12 カナタさてはいい子だな?

 親心……か。はぁおっさん甘すぎんぞ。ほんま甘すぎる、砂糖の分量間違えた手作りスイーツ並みに甘すぎる。


 うちのオカンは俺が悪いことしたらおもっきりげんこつかましてきたで。『子を正すのも、救うのも親の役目や。子供にめっちゃ嫌われても、クソババアって罵られてもこの役目は全うせなあかん』オカンがこう言うとったんいつやったっけな。

 いつやったかは忘れたけどこの言葉はなんか頭に残っとる。育児放棄かなんかのニュースみて溢してたんやっけ。


 一人で何言うとんおもたけど、言葉に芯があった気がするし辛そうやった気もする。俺そん時反抗期やったし、オカンも色々思うとこあったんやろな。あれはオカンなりの決意表明やったんかもしれん。


「なぁおっさん、『子を正すのも、救うのも親の役目や。子供にめっちゃ嫌われても、クソババアって罵られてもこの役目は全うせなあかん』ってうちのオカンが言うとってん。こんな辛くて重い役目背負わしてさ、俺は親孝行の一つもせんとオカンから離れた」


 今になって後悔してきた。人助けするって部活に入ってたくせに、一回でも親を助けたことがあったか? 一回でも面と向かって親に感謝伝えたことあったか? 無くしてから親の大事さに気づくってよう言うたもんやな。ほんまその通りやで。誰や最初に言うたやつ、あんたも無くしてから気づいたんやな。


「おっさんの役目肩代わりしたらさ、ちょっとはオカンへの罪悪感なくなるかな?」

「坊主……」


 わかっとる。なくなる訳ないことなんて。せやけど、なんかオカンとおっさんを重ねてまう。普段はふざけとるくせに、ちゃんと子供のこと考えとる姿見たら。


「おっさん、今は俺が ”正す” って役目変わったるわ。その代わり俺が正した後は、ちゃんとおっさんが救ったれよ? こんなひどい環境で病んでるかもやしな」

「ああ、約束する。すまねぇな坊主、情けねぇおっさんで悪いな」


 自分が情けないって思い込んどるおっさんに、俺は全力の本音をぶつける。


「おっさんは情けないって言うたけどさ、どんな状況でも我が子に手ぇ上げへんオトンは情けなないで」


 こんなオトンやったら、反抗期なかったかもな。ま、言うてもしゃーないか。

 一筋の涙を流すおっさんを尻目に、俺は血だらけの娘ちゃんの方に歩いていく。


「カナタさてはいい子だな? 薄々気づいてはいたが、今確信した。いいお母さんのおかげか?」

「サラちゃん泣いとるやん、どした?」

「小官には両親がいないのでな。孤児院で良くしてもらってはいたが、親がいればこんな風にしてもらえてたのかと思うとな……」


 俺の横に並んで歩くサラちゃんの瞳は、涙でキラキラと輝いてた。サラちゃん苦労してんねんな。俺はオカンおったし、あんなんやけどオトンもおるから気持ちは理解したられへんけど辛かったやろうな。

 でもほんまええオカンやったなって思うわ、小言多くてうざって思うときもあったけど。


「なぁ娘ちゃん、ええ親持ってよかったな。お互い。おかげでまっすぐ生きれる」

「…………て、ころ……して……」


 頑張って声を絞り出した娘ちゃん。錯乱しとんか? まぁ腕斬り落としとるしな。おっさんから剣奪って腕を切り落とす、それまでの動作はめっちゃ辛かったやろうな。


「そんなん言うたらあかんで、俺が今なんとかしたる」

「カナタ、どうするつもりだ?」

 

 簡単な話や。異常状態をイマジネーターで確認したらサラちゃんの予想通り、貧乳姉ちゃんの固有魔法やったからそれを無効化する。鞭跡があの状態作り出しとるみたいや、貧乳姉ちゃんに鞭で打たれたやつは絶対服従。って感じやと思う、なんとまぁ悪趣味な魔法なこって。固有魔法を打ち消すのと同時に傷も癒さな。


 治癒は基本ステラに任せっきりやけど俺もできるのだ、なぜなら俺は天才やから。極力省エネで生きたい俺やけど今回はめっちゃ動かなあかんな。今まで魔都の改築ばっかで世界征服進めてへんから知らんかったけど、世界征服って大変やな。


「固有魔法で娘ちゃんの異常状態消して傷癒す」

「できるのか?」


 愚問やな、できるに決まってる。


「サラちゃん五秒後に娘ちゃん気ぃ失うから支えたって」

「……? わかった」


 ほんまにわかってんの? まぁええわ。さっさとやろか。

 意識を目の前のことだけに絞って、気絶させるイメージと治癒させるイメージを明確にしていく。気絶させるならやっぱ一瞬で気絶させた方がええよな。治癒は傷消すイメージだけでええんか? 

