10 こいつイキり散らしてる癖にどじっとるやんだっさ

 ん? ちょっと待って、違うわ、これ幻覚やない。だって今銃弾が肩掠めたもん! 服焦げとるもん! こんな幻覚あってたまるか! くっそ、四階着いたら透過きれるようにしたんが間違いやった。


 おかげで机に頭ぶつけるし、へんな勘違いするし、撃たれるし、踏んだり蹴ったりや。でもかわええ子にお触りできたからえっか。


「ふざけたことばかり言ってないで、いい加減答えたらどうだ?」

「なぁここ四階やんな? 俺副団長がここおるって聞いて来てんけど……まさか? あんたが?」


 足を肩幅に開いて、手を後ろに回した幻覚ちゃんは。


「いかにも! 小官が西の国の騎士団副騎士団長、サラ・ティーツ。貴様は?」


 胸張って、堂々と名乗った。勇ましい。


「ほえ〜こんなかわええ子が副団長? 俺は魔王、カナタや! よろしゅうな!」


 握手しよおもて、手ぇ差し出したけど、


「魔王……!? 確か先ほど捕らえたとの報告を受けたが?」

「脱獄しちゃった」


 サラちゃんはまた銃を構える。


 ん? あれ? この子、洗脳魔法かかってない?


 手ぇ差し伸べたついでにイマジネーターで確認したけどなんもかかってへん、どういうことや? 上の連中は洗脳かけてないんか? それとも……。


「洗脳魔法……かけてんのあんたか?」

「ほう、洗脳魔法について知っているとはな。だが、小官は洗脳魔法を使えない」


 っちゅうことは上の連中にはかけてへんのか。いや、洗脳魔法使えるやつを指揮してんのがこの子ってことか? わからんようなってきた。


「じゃあ、なんで洗脳魔法かかってへんの? この国の連中ほぼかかってるっぽいけど、サラちゃんかかってへんのはおかしない?」

「なぜ小官がかかっていないことがわかった?」

「俺の固有魔法や、まぁ正確には地下牢におったおっさんもかかってへんかったけどな」


 俺の言葉を聞いたサラちゃんは、こわばった表情で。


「あの人に会ったのか? 小官と同じで洗脳魔法を無効化したあの人に」

「一緒に脱獄して今娘迎え行ってるわ」


 え? 待って? 無効化? 自力で解けんの? まぁ今はええわ、俺が聞いてもわからなさそうやしステラおる時に改めて、ってことで。


「娘……? 騎士領から出れるわけがないのだがな」


 地下牢やねんから、出る必要ないやろ。なんか勘違いしてるんか? それともあくまで奴隷のことは伏せるってことなんか?


「ちゃうやん、あんたらが奴隷や言うて地下牢に閉じ込めとるから助けに行っとんねん」

「奴隷だと? 何を言っている、小官はここに奴隷を監禁しているなんて報告は受けていない。デタラメを言うのはよせ」


 デタラメ? とぼけんのか? かわええ顔してえらい腹黒やな。いや、もしかすると?


「デタラメやって思うなら確認しに行くか?」

「確かに、魔王の言葉といえど確認もなしで疑うのは良くない。案内してくれ」


 俺の言葉に、サラちゃんは同意する。腹黒なんかええ子なんか、どっちなん。



 ***



 地下牢に響き渡る、悲痛な叫び声。この叫び声に戸惑う子が一人。


「なぁとぼけてたとかじゃなくて、まじで知らんかったん?」

「知っていたら、もっと早くに対処していた。小官はこのような非人道的な行為が何より気に食わない。だが……小官は、何度も……」


 非人道的な行為が気に食わん、か。何回も村焼いてきた連中の二番手やとは思えん発言やな。焼かざる得ん理由あったんか? 


 騎士どもがやっとることはクソやけど、俺のみた感じこの子はそんなクソには見えへんねんなぁ。


「サラちゃんさてはええ子やな?」


 怒りを現すかのようにサラちゃんの拳は硬く握られ、お人形さんみたいなかわええ顔が別もんみたいになるほど悲鳴が聞こえる方を睨みつけてた。

 これおっさん大丈夫か? 悲鳴収まってへんけどおっさん救出失敗したか? どうなっとんや。不安やな。


「カナタと言ったな、小官はひとつお前に聞きたい。なぜお前は自ら捕まったのに、脱獄したうえ奴隷を助けようとする」

「リエルちゃん助けるために捕まったんよ、一旦捕まってその場凌いで帰ろおもてんけど、なんやえらい胸糞悪いことしとるみたいやから」

「リエルとやらは存じぬが、誰かのために一応体を張ったのは伝わった。それに正義感もあるようだ、変わった魔王だな」


 ちょっと穏やかな表情を見せるサラちゃんは、副団長やのうて単に軍コスしたかわええ女の子にしか見えん。なんで軍服なんやろなんて無粋なことは考えへん。


「あれ? 心開いてくれた感じ? 嬉しいわ〜」

「乙女の心が簡単に開くわけがないだろう? 小官は特に手強いぞ?」


 これは開いてみろっていう挑戦状やと思います。頑張るぞい!


