第24話 終焉の始まり








 レンはミュナが居なくなった後王城の一角に住む事になった。

これは一瞬で多くの魔術団員を屠る事が出来るレンの力を危惧して、対処しやすい様に王城に住まわせる事に上層部の話し合いで至った為である。


 その部屋の中で毎夜レンは享楽に耽り、その扉の前には衛兵が数人控えている。

中から喘ぎ声が漏れてくるが衛兵達は騎士団長から大まかな事と次第を聞いており、命懸けの任務と知っているために気を抜けず常に緊張感を持って業務に励んでいる。


 そして担当になった者達は皆、令嬢達がレンの機嫌を損なわせない事ばかりを毎夜祈っているのである。




「レン様、よろしくお願いしますわぁ」



 隣の部屋の続きドアから茶色のウエーブがかった髪を横に流した女が入って来た。女は隣の部屋で着替えてきた様でガウンを羽織っている。

女がガウンを床に落とすと透けたシュミーズが露わになった。

この女の他にも他にも数人の女性がレンの近くに侍っている。

その女性達も皆薄い夜着姿である。



 レンはミュナが居なくなると、ノーヴァンやバレンスの様に眷属にせずとも会話をする魔法を編み出した。会話をする必要も無いがミュナが去り、眷属のノーヴァンやバレンスも近くにいる必要性が無くなり必要な事を伝える人間が居なくなったので半径1.5メートル以内に入った者の会話は出来る様にした。


だが、この事が厄災を生み出すきっかけになってしまう。



「あの、ゆなとかいう女と縁を切って正解でしたわね?色んな男に股を開く様な阿婆擦れですのに、レン様の優しさに漬け込んで付き纏って・・・。」

『・・・』


 透けたシュミーズを着た女はベッドに横になるレンの隣に座り、ガウンを羽織っただけのレンの逞しい胸元に手をするりと入れると筋肉の凹凸に沿って這わせ頭をレンの肩に寄せる。

娼婦と言われても「そうだろうな」と思わせる程に恥じらいなど一切ない。

それなのに自分たちの事は棚に上げてミュナの事を嘲るが、勿論ミュナにそんな事実は無い。他の女が反対側からレンの口に果物を含ませる。



「最後は護衛魔術団員と駆け落ちして国を出たらしいですわね?レン様がいらっしゃらない間に浮気までしているなんて信じられませんわ!!ーーーでも私はレン様一筋でしてよ?」



 レンの胸に猫が擦り寄る様に頭を擦り寄せた後、上目遣いでレンを見上げる。

女は身体を一度起こすとシュミーズの片方だけ肩紐を下ろし胸を露わにし、レンの手を取り自身の露わになった胸に手を押し付ける。



「レン様のお側にいるだけで私はこの様に鼓動が激しくなりますの・・・。レン様・・・愛していますわ」


『ーー貴様の言う事は理解できぬ。』



「はい?」



『別に好いた男がおれば性欲を発散させても問題なかろう?何故一人で無ければならん?我にとってアレは特別であったが他の者と交わったとて些末事であろう?我とて欲を発散させる為に発情期の魔物の様な貴様にですら我と空間を共にする事を許しておるのだぞ?』


「え??いえ、え?発情期の魔物・・・?あの、私・・・変な事申しましたかしら??」



 予想していた反応と違った令嬢は戸惑いを隠せず、レンの言った事を脳内で処理できずにいた。他の女達もきょとんとした表情である。



『人間は性欲を発散させる為の職業があると聞いたぞ?それがあると言うことはつがい以外のと交わる事を認めておるのでは無いのか?』


「そっそれはございますがっ!あれは恋人等いないものが頼るのでございますわっ!恋人や奥方が自身の恋人や夫が自分以外の女と男女関係を結んでいる事を知ったら、軽蔑したり大喧嘩をしてしまう女性が大半ですわ。もし何も言わないので有ればそもそも相手に関心が無いのでしょうけれど・・・」



 レンは女に言われて、改めて自分が他の女と情事を交わしてからのミュナの事を思い返してみる。


 そういえばミュナは我が他の雌と交わる事について一切触れては来なかったな。

アパートに帰らなかったがその事も一切触れておらん・・・。

此奴の言うことが本当であるならば、我が帰らずとも気にすら止めておらんかったのか?



「後は資産家とか裕福でしたら気持ちはなくても側にいますわね。政略結婚で相手の爵位が高ければ外で愛人を作ってもこちらが何も言わず諦めたりしますわ」



 女は余計な事ばかり喋ってしまう。



 共に買い物に行き、棲家を提供してもらう代わりに食事を出し、共に寝て交わって・・・。我は命尽きるまでアレと共にするつもりであったが、望んでいたのは我だけであったのか。



「私もつい最近までは良縁が無ければ、資産を多く持った高位貴族の後妻で構わないと思っておりましたわ。御老人でしたら少し夜の営みを激しくすれば、すぐ腹上死する可能性が高いですもの。ふふ、そう思っておりましたがやはりレン様の様な・・・」



 女が喋る後半はもうレンの耳には届いていない。



 この世界に来てもどいつもこいつも我の事を年寄り扱いしおって・・・。

アレも我の事を年寄りと思って相手にしていなかったのか?

我は12万年生きて初めて感じた殺戮とは違った充実感を感じておったのに、アレは何も我に感じてはくれなかったのか?