 ようわからんまま娘ちゃんの腕や脚につけられた鞭跡が消えていく、治ってんのかはまだわからんけどこれで終い。ほんま便利な魔法やで、さすファン。


「四秒ではないか」


 膝から崩れ落ちる娘ちゃんの元へ駆け寄り、華麗に受け止めるサラちゃん。細かいこと言うとるけどちゃんと間に合うのがすごいよね。身体能力は俺より上かもな、イマジネーターで誤魔化せるから関係ないけど。


「四も五も変わらん変わらん。おっ! ちゃんと傷治ってんな。上出来!」

「固有魔法……なのか?」

「せやで、なんでもできる魔法やでって言うたやろ?」


 深読みしすぎて、俺の話信じてなかったんかい。いや、今はそんなことよりおっさんの腕治さな。娘ちゃんから、おっさんに視線を移す。


「坊主……何するつもりでい? そんなもん持って」


 娘ちゃんは、呆然とするサラちゃんに任せて俺はおっさんに近付く。おっさんの斬り落とされた腕持って。


「坊……いだだだだっ!」


 俺は強引におっさんの腕をくっつける。瞬間接着剤イメージして待つこと二秒、


「どや?」

「感覚が戻ってる……傷も消えてる……坊主、何から何まですまねぇ」


 おっさんの腕は完全に復活。ついでにその他諸々の傷も修復、完璧や。他の錯乱しとる子らは、サラちゃんが力技で気絶させたみたいやしさっさと戻ろか。


『ステラ、状況どない?』

『最悪です、リエルちゃん捕まってました』

『マジで!?』


 あかん、やっぱ捕まったか。ステラ達が一旦村から離れた時に捕まえとったんか? なんにせよ急がなあかんけど、すぐ殺すなりなんなりしてないんは引っかかんな。


『とりま急ぐから、村の入り口で落ち合お!』

『了解しました』


 ステラとの念話を終えて、俺はサラちゃんに視線を向ける。


「リエルちゃん捕まったって仲間から報告あった、俺は村戻るから後のこと頼むわ」

「いつ連絡を……? いや、もう驚かない。なんでも出来るのだったな。話は理解した。が、小官も同行しよう。こう見えても権力はあるんだ」


 一瞬困惑したサラちゃん、そりゃそっか。この世界に遠距離の連絡手段無さそうやもんな、作るか。

 同行することになったサラちゃん、確かに権力者おった方が楽でええな。サラちゃん助けてくれんのか。仲間同士で争うことなるかもやのにほんまええ子。せやけどどうする? 貧乳姉ちゃん目ぇ覚ましたらあかんからここに奴隷とか放置できへんしな、もう魔都送っとこ。それがいっちゃん手っ取り早いし安全や。

 魔都思い浮かべて空間歪ませたらいけるはず、奴隷は十人か。結構おんな、客間に送るか。


「ほなサラちゃんよろしゅうな。おっさん、娘ちゃんと他の奴隷ちゃん連れて魔都行って。ややこしなったらあかんから客間から出やん方がええで」

「了解でい! 気を付けろよ坊主」


 躊躇することなく、俺が歪めた空間に気絶した子らをぽんぽん送り込んで最後に飛び込むおっさん。こんだけめちゃくちゃしてたら動揺しやんようなるんやな。おっさん元々対応力ありそうやしな、魔王って明かした時もそんな動揺してへんかったし。


 よし俺らも行きまっか。


「馬車を出そう、こっちだ」

「え?」


 村の入り口まで空間を歪めるから馬車乗らんで行けんねんけどな。サラちゃん、魔都までしか行けんおもてたんか? 魔王やで? なんでもできるさ。

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