7 つまり……カナタが元凶ってことね
「キャンディー!!」
おっきい声あげて、城の廊下を全速力で駆けるアリアちゃん。すごい勢いで髪がなびいて、シャンプーかなんかのコマーシャルみたい。
リエルちゃんが店戻って、すぐ帰ろ言うたんはキャンディーが心配やったからか。
「……なぁステラ、キャンディーどの部屋に送ったん?」
俺はふと気になった。だってアリアちゃんが突っ走ってる方向、階段しかないしその先俺の部屋なんよなぁ。
「カナタくんの部屋ですよ? 他の魔族に知られるとややこしくなるかなって」
「せやんなぁあ! っちゅうか! 他の魔族って信用できるメンツしかおらんやん城には」
わざとらしく首傾げとるけど絶対分かっててやったやろ。元々城におんのは俺とステラと幹部連中、それと雑務してくれるやつら。その他は魔物ストリートにしかおらんがな。
「先にアリアちゃんに伝えるってのがタチ悪いわぁ。エロ本出しっぱやったらどないしよ」
「聖都に売ってるからって買うのやめたらそんな心配ないと思いますよ? 身近にこんな美人がいると言うのに全く……」
エロ本は男のバイブルやから買い求めるのはしゃーない。
俺は、やれやれとため息をこぼすステラを置いて部屋へと急ぐ。
「――追い付いた……! っああぁぁぁ!!」
「きっ、急に大きい声出さないでよ!」
急な大声にびっくりしてるアリアちゃんはかわええけど、俺の視界に広がる景色はめっちゃ悲惨やった。テーブルはひっくり返って、カーテンとソファーはズタボロ。んでなんでか知らんけどクローゼットが散らかされてる。どうやって開けたん?
状況が理解しきられへん俺の横には、一歩も部屋に踏み入れへんアリアちゃん。理由はあれか。さすがに入りづらいわな。
「おいキャンディー、俺のパンツ返して」
パンツを振り回すキャンディーは、つぶらな瞳をこっちに向けた。
「あらあら、大胆にいかれましたね」
「誰のせいやおもてんねん! 俺の勝負パンツズッタズタやん!」
遅れて部屋に来たステラは、部屋に散らばる家具とかパンツ見てやっぱりかって感じで笑っとる。こいつ……なんの躊躇もなく部屋入ってパンツ片付けよった……! アリアちゃんは躊躇してたのに。
「いいじゃないですか、出番ないですよね? まだ初夜もまだなのに」
「おいこら、お前で初夜迎えたろかボケ!」
「是非! 遂にこの日が……! 私も初めてなので優しくしてくださいね?」
あかん完全に目がヤバい人や。ステラにこの煽りは逆効果やった。ジリジリと距離を詰めるステラ。喰われてまう……!
「はぁ……これくらいで何騒いでるのよ」
「部屋荒らされたらこんな反応なるわ!」
呆れた口調のアリアちゃん。パンツ片付くまで部屋入られへんかったくせに大人ぶっとる。こんにゃろう、他人事やからって……! 絶対泣かす! なんかええ案無いかな。俺は思考を巡らせ、
「決めた! アリアちゃんの部屋も荒らそ!」
「どうしてそうなるのよ!?」
オオカミくんには、『やり返したら憎いやつとおんなじなってまうやん』とかカッコつけたけど、これは復讐心とかじゃ無いから! 単純に荒らしたいだけやから!
「荒らされた者の、なんかよう分からん恥ずかしさを味わうがいい! フハハハハ! 荒らすぜ、クローゼット中心に!」
「な、何するつもりよ!?」
何するつもり? 無粋やなぁ。男が女の部屋でクローゼット荒らすっちゅうたらなぁ?
