6 まずは村人に聞き込みしよか
――しばらく歩いて、村の入り口らしきもんが見えてくる。木製のアーチは、ファンタジー感を醸し出してる。そのアーチのちょい手前、一人の女の子を見つける。
「なんやあれ、トラブルか?」
「恐らくそうでしょうね」
その女の子は、一人の男に腕掴まれてた。ナンパか? にしても……。
「や、やめ……! 乱暴しないで!」
「黙れ! お前がすぐに媚びないからだ!」
乱暴すぎん? 今おもっきりビンタしたで。
頬を打たれた女の子は、髪を揺らしながら地面に膝をつく。大丈夫か? あれ。
「騎士として、この状況を放置はできない!」
剣を握り憤るアリアちゃん。それに賛成するように、ステラが口を開く。
「カナタくん! これはイベントフラグですよ! 恐らく!」
「イベント!? よう分からんけど、助けなあかんってのは分かった! 行ってくる――」
――女の子のとこに飛び出した俺の前で、ナンパしてた男がぶっ飛んだ。
「しつっけぇんだよ、キモ野郎! 毎日毎日、絡んできやがって! テメェみてぇな女を見下した奴に媚びる気なんてねぇわ!」
掴まれてた腕をぶん回して振り払う。その直後に、胸ぐら掴んで男を捲し立ててる。
えぇ……嘘やん。えっぐ……。
「な、なぁステラ? これさ、フラグでもなんでも無さそやし素通りでええんよな?」
「そ、そうです……ね」
イベントフラグやとおもてたステラは、予想外の出来事に呆然としてる。
と、そんな時。
「あぁん? なんだよテメェら。見せもんじゃねぇぞ」
「「「ごめんなさい!!!」」」
ドスのきいた発言に、俺らは萎縮しながら通り過ぎる――
「――しばらく夢に出てきそうなんですが? トラウマですよ」
「大人しそうな子だったのに……」
「ま、まぁあんなめんどそうなんに絡まれてたらしゃーないんちゃう?」
村っちゅう割には、結構栄えてる一帯を見渡しながら、おっかない女の子の話をする。アリアちゃんが言う通り、大人しそうでめっちゃか弱い感じやったのになぁ。
「旅のお方ですか……?」
「ん? せやで。どしたんばあちゃん」
俺らに声かけてきたんは、麦わら帽子被った腰が曲がってるばあちゃん。どっかで農作業してたんか、足元に泥がついてる。
「今すぐこの村からお逃げください」
「「「え?」」」
真剣な顔で言うたばあちゃんの言葉に、三人の声がハモる。逃げる? どゆこと?
「魔都から、大勢の魔物が飛び立ったと言うお話はご存知でしょうか?」
「あー、知ってるっちゅうか俺が原……あだっ!?」
言い切る前に、ステラとアリアちゃんが俺の頭をどつく。
「二人とも何すんねんな!」
(馬鹿なの? 明らかに魔物を警戒してるでしょ!)
(カナタくん、素直と言うのは時に己を苦しめるんですよ)
なんかよう分からんことを小声で訴えかける二人を怪訝な目で見ながらも、
「魔物の目的が分からない為、いつ襲撃されるか……」
「なるほど、注意喚起って訳ですね?」
「それに関しては、心配に及ばないわよ。私たちは強いもの!」
心配そうに話すばあちゃん。それに対してアリアちゃんが、ドヤ顔で小さな胸を張る。
村人からしたら事情知らんし、そりゃ不安か。
「それだけではありません! 騎士領から騎士様が」
「なぁ、騎士領ってなに?」
「この国の心臓部よ、騎士そのものがこの国の法なのよ。今は黙って話を聞きなさい」
「へーい」
ばあちゃんの話遮って聞く俺に、アリアちゃんがサクッと説明する。
「……そこのお嬢さんが言ったように、騎士様はこの国の法。そんな方々が、この村に来るのです。悪魔憑きを処刑するために」
悪魔憑き! なんかめっちゃかっこええ響き……って言うとる場合じゃなさそうやな。
ばあちゃんもアリアちゃんも、ステラでさえ暗い顔しとる。なんか訳ありか?