 ーーあぁ・・・この渇望はなんだ?破壊と絶望を求める時とは何かが違う・・・。だが何かが我の心臓を不快なものが絡み付いてくる様なこの不快な気持ちはなんなのだっ!!!

あぁっ!!!忌々しい忌々しいっ!!!何もかも忌々しい!!


 ーーーこれはアレを消せば治るのか・・・?




 ーー我に心を傾けていたのは見せ掛けであったとはな。魔王われを籠絡するとは面白い、この星を羽虫共が住めぬ星に変えてくだらぬ羽虫共を1匹残らず駆除してやろう。





『ーーー羽虫は所詮羽虫よな』

「え?いまなーーい゛だっ!!いっ痛い゛です!!おやめ゛くださいっっ!いぎゃあぁぁっーーーーっっっ!!!レ゛ンざーー」



 未だに女自身の胸に押し付けていたレンの手の爪が、ぐしゅりと刺さり絹の様な肌に傷を付け血を流させる。女は必死にレンの手から逃れようとするが、指は深く入り込んでいて逃れる事が出来ない。顔から様々な水を垂れ流し髪を振り乱しながら必死の形相だが、周りに侍っている令嬢達はただただ震えて固まるしか無い。


 女は最後まで言う間もなく、レンの手によって消し飛ばされた。

血が飛散し掛かった周りに侍っていた女達から魂から出た様な悲鳴が上がる。




衛兵は中の悲鳴を聞いた後、急いで騎士に連絡した。

何かあった時、衛兵には荷が重過ぎる警戒対象者である事から何かあった時は踏み込まずに騎士に連絡をする様に伝達をされていたのだ。


 





♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎




 時同じ頃、ノーヴァンは寄宿舎に戻り異界に関する書物を読んでいた。

ふと異質な気配が室内に入り込んだのが分かった。



「君は魔族か?」


 ノーヴァンは本を読んでいた体勢のまま異質な者に尋ねる。



『はっ。私は前魔王の側近ベアルと申します。』

「私になんの用ですか?」

『魔族の習性をノーヴァン様はご存知か聞きに参りました』


「習性?ーー何のことですか?」


 ノーヴァンは余計な事をこの魔族が自身に吹き込もうとしている可能性を考え殺気を放ち牽制する。


『ぐっ・・・ご容赦願います・・・。

ノーヴァン様の主は魔族でございますね。あのお方は何故つがい様を手放されたのかが不自然であったのです。ノーヴァン様が片腕を落としたメセラダを覚えていらっしゃいますでしょうか?あの者と話した結果、ノーヴァン様にはお伝えした方が良いだろうという結論に至り私が参った次第です』


「まぁ聞こう。長くなるのでしょう?そちらにお座りください。」


 悪意があれば切り捨てれば良いかと思い、とりあえず魔族の話を聞いてみることにした。勇者として召喚されたのは魔族では無いかと以前から気にかかる事が多かった為、この話はどこか腑に落ちたので聞く気になったのだ。


『我々魔族は自身の魔力との融和性で子を成せるかどうかを知りつがいを決めます。融和性が無ければ交わっても愛する事は全くなく、又融和性が高ければ人間で言う所の一目惚れの様な感情が芽生え魔族にとっての唯一となり大事に囲います。そして魔力が多い魔族は生きている内につがいに会える事は奇跡に近いのです』



「ーーそれは、レン様にとってゆな様はつがいだと言いたいのですか?」



『我々は魔族につがいがいる場合身体を覆っている魔力の色で、つがいが既に存在するかどうかを見ることができます。あのお方には自身の体内に渦巻く巨大な漆黒の魔力を、「紫」「赤」「橙色」「黄色」の魔力が覆っているのです』



「つまり、それがレン様とゆな様だと?」



『はい、間違いございません。つがい様の黄色と橙色の魔力の外側を先程とは逆の色の魔力が覆っているのを確認しております。その事からあのお方は番様の事を眷属として考え番だと気付いていないのか、若しくは不必要になり手放されたのかとなりますが我らは恐らく前者では無いかと。』



「気付いてない・・・」



『それでしたら手放した事が理解できます。しかし、魔族が番を手放す異常さは不可解であることには間違い無いのでその原因を今調査しております。』



「分かった。こちらでもそれとなく調べてみる。今回の事、感謝する」


『いえ、強き者に従うのは我らの理ですので。番様には私の密偵に護衛を任せていますが、あのお方が番様をただの眷属だと誤解されたまま番様の元に現れた場合、求める気持ちを理解できずに番様を消す可能性がございます。感知能力の低い若い魔族ではそういった者が時折いるのです。ーーあのお方は若い様には見えないのですが・・・。我らにはあのお方をお止めする事は出来ませんので、気休め程度とお心得下さい。ーーでは』



ベアルは椅子から立ち上がると壁際に下がり影に消えた。




「困りましたね・・・。レン様を私達でもどうする事も出来ないと言うのに」




 突如誰かがドアを乱暴に叩く。こんな遅くに誰かが急を要する事など有事以外では無い。しかし、他国の不穏な話も最近聞いた事がなかったので誰が来たのか警戒する。


「ノーヴァン!!大変だ!!あの男が御令嬢に手を掛けた!!」


「ーーーっ!?今行くっ!!」


ノーヴァンは急いで部屋を出て連絡してきた騎士仲間と共にレンの元へ急いだ。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る