13 俺一応ボス的な立ち位置なんやけど!?

 ***



「なるほど。私とキャラ被りしないように魔法陣で移動するのではなく、空間を歪めてショートカットのように移動するようにしたんですね」


 再会するなり、考察をぶちかますステラ。なんで俺の考えわかったん?

 横におるアリアちゃんに視線移したら、魔王城に乗り込んできてた日々がフラッシュバックした。完全武装して鬼の形相、背筋凍るほどの圧。凍るのに暑ぅってな! うん割といい出来ちゃう?


「何よ? ジロジロと」

「いや、そんな雰囲気懐かしいなぁっておもてな? もう数年前か……」

「数日前ですカナタくん」

 

 スパッとツッコむステラ。でもほんまここ数日スカートやったからなんか新鮮味すらある。

 キョロキョロと周りを見渡すサラちゃんを、興味深そうに観察してステラが言う。


「このお人形さんどこの子ですか!? うちの子になるんですか!? かわいい!」

「えっ……と……」

「ちょいちょいちょい! 落ち着きって。この子は西の国の子や、副騎士団長やけど洗脳魔法かかってへんで」


 紹介したら、アリアちゃんが明らかに呆れた感じで口を開いた。


「どこまでバカなの……? 今から騎士と対峙するのにどうして騎士なんて連れて来てるのよ」

「権力者のひと声で一発解決やん!」

「自己紹介がまだだったな、小官はサラ・ティーツ。騎士だが、警戒しないで欲しい。なぜなら小官は腐りきった連中を粛清しに来ただけからだ」


 アリアちゃんも騎士やん。なんて思ってない。ほんまやで。


「腐りきった……ね。この国の騎士団もそうなのね。私は東の国の騎士、アリア・イーストよ。今はカナタの世界征服を手伝ってるけどね」

「やはりアリアも騎士だったか。ん? 世界征服だと? 正気か? 国を守るのが我々騎士の使命のはずだ」


 アリアちゃんの言葉に引っかかったんか、ちょっと不穏な空気になる。ステラの自己紹介スルーされとるし。

 どないしよ、これ俺が原因よな。アリアちゃんに世界征服一緒にしよって持ち掛けたん俺やもんな。俺のために争わないで! って止めに入っていい雰囲気じゃないけど、一回言ってみたい。根性出せ魔王。


「俺のた――」

「人と魔族を共存させるための世界征服よ。罪のない人と魔族を救い、罪を犯した人と魔族を裁く。これが正しい在り方よね、カナタに言われて気付いたわ」

「確かに……その通りだ、魔族だからといってすぐに討伐する現状には小官も疑問を抱いていた。突っかかってすまなかったな」


 あれ? 収まった……? サラちゃんさらっと受け入れすぎじゃない? 俺のセリフの行き場は? この出かかった言葉と感情はどこにぶつければええんや!? 恥ずかしいやんか。


「カナタくん、ドンマイです」

「ぴえん」


 肩を小刻みに奮わせながら、俺を慰めるステラ。わろとるやん、俺に味方はおらんのか?

 ってか、こんなことしとる場合やない! 急がなあかんやん!


「自己紹介も終わったことですし急ぎましょう。相手は私たちをお待ちのようですよ?」

「え、そうなん?」


 急がなあかんっておもてたんはステラもやったみたいや。やっぱすぐ殺したりせんかったんはこういうことやったんか。


「村の中心地でリエルちゃんを捕らえたまま叫んでましたよ。『魔王の配下よ見ているのだろ! 出てこい! さもなくば……なんたら』って」

「最後まで聞いてへんのかい、まぁなんとなく伝わったわ。とりあえず城から蛇女ちゃん呼んでくれん? 武器ないと締まらんやろ?」


 そう、俺は手ぶらなんや。魔王やのにかっこいい杖も、強そうな剣も持ってへん。なぜなら今まで魔都に引きこもってたし、必要な場面がそんななかったから。素手とご都合魔法で十分やったしな。

 でも引きこもりをやめてあちこち旅する身となった今! 武器なしやと違和感あるから持つことにした。村の連中も全員腰に短剣隠してたし、武器装備がこの国の常識なんやろな。物騒な世界やで。