「忠告あんがと! 現状は把握できたわ!」
ほんまに把握出来てんのかこいつ? みたいな顔で去っていくばあちゃん。
「カナタ、本当に把握出来てるの?」
あれ? 俺ってそんなアホそうに見えんの? 心外やなぁ。
「当たり前やん! 騎士が処刑する前に悪魔憑き見つけて、憑いてる悪魔なんとかしたらええんやろ?」
「違うわよ、この村のことは忘れなさい。帰るわよ」
苦しそうな表情で放たれた言葉は、
「え? 帰るんですか?」
ステラには予想外やったらしい。
「騎士が来れば、この村は終わりよ。巻き込まれないうちに早く……」
「にゃにしゅんにょよ」
言い終わるより早く、俺はアリアちゃんの頬を掴む。なんか俺が知らんだけで割とめんどい事なってるっぽいな。
せやけど、村が終わるなんて聞かされて黙ってられへんやろ。
そんな俺の意思を察したんか、ステラが俺に情報をくれる。さっすが相棒。
「カナタくん、この国は村の集まりを騎士が管理しています。騎士の判断で村が焼かれるなんてのも普通にあります」
「なんやそのアホみたいな話。っちゅうことは」
悪魔憑きの処刑や言うてたけどこれ確実に村焼きに来てるやろ。魔都から近い国で、その国の中でも最も近いこの村は魔族が来てるかもやしな、現に俺ら来とるし。
「ええ、十中八九この村は焼かれますね」
「先手……打つやろ?」
「はぁ、もう分かったわよ! どうせ言っても聞かないんでしょ!?」
俺らに説得は無理やって諦めたアリアちゃんが、膝抱えて地面に体育座りしたまま不貞腐れてる。
「おおきに! まずは村人に聞き込みしよか」
――聞き込みを開始して三十分くらいが経った頃。
「全然ダメじゃないの……」
アリアちゃんが呆れてる中俺は、めげずに聞き込みを続けてた。
「あ! そこのかわええ姉ちゃんちょっとええ?」
「急いでるので……」
「おぉっと、そこの君もかわええな! ちょっとええ? 悪魔憑きって」
「…………」
あかん心折れそう。流石に無視はしんどい。
「カナタくん、『聞き込みは俺に任せとき! ひっかけ橋で鍛え上げられた俺の会話術見せたる!』って息混んでたのに惨敗じゃないですか!」
「会話術って呼べないわよあんなの」
二人の厳しい意見に俺は肩をすくめる。それにしてもおっかしいなぁ、グリコ看板の加護を受け、道頓堀っちゅう聖域を徘徊してた俺の会話術が惨敗やなんて! 納得いかん!
「ちゃうねん! ここの子らがガード硬いだけやって! ひっかけ橋では二割くらい成功してたもん!」
「惨敗じゃないですか!」
一緒にひっかけ橋行ってた友達にも、惨敗やんって言われた記憶あるけど認めへん。俺が高校生やったから相手が気ぃ使ってただけや、多分。そう言うことにしとかなメンタル死ぬ。
「あの……少しいいですか?」
メンタル瀕死状態で呆然としてるとこに、後ろから呼びかけられる。
「声掛けの成果あったやろこれ!」
ステラとアリアちゃんにドヤってから、後ろを振り向く。そこには、透き通るほど白い肌の大人しそうな女の子が立ってた。ステラとアリアちゃんも目線をその子に向けるけど、
「先程は、失礼な態度をとってしまい申し訳ありませんでした……あの? みなさん?」
俺らは身の危機を感じて固まった。そりゃ、村の入り口でドス利かせてた子に話しかけられたらみんなこうなる。
「あの?」
「あ、すまんすまん! さっきの怖すぎてビビってもうてたわ」
「し、正直な方ですね? でも……ほんと、怖かったですよね。ごめんなさい」
最初に遭遇した時とは全く違う雰囲気で、ギャップにクラクラする。ヤンキーが捨て犬に傘差し出してるレベルの破壊力。
「だ、大丈夫! ギャップ萌えでええと思うで! わざわざ謝るために声かけてくれたん?」
「はい、それと……村の人々に話しかけていたのを聞きまして、悪魔憑きを探しているとか?」
ギャップ萌えって言葉はこの地に存在しやんのか、首をかしげてる。
せやけどこの子、悪魔憑きについてなんかしってんか?
「そうなんです! 何か知ってるんですか?」
「はい、そのことなんですが……」
ステラの問いかけに何か言いかけた時、それを遮るように渋い声が辺りに響く。
「リエル! 戻ってきなさい!」
小太りのおっちゃんが、俺の前に立つ女の子目掛けて駆け寄ってくる。この子リエルっちゅうんか。にしてもちょい走った程度でめっちゃ息上がるやん。体型のせいなんか、歳のせいなんか。
「パパ、ちょっとまだ話が……」
「パパ!? 全然似てへんやん、リエルちゃんママ似?」
「すみません、旅のお方ですかね? 娘は店番があるので……」
俺のちゃちゃをスルーしたおっちゃんがこっちに視線を向ける。おっちゃんが着けてるエプロンと、微かに香る油の匂いで飲食店なんやろなって察した。
「店番なら戻ったらなあかんな、また話聞きに店行かせてもらうわ」
「はい、ありがとうございます!」
めっちゃぱっちりした目ぇキラッキラさせてるリエルちゃん。こんなかわええ子が男ぶっ飛ばしてたもんな、すげぇな。
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