「まぁ冗談はさておき、おっさんとこ急ご。なんか心配や」


 軽く会話して親交を深めたことやし、おっさんと奴隷連れてさっさと村戻ろ。こんなクソみたいなことする連中や、どうせなんかやらかすやろ。早いうちに手ぇ打っとくか。


『もっしもーし、愛しのステラちゃん聞こえる?』


 俺は徐に、脳内で語りかける。決してイカれたとかやない、イマジネーター使って念を送ってる。念送るだけなら会話できへんやんって問題は、イマジネーターで解決した。


 俺が念を送った時に限り、相手も念を送れるようになる。え? ご都合主義? しゃーない、それが俺の固有魔法やねんもん。


『聞こえてますよ、愛しのカナタくん。こちらからは連絡取れないんですから、もっと早く連絡くださいよ。で? 何か頼みがあるんですよね?』


 ステラからの念を受け取る。お願い聞いてもらいやすくするために芝居打ったんバレたかな。まぁバレててもやってくれるやろうしえっか。


『さっすが相棒、話早くて助かるわ。んでな? 頼みたいことなんやけど、俺が村に戻るまで村人守っとって欲しいんよ』

『なるほど、騎士が何か仕掛けると判断したんですね?』

『そそ! リエルちゃんは絶対、手ぇ出されると思う。あのキモ野郎はあんなんで引くような感じやなかったし、ここの連中結構やばいかも』


 騎士とキモ野郎の先手打たな勝ち目ない、キモ野郎結構姑息そうやからな。俺のミスにつけ入るやろな、ほんまどじった。


『カナタくんが約束させたのは、村の安全ですからね。村人の安全は約束させていないから、先手を打たないとですね』


 そう俺が約束させたんはあくまで村の安全。「俺の身柄と引き換えにこの村の安全を保障してくれるだけでええ」じゃないねんボケ!!! 全然良くないやんけ! まじやらかした、イキったのにこれは恥ず過ぎる。

 アホやん、俺アホやん。え……待って? これステラも気づいてたしリエルちゃんも気づいてて、「こいつイキり散らしてる癖にどじっとるやんだっさ」って思われてる可能性あるくない? うわまじかつらぁ……。


『うん……先手打たな。人質取られたらだるいから、村人全員魔都に運んでくれる?』

『……考えは理解できますが、人がいなくなれば怪しまれるのでは?』


 一気に声のトーンが落ちた俺の様子が気になったんか、一瞬言葉が詰まるステラ。


『せやなぁ、人に近い見た目の魔族連中をフェイクで配置しとこか』


 村人の大移動、騎士に目ぇ付けられとるから結構危険なミッションやけど、ステラには朝飯前やろ。さ、こっちもさっさと片付けるか。

 ステラが作戦を承諾したのを確認して、数メートル先の人影を見据える。


「小官の後ろにいろ。今のお前は囚人だ、囚人の身柄を管理をするのが小官の役目だ」

「サラちゃんカッケェなぁ、お言葉に甘えてけつ眺めとくわ」

「しょ、小官はそんなこと言って……もういい好きにしろ」


 適当にあしらうサラちゃん。ははーん? さては満更でもないな? じっくり堪能しよ。

 サラちゃんは若干気にするようにけつ押さえながら、人影に近づく。


「誰の許可を得てこんなことをしている? 何者だ? 小官はお前を知らな――」

「あはっ! 副団長ちゃんだぁ〜! 後ろにいるのは例の魔王ちゃんだよねぇ? 会いたかったよぉ」


 サラちゃんは、「会話が成立しないぞ」って感じの表情をこっちに向けてる。でもほんま会話不成立。

 っちゅうか、副団長がこいつのこと知らんってことは奴隷躾けるためだけの人員ってことか?


「小官の質問に答えろ、何者なんだ?」

「ねぇねぇ魔王ちゃん、どうして後ろにいるの? もっと近づいてよぉ」

 

 俺とおんなじで囚人服きて大胆に胸元開けた、貧乳姉ちゃん。髪とおんなじ色の綺麗な青い目ぇでこっち見ながら、手に持ってる鞭をしならせる。瞳孔開いてて怖い……。

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