「ナニするに決まってるや〜ん? レッツトレジャー! トレジャー!」
「さ、させるかぁぁあ!!」
頬を赤らめ掴み掛かろうとするアリアちゃんを振り切り、勢いよく部屋を飛び出した俺やけど。
「んぶっ!」
柔らかい障壁に阻まれる。この感触、この温もり、この城でやけに肌露出させてんのは蛇女ちゃんしかおらんな。うん、ナイスおっぱい。温もりを頬に感じ、俺は目をゆっくりと閉じて癒しを堪能する。
「カナタ様、そんなに急いでどうしたんですの?」
「ん? アリアちゃんのクローゼット荒らしてナニして、泣かしたろおもてな?」
「あら、私ので良ければいつでもお貸ししますわよ?」
上品な顔して何言うとんねん。俺の周り痴女多すぎやろ。貞操の危機やでほんま。
***
紅茶の深い香りに包まれた会議室で、蛇女ちゃんが話す。俺の部屋まで呼びに来たんは話があったからか、わざわざ紅茶まで入れてくれてよう出来た子やで。落ち着いた場で話さなあかん内容なんかな。
「西の国の騎士たちが、動き出したようですのでお気を付けください。もしかすると、カナタ様が入国した事に感づいたのかもしれませんわ」
真剣に忠告してくれてるんやろうけど、
「騎士が動いたのは、悪魔憑きもろとも村を焼き払うためです。心配しなくて大丈夫です、バレるような位置にテレポートしてないので」
ステラは、バッサリその忠告を否定した。なんなら、自分の能力否定されたって勘違いしたんか頬を膨らませてる。
「え? ご存知だったのですか? ですが、おかしいですわね」
「おかしい? 何が?」
ステラの言葉に驚きつつも、なんかに引っかかってるみたいやな。にしてもこの紅茶うっまいなぁ、また淹れても〜らおっ!
「はい、悪魔憑きなんて……一昔前なら有り得た話ですが、今では人間に憑ける魔族はいないはずなんです」
蛇女ちゃんは、机の上で手を交差させる。なんか昔話でも始まりそうな雰囲気やな。
「アリア、聖都に伝わる魔族の話では悪魔憑きについて、何か記されていたんですの?」
「馴れ馴れしいわねメディー」
アリアちゃんが挑発的な顔で蛇女ちゃんを見てるけど、「あなたもでしょ?」なんて蛇女ちゃんの反論で小競り合いが始まる。この二人前から犬猿なんよなぁ。アリアちゃんが城に乗り込んでくる度にキレてたな蛇女ちゃん。
「はい! そこまで! 今はそんなことしてる場合じゃないですよ?」
「それもそうね……悪魔憑きについては、下位の魔族が人に憑き自我を失くさせるって記されているわよ」
場を沈めるように、一回手を合わせて音を響かせたステラ。それを見て我にかえったんか、アリアちゃんはちょい反省したみたいな顔してる。蛇女ちゃんも。
「やはり誤りがあるようですわね。悪魔憑きは上位の魔族しか出来ませんわ、今は魔王様クラスの魔力が無いと無理ですわね」
俺がどんくらい魔力あるか知らんけど、まぁ多い方なんやろうな。でもイマジネーター使ったら、たまにめっちゃ魔力消費してる気がする。
でも、俺くらいしか悪魔憑きできんっちゅうことは……? つまり?
「つまり……カナタが元凶ってことね」
……なんでやねん。
「おいこらアホ女、危ないから剣しまえ。ええか? 話の流れ的に、悪魔憑きなんてでたらめって事か! ってなるとこやろ!?」
アホリアちゃんがアホな思考回路で導き出した、どうしようもないアホな回答で剣先を俺に向ける。あぁあかん、蛇女ちゃんがこっわい顔しとる。
「え? そうなの? 村の人が嘘ついてるってこと?」
「理由は分かりませんが、そう言うことですね」
「カナタ様、この件からは手を引いては? 何か嫌な予感がしますわ。この村でなくても良いと思いますし」
せやな、蛇女ちゃんの言うことも一理あるねんけど理由気になるし、万が一事実やった時ヤバいしなぁ。
「一回首突っ込んだ事やし貫くしかないわ。心配させてごめんやで」
「さすが私が惚れた殿方ですわ! 分かりました、私に出来ることがあれば何なりとお申し付けください!」
さらっと告げられた言葉に、頬が熱なるんを感じるけど協力してくれんのはめっちゃありがたい。
「おおきに! 早速やねんけど魔物ストリートで良さげな武器見繕ってくれへん? 俺武器とか疎いから武器屋でめっちゃぼられんねん。蛇女ちゃんなら信頼できるし……頼まれてくれる?」
「お任せください! 最高の武器を用意いたします!」
俺は金の入った巾着袋を蛇女ちゃんに預ける。金貨百枚くらいあれば足りるか。貨幣価値いまいち分かってへんのよなぁ。金貨百枚は大金や、ってステラ言うとったし多分そうなんやろ。細かいことは全部任せっきりやからまじで分からん。
「魔王を騙す魔族なんているのね」
魔都では普通やと思うけどな。大阪でもこれくらいは可愛いもんやろ、商人たるもの図太くないと。
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