16 憎まれっ子世にはたかれるってな
「今回はドジしなかったんだな」
「やっぱ気づいてたかぁ。ごめんな、カッコつけたのに危険な目に合わせてもうて」
キモ野郎の両目から指を離した後、ニヤっと揶揄うように笑う。やっぱ自分偽るより、そっちの方が輝いて見えるわ。
「いいんだよ、助けてくれたし。かっこよかった。私が自分を偽ってたからこんなことになったんだと思う。だから、もう偽るのはやめるよ。柄が悪いからって引かないでくれよ?」
「おおきに! 絶対引かへんで、約束する」
俺は約束は絶対守るからな。さてさてリエルちゃん助けたし、キモ野郎もダウンした。あとはジジイなんとかせな。
「待機してるみんなぁ! ステラの指示に従っておっさんの確保よろしゅう!」
いろんなとこに散らばってた、村人のフリした魔族連中がジジイの周りに集まったんを確認してからアリアちゃんを回収する。
「蛇女ちゃん、先戻ってでっかい宴会場に村人集めといてくれる? それと村人に料理振る舞うよう料理長に頼んどいてくれる? おもてなしの心大事やからな」
「了解しましたわ」
空間を歪めて、蛇女ちゃんを魔都へ送る。ついでにサラちゃんも。にしてもアリアちゃんあたりどこ悪かったん? 治癒したった方がええんやろうけど俺は紳士やから、女の子を無駄に歩かせたりはしやん。運んでから魔都で治癒ろ。断じてお姫様抱っこしたいとかやない! 断じて!
そっと持ち上げ、実感する。鎧、重すぎん? 軽量化すべきやな。帰ったら鎧の新調提案してみるか。
気失ってるご尊顔の女の子を運んで、歪めた空間へと進む。
「リエルちゃんも行くで〜! 誤解とかなあかんやろ?」
「カナタさん……私、みんなに合わせる顔がねぇよ」
魔都に移動しようとしてたら、不安そうに俺の腕掴むリエルちゃん。
「合わせる顔? ちゃんとかわええ顔あるやん」
「そ、そう言う話じゃねぇよ! 私きっとみんなに憎まれてる! 私のせいでこんなことになって! 騎士に目をつけられて!」
イケイケな性格でもそんなこと気にすんねんな。そんなリエルちゃんにとっておきを教えよう。
「確かに恨んでる奴もおるかもしれんなぁ、でも冷静に考えてみ? こんな大事なっとるけどリエルちゃんなんも悪ないやん。それでも憎まれてるって思うならこの言葉を贈る。憎まれっ子世にはたかれるってな」
「違います、それだと粛清されちゃってます。カナタくん」
ジジイの拘束終えたステラが冷めた目でツッコむ。あれ? 間違った? なんやったけ。
「あ、歯向かうや! 憎まれっ子世に歯向かう! つまりな? どんだけ憎まれててもめげんと歯向かい続けてたらいつかは、ぎゃふんと言わすことが出来るっちゅう意味の言葉やねん」
「違います、憎まれっ子世にはばかる。人から憎まれるような人間のほうが、かえって世間では威勢をふるうという意味です。まぁそれでも通じます……かね?」
ツッコミと訂正をするステラやけど、めんどくさなったんか投げやりになってる気がする。
「ま、要するに気にせんときってことや! 考えすぎは疲れんで? ほら、魔都行くで」
「カナタさんって結構適当なんだな」
「人生楽しんだもん勝ちやからな」
リエルちゃんは結構気にしい。誰も憎んでへんと思うけどなマジで。もし憎んでるやつおったとしても話せばわかってくれるやろ。
リエルちゃんを励ましながら、俺らは魔都へと進む。
***
魔都に佇むでっかい城の内部。ここが俺の本拠地、いつもは閑散としとる空間やけど今この瞬間、宴会場の前は賑やかやった。
廊下まで広がる料理の匂い。鼻を通り抜ける爽やかながらも濃厚な香りのソース。
「なぁジジイ。洗脳魔法使ってんの誰?」
今すぐにでも、宴会場に乱入して晩餐会参加したいけどおっさんと話つけとかなあかんな。
「儂の愚息だ。気に入った女を奴隷にするのを止められないために騎士を洗脳している、悪魔に憑かれ人に危害を加えると言う嘘を突き通しやすくするために。洗脳を解いた者が二人いるがな」