 とは言え俺も男、武器には憧れがある。だから前ダガー装備してみたけど二日で無くしてもうてな、ぼられるし無くすしで踏んだり蹴ったりやった。ま、ええ思い出か。


「もう呼んでますよ、城はリラに任せてます」


 事前に声かけて準備させてたんか、用意周到やな。ステラの後ろに魔法陣が現れ、ひょこっと姿を見せる蛇女ちゃん。手には百二十センチ程度の長さの包みを持ってる。


「カナタ様、こちらを」


 蛇女ちゃんは武器と思わしき包みを解いて、俺の前に片膝ついて差し出した。なんか王様なった気分。

 俺の前に現れた武器は、緑色の石が輝きを放つ木製の杖やった。緑色の石はなんかめっちゃ凄そうなオーラを醸し出してる。神秘的やねんけどなんか危険な感じもある。


「めっちゃカッケェやん! ありがと!」

「喜んでいただけてよかったですわ。リラ嬢と造った甲斐がありましたわ」


 満面の笑みを浮かべる蛇女ちゃん。続けて、俺が渡してた巾着袋を返してきた。


「造った!? 武器屋行かんかったん?」

「行ったのですが、カナタ様に見合う物がありませんでしたの。そこでリラ嬢に魔樹で杖を造ってもらい、母から受け継いだ魔石を組み込みましたわ。魔法はもちろんのこと、物理攻撃でも最強クラスの力を発揮できますわ!」


 いやいや、さらっと言うとるけど母から受け継いだって形見やんけ。そういや前に聞いた気がする。メデューサ族に伝わるなんかすごい石があるって。


「オカンから受け継いだもん使ったらあかんやん! 大事にせな、オカン泣いてまうで?」

「大丈夫ですわ。この翠蛇石は、大切な方をいつでもお守りできるように、と捧げるものなので。いわば忠誠の証だと思ってください、なので受け取っていただけないと私が泣きますわよ?」


 忠誠や言われても、そないに大事なん俺に預けてええんか? でも……荷が重いなんて言われへんな。こんな信じてもらえるなんて滅多にないやろうし、ありがたく使わしてもらお。


「おおきに! 使わせてもらうわな! これは蛇女ちゃんがもっとき、俺からの感謝の気持ち」

「カナタ様の感謝、ありがたく頂戴しますわ」


 大事そうに俺が渡した巾着袋を両手で抱える蛇女ちゃん。武器買うために用意した金貨やけど、お礼として渡した。後でリラにも渡そ。

 そんなこと思いながら、俺は杖の感触を確かめる。

 俺の手にびっくりするくらい馴染む魔樹製の杖。確か魔樹は何回折れても強度を増して復活するってリラが言ってた気がする。魔樹で家具造ってる時に。

 そーいえば、キャンディーが俺の部屋で暴れてた時も魔樹製の棚とかは作りたてみたいに綺麗やったな。


「よっしゃ! 武装してかっこよさに磨きかかったことやし! 殴り込みに行こか!」


 俺の意気込みに、みんなが賛同するように勢い良く声を上げてザクザクと村に踏み込んでいく。俺を置いて。


「ちょ待って? 俺一応ボス的な立ち位置なんやけど!? なぁ聞いてる? 待ってやぁ――」



 ――置いてけぼりの俺は騎士の待ち受ける村の中心の開けた場所を、建物の影に隠れて観察する。血気盛んな乙女二人を引き止めて。


(ストップストップ! 落ち着きって二人とも)

(どうしてよ! 目の前でリエルが拘束されてるのよ? 早く助けないと)

(アリアの言う通り、目の前で少女が囚われているのだ。小官も早く助けるべきだと思う)


 俺もそう思う、せやけど。絶対今でたらあかんやつや。奪還して逃げる隙すらないほどガチガチに固められた陣営。それに手足しっかり拘束されてる、おまけに一番ゴツい騎士が踏みつけとる。あいつだけは絶対泣かそ。


「カナタくん、我慢の限界なんじゃないですか? こうしていても仕方ありませんし、出ますか?」

「せやんなぁ、見てるだけじゃどうにもならんしな。向こうがどう出るか分からんけど……」


 人質おらんかったら楽やねんけどな。


「さっさと片付けよか!」

「景気良く小官がやつにワンショットくれてやろう」


 ニヤリと嗜虐的な笑みを浮かべ銃口をゴツい騎士に向ける。ピンと伸びた背筋、真っ直ぐ定められた右腕。完全に獲物を捉えたんか、綺麗にすっと伸びた人差し指で引き金をゆっくりと引く。

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