3  俺らと一緒に、健全な世界征服しやん?

 俺の質問に、おもろそうなもん見つけた子供みたいな表情で笑うアリアちゃん。おもろいもんみつけたら、何歳なっても自然と笑顔になるよなぁ! わかる! アリアちゃん案外、俺と馬合うかもな。


「おおきに! ほな早速本題や。俺らと一緒に、健全な世界征服しやん?」


 少しの静寂が訪れる。


「は、はぁぁあ!?」


 ワンテンポ遅れて、アリアちゃんがめっちゃ驚いた。ええリアクションするなあ。


「あなた正気なの? 洗脳されていたとは言え、敵同士なのよ?」

「俺はいつだって正気やで。この世界には私利私欲の為に動くやつが多すぎんねん。周りのことなんてお構い無しでな。このまま放置は出来へん。協力してくれへんか?」


 付け足して俺は言い放つ。


「アリアちゃんは罪の無い人間が傷付けられるのは嫌やろ? それは魔族も同じ考えや。罪を犯したやつだけ裁けばええ」


 まだ疑問が残ってるかの様な雰囲気で答える。


「確かにあなたの言う通りね」

「せやろせやろ! だから、な?」

「分かったわよ……」


 呆れながらも言葉を続ける。


「あなた元々は人間なんでしょ? なのに魔族の味方をするのね」

「今は魔王やからな!」


 俺はアリアちゃんに、にかっと笑ってみせた。


「これから一緒に頑張りましょうね! アーちゃん!」

「よろしゅうな! ほい、握手!」

「ど、どうして握手なのよ!」


 俺は右手をずいっと差し出す。赤面して後退するアリアちゃん。テンパって、部屋に響く程の声で叫ぶ。そこまで嫌か?


「まぁまぁ! 仲直りっちゅうことで! もしかして照れてんの?」

「照れてないわよ!」


 煽ったら、怒りながらも握手してくれたけどな。


「私も握手したいです! アーちゃん!」


 俺と握手したアリアちゃんに目線を向けて、ステラが上目遣いでおねだりしてる。アリアちゃんよりちょいちっこいステラの上目遣いは、絶妙な距離感で破壊力強いな。


「ほな! 仲直りも終わったことやし、魔物たちへの報告行こか! 人間が城内おったらびっくりするやろうしな!」

「そうね、でも報告しても混乱にはなるんじゃ無いかしら?」


 混乱にならんかを心配するアリアちゃん。それを安心させようとするステラ。


「心配ないですよ、アーちゃん! 何たってこの城のトップ二人、私たちの信頼は厚いですからね!」

「自分で言うんかい! まぁ混乱にはならんと思うけどな。アリアちゃんが何回も俺に挑んで、勝ててへんことはみんな知ってるからな!」

「うるさいわよ!」


 俺も安心させるようにちょい、いじってみる。雑なツッコミで流されてもうたけどな。


 城内をキョロキョロ見て回るアリアちゃんを連れて、城の連絡塔へと向かう。なんか伝えたいことある時は、高いとっから叫んだ方が早いからな! これも俺の力で作ったもんや。


「それにしてもあの城、魔王城とは思えないほどの綺麗さよね。国に伝えられている話では、魔都は目に見えるほどの禍々しい魔力で満ちていて、魔王城もトラップだらけって……」

「薄気味悪かったからリフォームしてん! 城も、魔都全体も! 大体、聖都は綺麗で明るいとか不公平や! 細かいとっから、改善していかなな!」


 不思議そうに聞いてくるアリアちゃんに、ビシッと答える。会話してるうちに連絡塔へ到着する。魔王城、最上階よりちょい低いくらいの高さの連絡塔。魔都が一望できるように屋上へ行く。


 これほんま便利やわ。城の裏側の魔物が住んでる位置、いわば魔物ストリートに建てたからいちいち城に魔物集める必要無いしな。


 あ、てか連絡塔やのうてスピーカーとかにしたら移動する必要なくない!? なんで建てる前に気付かんかってん……。


「はいはい! ちゅうもーく! 報告あるからみんな聞いてな!」


 綺麗に整えられた、っちゅうか俺がパリの街並みをイメージして家や店の配置を整えた魔物ストリートに俺の美声が響く。


 おっきく声張ったものの、なんて伝えたらええか迷う。あぁ、パリ行ってみたかったな……めっちゃオシャレな店でコーヒー片手に、金髪のお姉さんとお話したかった。


「えーっと、今日から、アリアちゃんが魔都で住むことなったから仲良うしたってな! 以上!」


 ざわざわしとった魔物ストリートに住む魔物たちがピタッと静かになる。


「ふざけるな! 人間が、どれだけ俺たち魔族を殺したと思っている! 魔王だからといって好き勝手にしすぎじゃないのか!?」


 そんな中、連絡塔を見上げて不満をぶちまけてくる魔物がおった。モッフモフの魔物、狼と魔人のミックスやったと思う。確か魔王軍幹部やったかな。フェルって名前やった気がする……。そこら辺まだ覚えれてへん。ちゅうか毛だらけで目つき悪いて、猫か! 


