14 我、魔王を凌駕せし者
「ナイスショット」
豪快な発砲音の後、騎士の被る兜に銃弾が炸裂して小気味良い音を奏でる。被弾の衝撃で体勢を崩したゴツい騎士に、建物の影からアリアちゃんが身軽な動きで近づく。サラちゃんの腕を褒めながら繰り出された斬撃は、対抗心でいつもより威力高めな感じがした。
「現れたか! 怯むな、捕らえろ!」
「判断が少し遅かったですね」
警戒を強める騎士たちやけど、俺の相棒の方が一枚上手やったみたいや。
周りの警戒が吹き飛ばされたゴツい騎士にいってる一瞬の隙に、ぬるっとリエルちゃんに近づいてたステラがテレポートでリエルちゃんごと、俺と蛇女ちゃんが待機してる建物の影に帰還する。
「おかえり! 三人とも行動早すぎて俺なんも出来へんかってんけど?」
「ボス的な立ち位置のカナタくんはそんな感じでいいんじゃないですか? あんな雑兵、私たちで十分です」
「私もまだ何も出来ていませんわ。不甲斐ないです」
俺いいとこなしやんか。
やいやい言うとる俺ら三人に向けて、サラちゃんが一声発する。ちょっと困惑した様子で。
「仲がいいのは微笑ましいが……止めなくていいのか? あれ」
サラちゃんが指差した先には、ズバズバと大量の騎士たちを斬り倒すアリアちゃんの姿があった。いや……うん。あれは止められへんやろ、怖すぎて近づけんわ。
「平和的な世界征服を目指してんのに、絵面はこっちが完全悪もんみたいに見える……けどやってることは人助けやからあのままそっとしとこ? 別に怖くてよう止めに入らんとかやないで?」
「そ、そうか」
「てかさっきの実弾やんな? カキーンって鳴っとったし。体勢崩れるだけで済むってあいつ体幹えぐいな、兜の強度も」
話を逸らす方法に迷った挙句、別の話題を振るっていう最もポピュラーな方法を選択した。出来るだけ視界にアリアちゃんを入れんようにしながら。
「なんだ、気づいてなかったか? 小官の銃は特別製でな。炎の魔法を応用して威力を調整しているんだ。固有魔法と基本魔法の併用で神経は使うが慣れればさほど苦でもなかった」
特別製ってことは普通の銃とは内蔵されてるパーツがちゃうってことか? まぁよう分からんけど、すごいってことはわかった。にしてもこの子の実力は計り知れんな。いつの間にゴム弾から実弾に切り替えたんかも分からんし。
「ゴム弾から実弾に切り替えんのもなんか魔法使ってんの?」
一瞬で切り替える手法があるなら知りたい。エロ本がばれそうになった時役立ちそう。イマジネーターは考えてから実行に移すから、細かい調整してたら時間かかるから一瞬の作業は向かんのよ。単に俺の脳が処理速度遅いだけやけど。
「いや、これは小官の特技だ。手先が器用でな、銃弾の補充なら一秒もかからない」
「手先器用って言うかバケモンの域やん」
これは俺には不可能やわ。もうエロ本は隠さんと潔く机に置いとこ。うん、それがいいよね。灯台下暗しって言うしな。
「それより小官はステラの身体能力に驚いたのだが? 後方支援専門だと思っていた」
「すごいやろ? 魔法なしで戦ったら俺勝たれへんもん、武器持ってたらもっとえぐいで。死神かな? って思うレベル」
俺とサラちゃんの目線は、リエルちゃんの手ぇ握ったままドヤ顔してるステラに向けられる。
「我、魔王を凌駕せし者」
何キャラ? まぁ実際凌駕されてんねんけどな、俺に肉弾戦仕込んだんステラやし。
『この肉体でご都合魔法しか使わないのは勿体無いです! いずれ肉弾戦が映えるシーンが来ます!』って力説されたな。懐かしい。今んとこ映えてへんけど。
「ステラがそれほどに実力者だったとは、いずれ小官と手合わせ願いたい」
「いいですよ、いくらでもお相手します」
爽やかに少年漫画みたいな会話しとるけど、なんか忘れてない? 多分二、三個大事なこと忘れてる気がする。
「あ、あの……魔王さん……?」
あ、リエルちゃん忘れてた。少年漫画の呪縛から解き放たれた二人も忘れてたっぽい。揃いも揃ってダメダメか?
