魔王に転生してもうたし、ちょっくら世界征服にでも行きまっか!
真白よぞら
1 魔王で正義てなんかダークヒーローみたいやしな!
魔王城の最上階、魔王の部屋。凍てつく空気感の中、己の弱さを隠すように白銀の鎧を身に纏った女の子が、光り輝く長めの剣を俺に向けてる。
この女騎士とは、幾度となく力をぶつけ合ってきた。女騎士はいっつも最初に気合いを入れるためか名乗りを上げる。
「我が名はアリア・イースト! 東の国を護る! 誇り高き騎士!」
名乗り終えたら、強く握ってた剣をさらに強く構え直し、体を深く沈める。その動きに鼓動するように、落ち着いた色調のブロンドヘアーが、しなやかに首元で揺れる。
「飽きへんなぁアリアちゃん! そんなことよりこっちきいや! 寒いやろ? こたつ温いで」
「そうですよアーちゃん! 争いは無益ですよ! 一緒にタコパしましょ? たこ焼きパーティー!」
「黙りなさい! あんた達のその軽口、今日こそ叩け無くしてあげる」
こたつの上に広げたたこ焼き器と、アリアちゃんを交互に見る。洋式の部屋にぽつんと佇むこたつはめっちゃ違和感あるけど、この安らぎは最高やな!
「まぁまぁそう言いなや、今日はアリアちゃんに提案があんねん」
「誰があなたの提案なんて――」
アリアちゃんの話を遮るように、こたつでたこ焼き食べてた俺の相棒――ステラが立ち上がり、アリアちゃんの口にたこ焼きを放り込む。結構えぐない?
「あふっ! にゃにしゅんにょよ!」
「ゆっくりお食べ! アーちゃん」
熱すぎたんか、咄嗟に後ろに身を引く。真っ白で透き通るような綺麗な両手で口を覆い、瞳にはちょっと涙を浮かべてる。
熱々のたこ焼きでこのリアクションて、芸人向いてんちゃん。今度おでんも食べさせてみよ。ま、そんなことは置いといて話進めよか。
「なぁ、俺らはなんで戦ってんのや?」
「しょ……しょんにゃの……」
言葉に詰まるアリアちゃん。まだ、たこ焼きが熱いみたいで呂律が回ってへんけど。
「分からんやろ? そりゃそうやん」
「どういう事かしら?」
苦労しながらも、ようやくたこ焼きを飲み込んだアリアちゃん。何事も無かった様に聞き返してきた。なんて説明しよかな。
たこ焼き機に焦げて張り付いた生地を、木製の柄が渋いたこ焼きピックで、ガリガリ削り取りながら考える。ほんまはプレート傷付けてまうからピックで取るのはあかんけど、ついついガリガリしてまうんよなぁ。決めた! シリコンのピックに変えよ。
「東の国の騎士団長。えーっとなんて名前やっけ、まぁええか。そいつがアリアちゃん達に洗脳魔法かけとるんよ。魔族が完全に悪ってことに記憶書き換えたりな」
まぁ正確には騎士団長が、洗脳魔法使える部下に命令してるっぽいけど。
「適当なことを言わないで! 団長がそんな事をするわけないでしょ」
怒りを現すように、力強く足を前に踏み込むアリアちゃん。やっぱそんな反応なるわな。洗脳されてるし、自分の上司やもんな。どないしよかな。洗脳解くのはパッと出来るけど、その後がめんどそうやしなぁ。
「昔話をしよかアリアちゃん」
「……いきなり何よ」
「とりあえず聞いてや。俺の秘密を」
ほな! にっこりスマイルで回想いくで〜!
ーー義理と人情の街、大阪。今日も賑わうこの街で、俺は息を引き取った。原因は過労らしい。
「鈴木叶太さん、まずはようこそ死後の世界へ」
ニコッと笑ってそう言うたんは、目の前におる黒髪の女の子。肩と胸元が露出された白ニット着てギャル風やのに、なんか神秘的なオーラ纏ってる。
「なんやここ。俺死んだん?」
「あなた、おばかさんなんですか? 人の為に死ぬまで動き続けるなんて……」
俺の質問は、うっすら白く光る何も無い空間で、明らかに呆れたように返される。なんやこの失礼な姉ちゃんは。
「まずあんた誰なん? なんで俺のこと知っとん? いきなりおばかさんとか、失礼な人やなぁ」
「申し遅れましたね。私、ステラと申します。あなたのことは全て把握してます!」
すらっと細い人差し指を、ピンと自分の頬の前で伸ばしながら、言葉を付け足す。
「何故、把握していたかと言いますと、あなたに魔王になっていただこうと思いまして調べてました!」
いたずらな表情でくすくすと笑う。何を言うとんのやこの姉ちゃん。異世界転生っちゅうやつか? いやいや! 流石にそれは無いか? 部活してアニメ観ての生活で麻痺ったか? でも目の前におる姉ちゃんはやけにリアルやしな。
「なぁ、アニメとかなら普通は、すんごい力貰って悪もん倒せっちゅうやつちゃうの? それやのに俺が悪もんなんの?」
「いえ。ごく普通の異世界なら魔族が完全悪ですが、今回行っていただく所は人間の方が悪って感じなのでテンプレ通りに、正義として転生してもらいます。魔族もちゃんと悪いのもいますけどね」
俺の中で引っかかってたことを聞いた。この姉ちゃんは手を口元に添えてくすくす笑って、サラッと説明した。今テンプレとか言うたでこの人。てかほんまに転生やん! 考えてることようわからん姉ちゃんやな。俺がアホなだけか?
