15 上等じゃ、どついたるから覚悟せぇよ?
「おいジジイ、魔族をなんやと思っとんねん? 思い通りにいかんから始末って頭悪いんかよ」
「魔族とは滅ぼすべき存在。儂が騎士団長として、貴様らを駆逐する」
こいつ騎士団長なんかい。背中に掛けてた剣を握り、力強く空を切って威嚇するジジイ。アリアちゃんが持っとる剣より明らかに長い。リーチ長い分近づくの危険か? 剣長い分重いやろうから素早い動きできへんって仮定したら間合い詰めた方が得策か?
「おい……副団長ともあろうものがなぜ魔王に手を貸す?」
こっちに歩いてくるサラちゃんに尋ねるジジイ。言動とか思考はそっちの方が魔王っぽいけどな。
「お言葉ですが、行動や思考はあなたの方が魔王では? 小官はこの目で見ました、この男の真価を。あなたは、自分を恐れ同族を殺してきた種族を助けることができますか? 少なくともこの男は無闇に命を奪わない、あなたと違ってな」
「この儂を愚弄するのか」
真っ直ぐな視線で問い詰めるサラちゃん。これ愚弄してんのかな、事実言われてるだけなきがすんねんけど。
それより、このおっさんも洗脳魔法かかってへん。メデューサ族への恨みだけでここまで荒んでるってことか? まぁええや、聞きたいことに答えてくれたらなんでも。
「奴隷はなんのために用意してんの? 特攻隊でも作るつもりか?」
杖の先端でジジイの脇腹にどぎついのをかます。ステラには劣るけど俺だってぬるっと動ける。覚悟しろよジジイ、さっきのゴツい騎士はアリアちゃんがボコってたから俺はお前を泣かす。奴隷なんて胸糞悪いことしやがって。
「あれは愚息の玩具に過ぎない、そこのを返してもらえるか? 愚息の物なんだ」
「ステラ! リエルちゃん!」
剣を下から振り上げたジジイは、奥のステラとリエルちゃんが隠れてる建物の倒壊を見ながらゆっくりと近づいていく。
なんちゅう威力や、吹っ飛ばされてもうた。こりゃあかん、普通建物壊すか? 中に人おったらどないすんねん。
「待てやジジイ! 人を物扱いか? 腐っとんな。っちゅうか、愚息ってあそこで高みの見物しとるキモ野郎のことか? 偉そうなくせに自分でなんかする根性すらないんやなあいつ。そりゃリエルちゃんに振られるわ」
「その軽口を閉じろ、クソガキ。奴はいずれこの国を治める人物だ、これ以上侮辱するならその命が尽きても文句は言えんぞ」
こいつただの親バカか? 息子が女手に入れるためだけにここまでするってえぐいな。建物の上で腕組んでこっち見とるキモ野郎。え? いずれ国治めるってこいつも騎士なん? いやちゃうな。単に国を私物化しようとしてるだけに思える。
「おい! キモ野郎! 悪魔憑きやらなんや嘘ついたりパパの権力使わな女一人すら口説かれへんのか? 振られんのがそんな怖いか? まぁその顔やもんな! おまけに根性ないし! ええとこなしやな!」
ここまで煽ったら流石に高みの見物しとるわけにもいかんやろ? こんな罵られて黙ってるなら男じゃないやろ。玉取った方がええと思うわ。
流石にイラッとしたみたいやな、降りてくるんかこっちに背を向けて奥に歩いていく。階段でもあんのか? せやけど、その歩みは即座に止まった。
「その軽口を閉じろと言ったはずだぞ! クソガキ!」
「はぁ、ジジイ! あんた過保護すぎて息子の成長の機会奪っとるやん。なんの苦労もさせんつもりか?」
全力で斬り込んでくるジジイを、俺は杖であしらう。待って? 木製の杖やのに金属音してんけど。何事!?
