5 呪われろ〜っと、はい! これで終い!
***
螺旋階段を降りて、ちょい歩いたとこが調理場。ふわっと甘い香りが、廊下まで漂ってくる。ええ匂いや!
「素晴らしい香りですわね!」
「せやろ!?」言いながら、調理場の扉を勢いよく開けて中におる料理長に挨拶する。
「料理長! そろそろ新作冷やし終わって……る?」
調理場を見渡すと、調理場に備え付けられたでっかい冷蔵庫にもたれ掛かるように、傷だらけの料理長がぶっ倒れてる。周りには、新作のプリンと卵と牛乳が散乱してた。
なんやこれ!? どーなってんねん! なんで料理長ぶっ倒れてんねん!
「おい! 料理長大丈夫か!?」
「魔王……様……申し訳ございません……お楽しみにされていたプリンが」
料理長に近付き、安否を確認する。めっちゃぼろぼろやのに、料理長は散らばったプリンに目を向ける。
「なに言うてんねん! プリンなんてまた作ればええ! 今は怪我の手当が先や!」
「カナタ様!」
緊迫した雰囲気の中、張り詰めた声色で蛇女ちゃんは俺に、放送用のマイクを差し出す。繋がれた線は、すぐ抜けそうなくらいに突っ張ってた。
設置されたマイクは、城内でステラを呼び出す為に俺がイマジネーターで作った。新作スイーツの味見とか呼び出すこと多いからな。
「ステラ! 至急、調理場来て!」
マイクを掴み、言うた直後にテレポートでステラが登場する。
「どうしたんですか!? 筋肉に異常ですか!?」
フォームローラー抱えてテンパってるけど、落ち着けステラ。ここにきて一年、毎日メンテさせられてるから正常や。って、アリアちゃんもフォームローラー抱えとるやん。
「ちゃうちゃう! この惨状見てみい!」
「そう言うことですか。リカバリー」周りを見渡して、すかさず固有魔法で料理長を癒す。理解が早くて助かる。
生物も、建物の破損も直せるステラの固有魔法【リカバリー】ほんま便利やな。
「何があったんですか?」
冷蔵庫にもたれ掛かってた料理長の傷は完治し、その場で立ち上がる。
「フェル様が、魔都を去られる前に……」
「なるほど、嫌がらせと言うことですね?」
「っちゅうことやろうな。ほんま腹立つなぁ」
オオカミくんカッコつけて出てった癖に、こんなんすんねんもんなぁ。
調理場の空気が一気に重なる。あーあー、えらいもん怒らせてもうたなオオカミくん。俺の横で小刻みに震えとる蛇女ちゃん。めっちゃ綺麗な翠色の髪が、次第に無数の蛇に変わる。これがメデューサ族の本来の姿やな。
「躾が必要なようですわね……」
「落ち着き、蛇女ちゃん」
目つきがいつもとちゃう。本気モードやな。
「カナタ様を侮辱した罪は重いですわ」
「今ここで感情的になったら負けや、せやけど腹立つから呪っとこ」
簡単な呪いなら、素人の俺でもイマジネーターで出来る。どんな呪いにしよっかなぁ〜。語尾にニャンが付く呪いとかにしとこかな。
「呪われろ〜っと、はい! これで終い!」
「カナタくんどんな呪いにしたんですか?」
「語尾にニャンが付く呪いにしたで! 犬面でニャンて笑えるやろ?」
言うた後、場が一瞬静かになったけどアリアちゃんの一言で緊張感が解ける。
「発想が子供過ぎじゃないかしら……?」
「あら? この無邪気さがカナタ様の良さですわよ?」そう言う蛇女ちゃんは、頭に生える蛇を髪に戻し俺を抱き寄せる。
「この良さが理解できないとは、調教が必要かしら? ねぇカナタ様?」
胸元が開いたドレスのおかげで、蛇女ちゃんの肌の温もりを頬で直接感じることが出来る。やらかいし、温いし、ええ匂いで最高か!?
「アリアちゃんはツン九割のツンデレなだけやで! きっと本心では俺のことを溺愛――」
「黙りなさい?」
満面の笑みでかまされたアイアンクローは、俺の顔を掴んで離すことはなかった。これが愛ゆえの束縛……!? いや! ちゃう! めり込んどる! めり込んどる!
「ばび……ずびばぜん……」
***
いやぁめっちゃ痛かった〜。顔に残る痛みを噛み締めながらも、俺の部屋でくつろぐステラとアリアちゃんを眺める。方針話してたのに気ぃついたら女子会なってもうたわ、俺男やけど。ちゅうか、こたつしまってソファー置いたら、部屋の雰囲気えらい変わるな。
「それにしてもカナタくん、この一年魔都を改築していただけですがついに世界を征服しに行くのですね」
「せやな、やっとや! テレポートで中央国行くことはあっても、周辺国行ったことないから楽しみや!」
「善は急げです! 今すぐテレポートしましょう!」
ステラは、アリアちゃんと俺の手ぇ掴んで行く気満々や。ぐだぐだしててもしゃーないしな。
「ちょっと待ちなさい! 大まかにしか方針決めてないじゃない!」
「細かいことはそん時考えよ!」
「行き当たりばったりが旅の醍醐味です!」
不服そうに、頬を膨らませるアリアちゃんをテキトーに流して、ステラは「テレポート」って唱える。行くで未知の世界!