「信頼、厚いって……言ってなかったかしら?」


 激おこの魔物を見て、冷ややかな視線を俺とステラに向けてくる。冷たすぎて凍えてまうでほんま。


 大声出すのしんどいし、屋上からオオカミくんの前まで飛び降りる。左手を支えに、颯爽と空中へ飛び込む。これマント着けてたらかっこよかったかな。検討しよ。


 風を体に受けながら、徐々に加速しつつ降りていく。てかこれ落ちてへんか――


 ――痛っ! 着地ミスってもうた……。くっそ痛いけど我慢せな威厳が……。


「ま、まぁまぁ落ち着きいなオオカミくん! 魔族かって人間殺してるやん? やられたらやり返すって考えが、人間と魔族の関係拗らすんやろ。どっちかが歩み寄らなあかん」


 激おこオオカミくんに語りかけるように言う。


「黙れ! お前は、大切な家族や恋人を殺された者に! 後悔や憎しみを一生背負えと言うのか!?」


 落ち着く気配もなく、胸ぐら掴んでくる。見かねたんか、ステラがベランダから叫んでる。


「オオカミくん? このような方でも一応魔王ですよ? 口を慎んで下さい」

「かまへんかまへん! なぁオオカミくん、文句あんねんやったら拳で語りいな。男がピーピー喚くのはみっともないで?」


 挑発に乗ってきたオオカミくんが右ストレートを顔面にぶち込んでくる。俺を吹き飛ばそうと思ってたんか知らんけど、微動だにせん俺を見て唖然としとる。


 数うちゃ当たるの精神に切り替えたんか、赤い猫の地縛霊を彷彿とさせる程のラッシュを繰り出す。辺りは砂埃が舞い、視界が遮られてる。


 せやけど、こんなしけた攻撃俺には通じへんで?

 砂埃がはけて、ちらっと見えたオオカミくんの表情は余程自信あったんか、ドヤってる。


「手も足も出ない雑魚が! 歴史ある魔王城や魔都を変えるだけじゃなく、挙げ句の果てには人間を住ませるだと!? 調子に乗りすぎだ!」


 怒りに身を任せてるって感じやな。まぁ長い間封印されてた魔王が目覚めたってのに、こんな適当なやつなら嫌気も差すか。でも、冷静さは無くしたらあかんなぁ。


 てか封印されてたってより、元からおったって設定で良かった気がするでステラ。まぁ死者役員? が決めた設定ならしゃーないけど。


「気い済んだか? とりあえず落ち着きって」


 こいつ一応、幹部やろ? 俺があえて殴られてたん気付かんかったんか? もうええわ。一発殴っとこ。


「……ッ!?」


 やっば……めっちゃ飛んだ。油断してたんか? 雑魚すぎんぞとか言うたら余計怒らせてまうかな? 身体能力をある程度転生の時にいじってもらってるとはいえ、幹部ぶっ飛ばせるとはなぁ。


 でもこれ以上殴り合いなったら溝深まるやろうし、無難に説得しか選択肢ないな。


「大事なもん奪われたらそりゃ辛いし、憎いわ。その気持ちはめっちゃわかる。でもやり返したら憎いやつとおんなじなってまうやん」


 横たわるオオカミくんをしっかりと見据えながら、吹っ飛んでった方に歩いて行く。


「だから俺は流れを変える! 勝手に城変えたんは堪忍な?」

「だからといって! 死んでいったやつらの無念を晴らさないのは死者への冒涜だ!」


 こいつらはこいつらなりに苦労してんのは分かってんねんけど、やり方があかんねんなぁ。やられたらやり返すて、ほんまセンス無いわ。


「お前らが背負ってるもん、俺がまとめて背負ったる! 死んでったやつらの無念も俺が晴らしたる! せやからお前らの力は、復讐の為やのうて、現状の改善に使ったってや、平和的に解決しよ!」


 オオカミくんだけやのうて、全員に響き渡るように叫ぶ。

 もう人間との不毛な争いはもう終いにせなな! 俺がぜんぶ背負ったらこいつらはもう手ぇ汚さんで済むしな。だからって、俺が人間を血祭りにする訳ちゃうけど。あくまで健全な世界征服や!

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