「当然だ! あいつは国を担う! 苦労などあってはならない! トップたる者、円滑に物事を進めねばならないのだから!」
このジジイほんまどこまでも腐っとんな。民を尊重できへん奴にトップが務まるかよ、俺も人のこと言える立場じゃないけどな。反乱されとるし。
「魔王よ。今ここでこの儂、シルバー・ウエストが貴様を葬り去ってやる」
「上等じゃ、どついたるから覚悟せぇよ?」
お互いに神経が最高潮まで高まった時、それを阻止するかのように叫び声が聞こえた。
「パパ! そのまま倒すのは面白くない! おい! サラ・ティーツ。弟の命が僕に握られてることを忘れたか? 血の繋がりがないとは言えど大切な弟だろ?」
俺の前に出てきたんは誉めたるけど。こいつこの後に及んでまだそんな汚い手使うんか、まぁ実際には俺が保護しとるけどな。やっぱ村人避難させて正解やったな。
「弟とその下賎な魔王を助けたければ……」
きっしょい顔をさらにきしょくさせて続けた言葉は、
「僕に抱かれろ。普段なら二十を越えた女は相手にしないが特別だ、お前は二十になったばかりだからな。生き遅れを抱いてやるんだ、感謝してもいいぞ?」
あまりのきしょさに言葉を失った。こいつのこの自信はどっからくんの? 二十は生き遅れじゃないし。まじもんの生き遅れさんに殺されんぞ。
「小官が犠牲になれば、弟とカナタは助かるのだな?」
「どうするんだよ? 早くしないと村のどこかで弟の悲鳴が聞こえるぞ!?」
こいつきっしょ。
サラちゃんはなんか諦めたみたいに、自分の感情押し殺して震わせた喉から言葉を絞り出そうとする。
「ぐああぁぁ!?」
そんな時、悲鳴が聞こえる。村のどこかから? いいや、俺のまん前から。ほえ〜、この杖めっちゃすげぇやん。魔力流し込んだだけでビームみたいなん出た。流し込んだんが少量の魔力でよかった、この男は無闇に命を奪わないってサラちゃんが言うたばっかやのに奪ってまうとこやった。
リエルちゃんといいサラちゃんといい、自己犠牲の精神やばない? どんだけええ子なん?
「サラちゃんこいつ、一言も助けるって約束はしてへんで? 取引ってのは真面目なええ子が損するように出来てるからタチが悪い」
「だが! 小官が犠牲にならないと!」
「弟くんは……っちゅうか、村人は魔都で保護しとるから安心し。それと、生き遅れとか気にしてんのやったら俺が貰ったんで? なんてな」
赤面するサラちゃんを置いて、吹き飛んだキモ野郎に近づく。大袈裟にビームが掠った左肩押さえて喚いてる。
「パパ! どうして動かないんだよ! 助けてくれよ!」
棒立ちしてるジジイに助け求めとるけど、全然動く気配がない。おっとジジイの背後に死神が見える。
「なんで助けてくれへんのやろな? まぁ自分の命を危険に晒したことないあんたには分からんやろなぁ、あの危険性は」
「危険性……だと? 何を言ってるんだ!」
ジジイの後ろにおる死神に気づいてへんのか? はぁやだやだ、これやからボンボンは。
「ま、今は自分の今後を考えとき? 人生の分岐点に一名様ご案内〜! 蛇女ちゃんよろしゅう!」
「了解しましたわ」
俺はキモ野郎の胸ぐら掴んでおもっきり蛇女ちゃんに向けて投げる。
蛇女ちゃんは頭の蛇で器用にキャッチして、土の基本魔法で構築した椅子に座らせる。イマジネーターでロープ作ろかおもたけど、気絶してるし必要なさそうやな。
息子がこれから何されるか気になるんやろうけどまだ死神、もといステラと硬直状態。さすがステラ。武器持したらやばい人ランキング一位やと思うわ、特にあれ。蛇女ちゃんとジジイの間に割って入る前に、ステラに渡した薙刀。
もともと生きてる時はなぎなたの有名な選手やったらしいしな。その他武術を趣味でやってた武闘派少女。ほんま勝てる気せんわ。
「リエルちゃーん、出番やで」
「え?」
俺に呼ばれて、キモ野郎の前に出てくるリエルちゃんやけど状況を理解出来てなさそう。
なんで呼んだかって言うと、まぁお節介やな。悪魔憑きって誤解を解いて素の自分で生きて行くにしても、そのまま自分を偽って周りから冷たい目で見られる人生を歩むにしても、キモ野郎にしっかり落し前付けさせなあかんしな。リエルちゃん自身で。
「こいつどうするよ? やりたい放題されたんやし落し前付けさせたり。おい起きろキモちゃ〜ん」
「……ぐっ、お前! 僕に何するつもりだ! おい魔王! 僕の話をきけ! 僕を助けろ! もうこの村には手を出さないから!」
「リエルちゃんには手ぇ出すつもりやろ?」
俺のビンタで気を取り戻したキモ野郎は、醜く命乞いをする。もう過ちは犯さん。取引の際は気ぃ付けやな。
「当然だろ! 僕は一度目を付けた女は逃さないんだ! 僕の手を煩わせたお前だけは決して楽な人生を歩めると思うな! 他の女と同じようにただの奴隷になれると思うな――」
目ぇ付けたら逃さんとか言うから目潰したろかおもたけど、俺より先にリエルちゃんが吹っ切れたみたいやな。華奢な腕を全力で突き出して、パッと手をチョキにして両目を容赦なく突く。
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