「カナタでええよ? もう安全やで、ここにおるやつ全員強いし」
「お仲間が!」
村の中心地を見据えるリエルちゃんが、おっきい声を出す。お仲間? あ、アリアちゃん忘れてた。
「やりすぎてんの? 流石に止めや……な……あかん、あかんあかん! 何あれ!? どゆこと!?」
俺の目に飛び込んできた光景は、アリアちゃんが髭面のおっさんに蹴り飛ばされる瞬間やった。壁に叩きつけられたアリアちゃんは気ぃ失ってる。
いつの間にか加勢してた蛇女ちゃんが石化させよと試みてるっぽいけど、完全に行動読まれとる。メデューサ族の石化能力は一見無敵やけど発動条件がちょい厄介らしい。なんでも、蛇に変えた髪で相手の血液取り込むってのが条件らしい。最初に聞いた時は、条件知らんかったら勝ち目ないやんおもたけど、知られてるっぽいな。
「メデューサ族、貴様らの力は把握している。何故なら一度見ているからだ、貴様らだけは必ず儂自身で滅ぼしてくれる」
「あら? 恨まれるようなことしたかしら?」
蛇の猛攻を避けながら憎しみの念マシマシで言葉を発したおっさんは、バネで跳ねたみたいにめっちゃ飛んで前に距離を詰め、勢いをつけて拳を蛇女ちゃんに振りかざす。
「はぁい、そこまでゅぇぇええ!!???」
こんなんばっかりや。カッコつけたら大体やらかす、なんやねんこれ。鉄筋製のバネに殴られたみたいな感じ。めっちゃ硬いし重いのに、弾性が半端ない。おっさんの腕一瞬縮まらんかった?
「カナタ様!?」
「貴様が魔王か? 儂の攻撃で数メートルしか吹き飛ばなかったのは貴様で二人目だ」
「痛いやんけ! 普通はなんや!? ってなって寸止めするとこやろ? 何全力でかましてくれとんねん! ドアホ!」
次の攻撃する気満々の髭面。痛いからもう勘弁してほしい。
「貴様は後で滅ぼしてやる、そこをどけ。先にそこのメデューサだ」
「なんでメデューサ族にそんな憎悪だらけなん?」
「儂がまだ若き頃、仲間を目の前で石に変えられ砕かれた。理由はこれで十分だろ?」
明かされた理由。別にこいつの肩持つつもり無いけど、憎むのには十分すぎると思ってもうた。目の前で死んでったんなら尚更やな。でもそん時のメデューサじゃ無いねんから、蛇女ちゃんがやられんの黙って見てるわけにはいかん。
あれ? でもメデューサ族って見た目に反して温和な種族じゃなかった? 転生後にステラに叩き込まれた情報ではそんなこと言うてた気がする。温和ならそんなことしやんよな。この世界と日本では温和の解釈がちゃうんか?
俺は思考がまとまりきらんくて、咄嗟に蛇女ちゃんを見る。俺には分からん、メデューサって温和なん? 温和じゃないん? どっちなん? 教えて蛇女ちゃん。
「あなた方、同胞を殺めましたね?」
俺の視線の意味を察したんかそうじゃ無いんか分からんけど、蛇女ちゃんは一つの質問を髭面に投げかける。
その質問は単純明快。返答次第でメデューサ族が温和なんかそうじゃ無いんか、髭面に同情の余地はあるんか無いんかがパッとわかる。実に合理的。
こういうわかりやすいの好き。もし殺めたんなら、メデューサ族は敵討ちのためにキレただけで基本は温和な種族ってのがわかるし、軽率に命奪った髭面たちの自業自得。殺めてないならメデューサ族は普通にヤバイ種族で髭面たちに同情の余地がある。
「当然だ、依頼されていた翠蛇石を大人しく渡さないメデューサの自業自得だ」
投げかけられた質問に、髭面はなんの悪びれもなく堂々と発言する。正気か? 自業自得? な訳ないやろ。大事なもん奪われそうなって抵抗しやんやつなんておるわけないやろ。てか何の依頼やねん、なんでも屋でもやっとったんか。
でも今のでわかった、こいつに同情の余地無し。こいつには聞きたいこと山ほどあるし、後で滅ぼす言われたけど俺が先鋒を請け負う。コテンパンパンにしちゃる。
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