「あ、理由も話してくれんのや。てかなんでそんなん放置してたん?」
このジジイ抵抗とかしやんねんな。まぁ死神おるしな、危機察知能力高いな。
「儂がこの地位を獲得するために利用したのがきっかけ。きっかけを作ってしまった儂には止めることができなかった」
「クズいことして手に入れた地位に価値あった?」
ジジイの顔にはどっか後悔がある気がした。このジジイなんやかんやで良心捨てきられへんタイプやと思うわ。
「権力など、追い求めるのでは……なかった」
「ゼロからやり直せばええやん? 魔王軍で下っ端として雇ったんで、雑用やけどな」
「その罰、しかと受け止めさせてもらおう」
罰ってつもりやなかってんけどな、更生できる可能性感じたし。まぁ本人が罰って言うならそれでえっか。
「でもな、息子と地下牢におったヤバめの女の子は尋問とキッツイ罰与えやなあかん。それはわかるよな?」
「ああ、当然のことだ。取り返しのつかないことをしてしまったのはわかっている。こんなことを言うのはおかしいが、道を踏み外した哀れな親子に、罰を与えてくれてありがとう」
このジジイ絶対根はいい人やったわ。権力に目がくらんだんやな。精神力が足らんかったんやろう。深々と頭を下げるジジイ。罰与えられて感謝するってマゾか? まぁ世の中いろんな人おるって言うし、深く考えやんとこ。
「なぁ、西の国の今後は俺に委ねてくれへんか?」
「何か考えがあるのか……いや、もう儂が言えることはないな。この国は魔王の物だ」
やったあ。国ゲットだぜ。ま、俺が統治するわけやないけど。
「あんがと〜! じゃ、村人さんたちに事情説明しにいこか」なんて言いながら、バッと宴会場の扉を開ける。そこには、意気揚々と料理を運ぶ料理長の姿があった。めっちゃ生き生きしとんな。
村って結構デカかったんやな、どでかいテーブルに並ぶ人らの様子は圧巻やった。こんな絵画あっても違和感ないな。
「ただいま! お疲れさん料理長」
「「「おかえりなさいませ魔王様!」」」
扉の近くで料理を運んでた料理長と、奥で調理してた料理長二人。計三人の料理長が俺らを迎える。
てかなんで宴会場にも調理場作ったんやろ俺。普通はないよな、まぁいっか。そのほうが便利そうやし、見た目重視でスタイリッシュなカウンターキッチン。場の雰囲気壊さんし逆に調理パフォーマンスもできる。なんで作ったかは覚えてへんけど、ええ仕事しとるやん過去の俺。
「指示通り、料理を振る舞わせていただきました! 自分でも驚くほど最高の出来です! こんなに人数がいると、料理のしがいがあっていいですね。魔王様も是非お食べください」
「ありがとう! いただくわな! で、質問やねんけど……なんで料理長三人?」
「細胞分裂なんじゃないですか?」
俺の疑問にステラが、投げやりに答える。ステラも知らんの? 全知全能っぽい雰囲気作り出してんのに。
「なんでやねん。そんなすぐ増えるもんちゃうやろ」
料理長が増えてる理由が分からんすぎる。三つ子か? 多分三つ子やな。
三つ子料理長に案内された席についたら、横の席におったサラちゃんが。
「料理長殿の固有魔法らしいぞ? 小官も先ほど気になってな。聞いてみればそう答えてくれた。仲が良さそうに見えるが把握していなかったのか?」
「仲はええ思うけどなぁ、こういう踏み入ったことって聞きづらない? ほら、なんか教えたくないこととかって誰しもあるやん?」
三つ子やないんかい。でも、固有魔法なら三人おっても納得やな。三人に分裂しとるけど、意識は別々なんかな。
「確かにありますね、体重は絶対教えたくないですもんね」
「うむ、それは決して明かしたくないな」
女の子ってみんなそんなんなん? 体重なんて何キロでもええやろうに。
「ねぇねぇ、おじさんがまおーさま?」
体重は絶対黙秘組をよそに、口をソースだらけにしたちっこい男の子が自分の存在を主張するように俺の袖を引っ張る。
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