足元に、白く光る魔法陣が広がる。展開された魔法陣は、素早く真上に上がり、俺らを包む。んで次の瞬間には、屋外に出とった。
「やっぱテレポートは便利やな!」
「カナタくんもイマジネーター使えば可能じゃないですか」
確かに可能やけどなぁ。
「ステラが使えるし別になぁ。俺は極力省エネで生きたい」
「考えが腐りきってるわね。それでも魔王なの?」
草木の爽やかな香りに囲まれたのどかな場所。今さらっと、アリアちゃんに腐りきってる言われたけど……。
「まぁそんなことは置いといて、ここどこなん?」
「確かに……どこかしら?」
「西の国ですよ! しばらく歩けば村があります」
真っ直ぐ伸ばされたステラの指は、遠くを指してた。なぁんも見えへんけどな。あ、犬おった。
白い毛並みの小型犬が、軽快なステップでこっちにくる。ちっこい足四本をちまちま動かして。めっちゃかわええ。
「きゃー! わんちゃん!」
高い声で、キャラ崩壊したんはステラ。やのうてアリアちゃんやった。まじすか。
犬に目線を合わせるように、スカートの裾を抑えながらしゃがむ。スカートの裾は、ちょうど膝裏あたりで、やらかそうな太ももに挟まれてる。正直俺も挟まれたい。
「なぁなぁ、キャラ崩壊してんで?」
「なっ……! わ、忘れなさい」
「可愛いわんちゃん見てキャラ崩壊するアーちゃん可愛い!」
我に返るアリアちゃんやけど、犬を撫でる手は止めてへん。そんなアリアちゃんを撫でまくるステラ。これ俺が混ざってもバレへんのちゃう? 「ほ、ほんまかわええなぁ」なんて言いながら、そっとアリアちゃんの艶やかな髪に手を伸ばす。
「触ったら、斬るわよ?」
「うっす、冗談っすよ……」
と、そんな時アリアちゃんに撫でられてた犬がこっちに寄ってくる。可愛らしく愛嬌振りまいて。側でアリアちゃんが恋しそうに犬を眺めて、「キャンディー……」って言葉を漏らす。まさかの命名。どんだけ犬好きやねん。
「よーしよし! めっちゃちっこいなぁお前痛たたたたたたぁ!」
「わぁすっごい噛みつきですね!」
「言うとる場合ちゃうで! 顎の力やばい!」
なんでか知らんけどおもっきり俺の指にかじりつく。腕振っても離れる気配がない。アリアちゃんが、勝ち誇った顔でこっち見てる。助けてくれや、おい。
俺の人差し指から、血が一筋垂れる。
「クゥン……」
やっと離れたかおもたら、垂れた血に視線を移して弱々しい声を上げる犬、もといキャンディー。指に顔を近づけ、キャンディーは血をひと舐めする。
「キャンディー! 汚いからぺってして!」
「せやでキャンディー! っておい!」
脊髄反射的な感じでアリアちゃんに同意したけど、泣くで? 事実やけども!
と、そんな時地面に転がり苦しみ始めるキャンディー。それを見たアリアちゃんが、
「魔王の血は有毒なの!? ねぇ!!」
「いや知らん! どうしよこれ! 獣医! 獣医さぁぁん!!!」
俺の胸ぐらを掴んで、激しく揺さぶるアリアちゃん。
にしてもキャンディー大丈夫か!? こんな危険な血なら先に説明しといて!
「落ち着いてください二人とも!」
ステラの一言にアリアちゃんは、俺を揺さぶる手を止める。
「落ち着いてられへんで! キャンディー瀕死やん!」
「魔王の血に適応している最中なのでご心配なく」
冷静な口調で、キャンデーを持ち上げるステラ。その冷静さに、っちゅうかステラが言うたセリフが予想外で、
「「え?」」
つい、アリアちゃんとハモる。
「ですから、キャンディーは今から魔獣になるという事です」キャンディーを抱え上げ、まじまじと観察しながら、「あ、ほら羽と尻尾生えてきましたよ」
空気が静まる。そんな中、真っ先に口を開いたアリアちゃんが……。
「なんてことしてるのよカナタ! あ、でもこれはこれで……」
不安定な情緒で、また俺に掴みかかる。
確かに、これはこれでありかもな。かわええ。もっふもふで、目ぇくりんくりんで、羽と尻尾がちょこんと。心ばかりの牙もちょろっと。
「なんか、魔獣というか……ゆるきゃら?」
キャンディーをじっくり見て、少し物寂しいような表情で、
「可愛いですけど、目立っちゃうので魔都に送りますね」
「キャンディー……」
キャンディーは魔都に送られた。ステラに抱えられたまま、魔法陣がキャンディーを包み込む姿は割とシュールやった。
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