4 ほんまどないしよ

「くだらない……勝手にやってろ!」

「ちょいちょい! どこ行くねんな!」


 背ぇ向けて、俺から離れていくオオカミくん。その背中からは凄まじい程の怒り、憎しみを感じる。なんか嫌な予感すんな。


「俺は魔都を去る。こんな腑抜けの下に付くなんて馬鹿馬鹿しい。お前が平和的に解決などと言うのなら、俺は真の魔王を復活させ、お前を力でねじ伏せる!」


 オオカミくんが言うた真の魔王って言葉。なんのつもりで言うたかは分からんけど、俺のことを認めてへんってのは確かやな。


 いつの間にか降りてきてたアリアちゃんが、去って行くオオカミくんを見ながら言う。多分ステラが【テレポート】で連れてきたんやろな。


「いいの? あのまま放置して」

「かまへん。あいつが決めたことやからな」

「そうですね。幹部が一人減るのは惜しいですけど」


 両肩を沈ませ、惜しむ様子を見せるステラ。


「まぁなんとかなるやろ! アリアちゃん、部屋案内するわな。ステラの隣部屋」

「ありがとう」


 あんなことなって責任でも感じてんのかな? 複雑な表情を見せるアリアちゃん。オオカミくんが怒ったんは俺のせいやし気にせんでええのにな。


「それにしても、まとめて背負ったるなんて。さすがお助け部ですね」

「お助け部?」

「生前の話はもう忘れたわ。一年経つしな」


 話を掘り起こすステラ。聴き慣れへん言葉に興味持ったんか、アリアちゃんは首を傾げて聞き返す。


 過去は振り返らん。ってスタンスの方がモテるって、友達の友達から聞いたことあるから実践してる。


「ほい、部屋着いたで! 俺は他の幹部連中に細かい話と、今後の方針詰めてくるから、ゆっくりしといて」


 金のぐにゃぐにゃしたデザインが施された、おっきめのドア。それをバッと開けて、丁寧にエスコートする。まるでドアマン。だだっ広い部屋にアリアちゃんは、言葉を失ってる。


 こんなでっかい部屋が何室もあるって、冷静に考えたら凄くない!? めっちゃ豪邸やん。なんとなくの想像で構築してこれって、俺やっぱ天才?


「分かったわ。ありがとう」


 お礼言ってくれるアリアちゃんに、「テラス出てみ、めっちゃ海綺麗やから」言うて部屋を後にする。海は泳げた方がええからなぁ。綺麗にしたけど結構しんどかったなあれ。



 ***



「みんな集まってくれてありが……あれ? 蛇女ちゃんとリラだけ?」


 幹部連中で会議する時に使う部屋のドア開けて、元気良く言うたものの2人しかおらんかった。

 以前集まってもらった時は六人で、丸い机囲んでてんけどな。オオカミくんについてったんやろか。


「そのようですわね。恐らくあの犬っころに賛同したのかと」

「犬っころて……」


 仲間の事を犬っころ扱いするのは、メディー・ストーン。鋭い顔付きで、胸元の開いたドレスを着てる彼女は、メデューサ族の長らしい。


「わたし知ってるなの! 真の魔王を復活させるって言ってたなの! それでね、みんな出ていっちゃってね? 残ったのはリラとメディーお姉ちゃんだけなの!」

「そっかそっか、残ってくれてありがとうな」


 ちっこい体を全力で動かして、薄紫の髪を揺さぶりながら、身振り手振りで説明してくれるこの子はリラ・レ・ルーロ。


 リラは、魔樹の精霊。家具作ろおもて、森に木を伐採しにいったら、魔獣と戦ってるリラ見つけてん。めちゃめちゃ強くてびびったわ。

 名前とか、記憶は無かったみたいやから俺が名付け親! んで、幹部にしてん。娘みたいなもんでもあるな! 愛娘が尊い。


 名前付けたん、別にふざけたとかやなくてな? らりるれろ、ってなんか並び替えたらカッコええんちゃう? っておもただけなんや。ほら、響きもなんかええやん?


