんとした様子で俺にごめんなさいしてくれる。ええ子、素直に謝れるとかほんまええ子。さすがサラちゃんの弟。
「かまへんで、ちゃんと謝れて偉いなぁ。俺のことはカナタにぃって呼んでもええんやで?」
ザインくんの頭をワシワシっと撫でてたら、不思議そうにザインくんが。
「サラねぇと結婚するの?」
「え?」
「だってにぃって呼んでいいって。お兄ちゃんになるってことはサラねぇと結婚するってことじゃないの?」
おおっと? そういうわけやないんやけどなぁ、近所の子とかをにいちゃん感覚で呼ぶ感じのつもりやってんけ――
「ああ、小官とカナタは結婚するぞ」
「え?」
「え? カナタが言ったのではないか。俺が貰ってやると! あれは……嘘だったのか? そうだよな、こんな女らしくない女なんて妻にしたくないよな……あれはカナタなりの小官への気遣いだったのだな……つい、本気にしてしまった。すまないカナタ。小官はカナタにああ言ってもらえて浮かれていた……恥ずかしい、どうして小官はこんなにも愚かなのだ。カナタの周りには綺麗な女性がたくさんいるではないか……あぁ今も側室にはしてもらえるのではと思ってしまった……だれか小官を冷静にさせてくれ……」
だんだん早口で自分を責めだすサラちゃん。
やばい、俺めっちゃデリカシーないことしたんちゃん。そうよな、気軽に貰ったるなんて言うたらあかんな。正直めっちゃいい子やし、こんな子と結婚できるなら幸せやろうけど俺人間やないしなぁ。魔族なんよなぁ。でもめっちゃ落ち込んどるし、俺のこと好き……ってことでええんやんな? じゃなかったらこんな落ち込まんよな?
ああもうわからん! 男としてここは腹括らな、サラちゃんに失礼や。
「なぁサラちゃん」
小さな声でなんかを呟いてるサラちゃんに、
「勘違いさせるような言い方してすまん」
俺は、正直に話すことにした。このまま誤魔化してほんまに結婚する手ぇもあった。せやけど俺はそれを選ばんかった。不誠実やから。サラちゃんにも、俺自身にも。
「いいんだ、小官がはやとちりしただけなのだから」
「よくない。俺がくそみたいな短絡的思考で傷つけてもうたんや。今から言うことは俺の本音やから、同情やとか思わんと聞いて欲しい」
普通にクズやと思われるかもしれんけど、許して欲しい。だって会ってまもない男女がすぐ結婚なんておかしいやん。もし合わんかったらリスクでかいの女の子の方やし。
「俺は、サラちゃんのことめっちゃかわええと思う。結婚したら毎日楽しいと思う。せやけど俺は魔族、サラちゃんは人間。結婚なんかしたらサラちゃんが何言われるかわかったもんじゃない」
「小官は気にしない! 正室じゃなくて構わない! もうこの気持ちは止まらないんだ! とても短い時間だったが、小官は……カナタに惹かれたんだ!」
瞳を濡らし、自分の気持ちを吐露するサラちゃん。俺はこんなピュアな子の心を踏み躙ったんやな。
「俺は気にする、サラちゃんが悪口言われんの嫌や。結婚するなら何不自由なく円満に暮らしていきたい。だから! 俺が世界征服するまで待っててくれへんか? 征服したら人間と魔族の垣根なんてぶっ飛ばす、平和な世界にする。自分でもクズいこと言うてんのは理解してる。すぐ征服する、だから今は……妻やのうて、婚約者として――」
俺は最後まで言い切る前に、サラちゃんの激しい抱擁にテンパる。
「小官はしっかりこの耳で聞いた……今度は短絡的思考ではないのだな?」
「うん、めっちゃ真剣に考えた。許してくれる?」
「もちろんだ、今はとても幸せなんだ。恋敵は多いようだがな?」
俺にさっきより強く抱きつくサラちゃんは、ふふっと笑みを漏らしてなんか含みのある言い回しで言うた。鯉が滝? デートスポットかなんかか? 今度探しとこ。
「んんっ! ラブコメするのは構いませんが、まずはやるべきことを済ませましょう。見てください騎士団長さんを。すぐ村人に説明すると思ってたのにぐだぐだラブコメしてるから困惑して固まっちゃいましたよ、私も困惑しましたよ! 見入って止めれなかったじゃないですか!」
ステラが見入ってたんは知らんけどジジイには悪いことしたな。なんかジジイって呼ぶの失礼やな、道踏み外したとはいえ年配の方やし芯はしっかりしとるみたいやし。じいさんって呼ぶとしよう。自慰さんって解釈されたらオナニーおじさんみたいになってまうけどまぁええや。
「じいさんもうラブコメ終わったで。待たせてすまんな」
「っ! ……もういいのか?」
はっと気づいたじいさんは、なんか話さなあかんおもたんかなんか適当に言葉発した。急にこんなんなったら反応に困るか。ほんまゴメス。
「よし! 気ぃ取り直して! お集まりの皆さん! 我が城自慢の料理長が振る舞う料理はいかがですか? まだまだ食材も料理長のやる気もあるのでじゃんじゃんおかわりしてください! 食後には、魔王特製プリンもお出しします。お楽しみに! 以上!」
「……じゃないですよ! 晩餐会がメインじゃないんですからその挨拶はおかしいでしょ?」
「あ、そっか」
俺の肩掴んでぐいぐい揺らすステラ。こいつどさくさに紛れて三角筋揉んどるやん。やめんかい。噛まんとホテルのオーナーっぽい挨拶できて達成感噛みしめてたのにステラに怒られた。
「本題! この国ください!」
「馬鹿ですか!? 言い方!」
「めっちゃざわめいてるやん。俺なんかおかしい言い方したか?」
村人たちは、近くに座ってる人同士でざわざわしてた。ステラは言い方がどうのっておもとるみたいやけど、どう言うたって結局は国くれって意味やねんから変に取り繕っても意味ないやろ。
「あの……なぜ村人である我らに聞くのですか? それも小さな村に住む我々に。国が欲しいのなら後ろにいる騎士団長様に聞けばよろしいのでは?」
ざわめいてる中、真っ先に声かけてきたんは、見覚えのある俺らに忠告してくれたばあちゃんやった。そんなばあちゃんの元にザインくんが駆けていく。
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