「いや、異世界な時点で普通とちゃうで? でもまぁええわ。わかった! この話乗るわ!」
めんどそうやけど、今はそんなんどーでもええ! 細かいことは後々分かるやろ、知らんけど! なんやえらいわくわくすんなぁ! 魔王で正義てなんかダークヒーローみたいやしな! カッケェ!
「そう言っていただけると思っていました。ありがとうございます」
「それと一個ええか? なんで俺なん?」
こんな転生系って何基準で選ばれんのやろな。
「本日あちらに、死者を転生という形式で送る事になったんです」
「それで? 今日死んだんが俺だけやったん?」
ステラは両手を軽く胸の前で合わせ、にっこり笑って礼を言う。んで、すぐに真顔に戻る。
「いいえ。残念なことに毎日、沢山の方が世を去っています。ですが大阪で亡くなられたのはあなただけだったんです。珍しい事もあるものですね」
「大阪じゃなかったらあかんかった理由は?」
「私情です!」
でっかいガッツポーズして言い切る。くりんとした目ぇキラキラさせて言うステラにちょっと気圧される。あかん意味わからん。
「私! 関西弁が好きなんです! これから共に生活するんですから、少しでも萌える方がいいじゃないですか!」
「あ、せやったらしゃーないな……って、なるかい!」
「あぁぁぁぁ!! 好きぃ! 先程から 感情を押し殺すの辛かったんですよ!」
悶えたように、膝から崩れ落ちるステラ。この子、美人やけどなんか性格がやばそう。残念美人ってやつか? てか渾身のノリツッコミがスルーされてもうた。
悶えてるかおもたら、スパッと立ち上がりぐいぐいと距離を詰めるステラ。そっから俺の手ぇ握って、ぶんぶんとめっちゃ振る。
「ちょい落ち着きいな! てか、共に生活って……ステラも異世界転生すんの? でもステラ生きてるし転移か」
「んんっ! 取り乱しましたね。よく考えてください、ここは死後の世界。どんな世界にも管理者って必要なんです。死者を管理するのは死者、生まれ変わらせるのも転生させるのも私たちの仕事なんです。」
悪戯な表情を見せるステラ。
「転生させる場合は、担当の者もセットでって規定なんです。よって私も転生します! あなたの相棒です! ですが死者職員の私はビジュアル変わらないんです……面白みが無いです」
なんかよう分からん事言うとる。死者職員ってなんや? 考えるより聞いた方が早いか。
「なぁなぁ死者職員ってなんなん?」
「死んで尚、未練がある人間が就かされる仕事です! それと、先程言っていたすんごい力は授けます」
「お、おう。そりゃおおきに!」
ドヤァって感じで言うた後に優しく微笑むステラ。その後、瞬時に話を逸らす。マイペースやな。
それにしても未練か……。ステラの未練ってなんやろ。てかあいつも未練あったりしたんかな。死者役員なってたりしてな……あかん! もう細かいことはええわ! 頭、痛なってまう。それより……。
「なぁ、人間の方が悪って言うてたけど、人間全員悪いん?」
人間全員悪いってのはなんか嫌やなあ。魔王なるみたいやけど、俺人間やしなぁ。
「いいえ、一部の者のみです。洗脳魔法を使い、人々を操っているようです」
「洗脳魔法……そんな魔法あるんか。つまり、その魔法使うやつぶっ倒せっちゅう事か」
あんま荒っぽいことは好かんねんけどなぁ。不意打ちとかじゃないと勝たれへんで? 知らんけど。
「はい! 困っている人、困っている魔物を助けましょう! 悪い人を倒して世界を変えましょう! つまりこれは、健全な世界征服です!」
「助けましょう……か」
とびっきりの笑顔のステラ。正直、俺にそんな大それたこと出来るんかって不安はある。めんどくさがりな自覚あるし、そもそもあんなことあったし……いやいや、あかんあかん! 後ろ向きなんな! あの日誓ったやろ! 俺にできる事は全部やるって。
「なんやようわからんけど任せとき。俺がまるっと面倒事、解決したる!」
困ってる人見て、見ぬフリなんて俺の生き様に反するからな! やっぱ俺ええやつやわ……ってツっこんでくれる人おらんから、ただの痛いやつになってまうやん。
「頼りにしてますよ。それでは行きましょうか!」
期待通り! みたいな顔で言うステラ。
え、もういきなりスタートなん? 力とか授けられた? そんな俺の不安を悟ったんかステラが言う。
「力は授けてあります。向こうに着けば自然と使えるようになっているのでご安心を」
なんや良かったぁ。さすがファンタジーやわ。
眩い光に包まれ、次第に意識が遠のいて、体の感覚も鈍ってく。
なんか昇天する時とおんなじ感覚。昇天したこと無いから、憶測やけどな! めっちゃ疲れてる時、ベットに飛び込んだ時の気持ち良さって言うた方がしっくり来るかも。
あれ? でも俺死んでもうたんやっけ? まぁなんでもええや。
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