2 イマジネーター
***
どんだけ時間が経った頃やろか、腕にやらかいもんが押し付けられてるのを感じる。次第に下卑た声が鼓膜を刺激し、意識が戻ってるのに気付く。
「着きましたよ……ぐふふ……ふひっ!」
「ん? もう異世界? てか何してんステラ」
目ぇ覚ましたら、薄気味悪いほどに暗い景色の中、アホほどでかい城とアホほどでかい湖が目に入る。
「おっと失礼しました。転生後のビジュがあまりにも、私好み過ぎまして」
それと抱きついてるステラ。この感触はおっぱいやったか。
そう言うた後、ステラは俺に湖で姿を確認するように促す。俺は言われるがままに湖に近付く。めっちゃ汚くて濁ってるけど、一応姿は確認できる。
「うわっ! 誰やこいつ! なんで半裸やねん!」
「その姿が、この世界でのあなたの姿です。特にこの細マッチョ感がたまりませんね~! 関西弁細マッチョ! あ、これ脱がした服です」
「おおきに……ってステラが脱がしたんかい!」
ステラが言う通り、すらっとした身長に引き締まった筋肉。ザ細マッチョ。顔は爽やか系に分類されると思う。
我ながら、イケメンやん! そんなことを考えながら、渡された黒い服に袖を通す。『後で脚の筋肉も堪能させてください』って言うてたステラは無視した。てか服が黒で、髪が紫てなんかどこまでも闇って感じやな。
「いや~本当に、いいビジュですよね。生前も肉体は良かったんですけど、顔が塩だったんですよね~。それが今や爽やかイケメン、完璧ボディー! 最強ですね!」
「なんで軽くディスられとんねん生前の俺。『最強ですね!』やないねん」
ぐるぐると俺の周りを移動して、身を焦すほどの熱視線を向けてくるステラ。おっさんに視姦される女の子ってこんな気分なんかな。可哀想に。
「てか、服なんとかならんのか? おっぱい見えそやで?」
「大丈夫です! 見えそうで見えない仕様です! あなた以外には!」
少し頬を染めながら、両手で胸をぎゅって真ん中に寄せる。どーやらステラは相当、頭が悪いみたいや。でもめっちゃやらかそう。
「俺にもその仕様、適用せんかい!」
「嫌です! 欲情させて、その堪能しがいのある筋肉で食べていただく作戦なので!」
ニットの胸元を指で引っ張って、二つのやらかそうなもん見せつけてくる。今にもこぼれ落ちそう。これはもうあかん。頭悪いの域を軽く超えとる。どっちが捕食者か分からんで。でもめっちゃやらかそう。なんかプリン食べたなってきた。
「男の人はこういう女の子が好きなんですよね?」
「人によるんちゃう? 俺はちょいエロくらいが理想やなぁ。露骨なんはなんか微妙」
俺の言葉を聞いて、ステラは頬を赤く染める。瞳に少し涙を浮かべてて、なんか罪悪感ある。服装も相まってか、色気がすごい。
俺の為に無理してくれたんかな。んな訳ないか、初対面やしな。
「わかりましたよ! 着替えます!」
不貞腐れたように言うて、親指と中指をこすらせてパチンと指を鳴らす。両肩と胸元が露出してたニットは、露出度の低い黒と白の服に変わる。なんかシスターみたいなやつ。神秘的なオーラは残ってる。いや、増してんな。何その凄技! 早着替えの域超えてるやろ! 俺もやりたい!
「さっきまでと比べたらめっちゃ大人しなったな! かわええで! ステラ」
「そんなにストレートに言われると、照れるじゃないですか……ありがとうございます」
ちょい照れながらぼそっと言うステラ。指先でクルクルと髪を遊ばせる姿にかわええなぁ。なんて思った。お互いドギマギしそうやから、話題変えよ。
「それにしても俺、全くの別人になってもたな。てか周り暗すぎん? 向こうの方めっちゃ明るいのに。なんか気分下がる――」
言うてる間に、じわじわと周りのモヤみたいな暗さが消えていってる気がする。
「ここは魔都、向こうの明るい場所は聖都です。簡潔に言うなら魔物と人間の住む所を分けたって感じです」
ステラが指さす方向へ視線を送る。鮮やかな青い海挟んで、向こうにちょっと見える聖都は遠目やのに栄えてんのが分かる。てか海こっち半分だけ汚くない!? 気のせいか?
「魔都は太陽を遮るほど、魔力が濃いんです。魔力に影響されて、魔都の自然は壊滅――あら? 早速、力を使ったんですね」
優しく太陽が周りを照らしてって、魔都の悍ましさが和らいでく。
「あ、やっぱ明るくなってるよな。これが俺の力? 景色変えるだけ?」
「いえ、想像した事を実現できる力です! 【イマジネーター】と名付けましょう!」
俺が明るかったらええなぁ思たから、無意識に力使ったってこと? この力凄すぎん? 地味やけど。てか能力名みたいなんテキトーすぎんか?
「まじで!? それやりたい放題できんちゃん!」
「できます! ですが、魔力量や何らかの制限で実現できない場合もあるので地道に使いこなしていきましょう」
まじかよ……! 制限付き言うても、結構便利そうやな。地味やけど。
「よっしゃ! ほな、ぼちぼち健全な世界征服と行こか〜!」
「はい! よろしくお願いしますね! 魔王カナタくん」
「魔王カナタってなんかダサない!?」
「気のせいですよ?」
くすくす笑うステラ。もう楽しけりゃ何でもええわ。
「あ、言い忘れてたんですけど、この世界ではスローライフを満喫してくださいね? ぶっちゃけ世界征服は二の次でいいので! カナタくんは人の為に動き過ぎますからね」
「はいよ、しっかり満喫させてもらうわ!!」
さらっと爆弾発言した気がするけど、まぁええか。
***
「――てな感じで俺が魔王になったんよ。で、力使って洗脳魔法使ってるやつ探したんよ。理解出来た?」
我ながら雑な説明やな思いながらも、アリアちゃんに話しかける。人探しめっちゃ手こずったから一人しか分かってへんけど。
「気になる所は少しあったけれど、大体は理解できたわ」
「そか! なら良かったわ! で、どーする? 洗脳解いてええか?」
「そうね……お願いするわ」
唸るような仕草をしながらも、話し終えたらキリッとしたご尊顔をこっちに向けるアリアちゃんに近付き、頭にそっと手を置く。アリアちゃん割と背ぇ高いんよな。
目ぇ閉じて、意識を集中させる。モヤを周りに散らすイメージ。雷雲みたいな黒さの霧がアリアちゃんを覆ってるのを感じる。それを外へ散らす。
一瞬で散らし終わって、辺り一面が輝く。光がアリアちゃんを包み込んでキラキラ輝いてる。やのにあんま不快な眩しさじゃない。
光が収まりアリアちゃんが視界に入る。目ぇ閉じてるからか、まつ毛の長さが際立ってる。
「気分はどや?」
洗脳を解くと同時に、書き換えられてた記憶を元に戻した。書き換えた跡とかも分かるみたいやなこの能力。
「洗脳が解かれたことは清々しい気分だけど、団長がした行為は許せることじゃないわね。それに、さっきはごめんなさい。あなたの言葉を聞こうとせず一方的に決めつけて……」
「それくらいええよ! 結局聞いてくれたんやし。そこで最初にゆーたことをもっかゆーで?」
アリアちゃんは覚悟を決めたような顔つきでこっち見てる。
「アリア・イースト。提案がある、話だけでも聞いてくれるか?」
「ええ、聞かせてもらうわ」
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