「それで、パパ! どうするなの?」


 どないしよかな。一人やのうて、四人も抜けてもうたで。ほんまどないしよステラ。


「この人数では、カナタ様が望む世界征服は難しくなりますわね。駄犬たちも大人しくしていないでしょうし……」

「せやなぁとりあえずは人手増やそか。人手増やさな何するにも不便やもんな。この様子やと他の奴らも結構出てったんちゃう?」


 犬っころから駄犬にレベルアップしてたんはスルーして俺は、丸い机の側に置かれた俺専用のデスクへ身を委ねる。自然な色調の木材でなんかオシャレ感あって好き。


「はい……ですがどの様にして人手を?」

「なの?」


 蛇女ちゃんの発言に、リラが可愛く首傾げて同調する。んー、魔物が無理なら人間さんに協力してもらいましょか!


「魔都といっちゃん近いのって西の国やんな?」

「ええ、そうですわ。まさかとは思いますが……また人間を仲間に?」


 俺の考えを先読みして、蛇女ちゃんが真剣な顔で聞いてくる。人間は戦力的に不安やな、とかおもてるんかな? 


「んー、惜しい! 懐柔してあくまでも平和的に世界征服の方進めながら、オオカミくんたちが喧嘩売ってくんの待つ感じやな! 運良かったら国の騎士利用できるかもやしな? どの国にも騎士おるんやろ?」


 聖都は、東の国、西の国、南の国、北の国が中央国を囲う感じで存在しとる。まずはいっちゃん魔都に近い西の国。その次はテキトーに周り懐柔していくって感じやな。懐柔したら戦う必要ないし、もし戦闘が必要なっても懐柔してたら助けてくれるやろ。


「パパ悪い顔してるなの!」

「確かに悪い顔してますわね。ですが、いい案ですわ。騎士なら利用価値のある固有魔法があるかもしれませんものね」

「せや! ちゅうかこんなイケメン相手になんちゅう事言うんな! 魔王泣いてまうで?」


 悪い顔してる言われたけど、蛇女ちゃん俺の考え察してくれたな。

 この世界は、炎、水、風、土の基本魔法に加えて、固有魔法っちゅうのが存在してるってステラに聞いた。


 一応、俺のイマジネーターも固有魔法らしい。固有魔法は一人一つっちゅう設定やのにステラは、二個持っとんねん。せこいよなぁ。ゲームで言うとこの、バグみたいなもんらしい。


「まぁ冗談はさておき! しばらくはこの方針でええか?」

「ええ、私はカナタ様に従います」

「いい! なの!」


 よっしゃ! 話はこれで終い! 俺の無茶に付き合わすお礼せなな。


「おおきに! お礼に新作のプリンご馳走するわ!」

「新作ですの!?」


 めっちゃ目ぇきらっきらさせて、息を荒げる蛇女ちゃん。頬を赤く染めて、期待に胸を膨らませてる。めっちゃでっかい。

 まぁ期待すんのも無理ないわな! プリン美味いもんな! 


「せやで! 怪鳥の卵で作んの臭み出て手こずったけど、蒸す温度変えたら激ウマで優勝!」

「怪鳥を!? 以前は聖都まで出向いて仕入れていた鶏の卵でしたわよね? 味は変わりますの?」


 中央国にこっそり、ステラのテレポートで買い出し行った時にこの世界に鶏おんのかい! ってなったわ。魔都には全然食材ないしな。


 聖都は日本と変わらんレベルの豊富さやし、格差を感じたわ。ま! 近いうちに度肝抜いたるから覚悟しときや〜。


「まぁまぁ、違いは自分の舌で感じ? ほな、調理場まで取りに行くわ! 手伝ってくれる?」

「もちろんですわ!」


 興奮する蛇女ちゃん連れて、調理場まで向かう。会話に置いてけぼりで不貞腐れてるリラを宥めて。ちっこい子に手伝わすのはなんか申し訳ないしな。

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