第6話 お友達の魔王










 レンはミュナの借りているアパートの一室で1人椅子に座り紅茶をゆっくり味わっている。



『(虫どもに勝手に召喚されたが、初日で眷属を手に入れることが出来たのは幸いであったな。このまま毎日情交を交わして行けば我の魔力に満たされ我と共に生きる事が出来よう。この星を手中に納めるのはミュナを完全に我の魔力で満たしてからであるな)』



 レンはおおよそ12000年ぶりに自身の眷属を作った。レンは自身があまりにも強い為に眷属はミュナを入れてたった2人である。ただまぐわうだけで眷属を作れるわけでは無い。レン自身の魔力を体液に練り込み注がなければ出来ないのだ。以前の眷属は人間の男で魔力を練った血を与え作ったのだが、3000年ほど前に寿命で亡くなってしまったのだ。眷属の寿命は主と同時であるが、男はレンの寿命よりも早く死んでしまった。



『(やはり一気に血で眷属にするよりも、長期間で我に慣らしていく方がより一体になるのだな。これからゆっくりと時間をかけ完全に我のものにしてやろう)』



 レンは『絶望』と『破壊』の悪魔でこれを同時に与える事が出来るのが戦闘であった為に、元の世界では多くの戦闘に参加し全ての種族を絶望に叩き落とした。

しかし、それも歳をとってくるにつれて段々と飽き始めていた。同じ事の繰り返しなのだから当然と言えば当然である。12万年繰り返していたが、遂に面白い事が自分の身に起こった。それが異世界転移であり違う星からの転移者ミュナの存在である。レンはミュナがいれば繰り返すだけの『絶望』と『破壊』の日々を終わらせる事が出来る予感がしたのだ。




 ミュナの世界の話は面白い。馬の代わりに電気で走る鉄の乗り物や何百人もの人間を運ぶ空飛ぶ鉄の塊、動く階段や人間を感知して開くドア、星の裏の人間と会話を魔力すら無くても可能な世界。何度聞いても興味が湧く。ミュナの話を元にこの歳になって初めて新しい魔法を作ろうと思い始めている自分の変化に驚きと喜びを感じている。



「レン・・・やっと買い物に行けそうです・・・」


 ふらふらとミュナが起きて来た。既に日は頂上を過ぎ傾き始めている。シーツ位魔法で出しても構わないのだが、レンは一緒に出かけてみたかったので作り出せることは言わなかった。その代わりミュナに魔法を掛けた。


「ーーっっ!?急に身体が軽くなった!!」

『重力を操っている。それなら腰に負担を掛けずに買い物に行けるであろう?』

「ありがとうっっ!!レン!!ーーーって、原因はレンだからね!?」

『今夜からは加減をする。それで良いであろう?』

「ま、待って!!今夜はダメ!!明日の仕事に影響出るじゃない!!」

『どの道、我と図書館で勉強するだけではないか』


「ダメです!!週末限定でお願いしますっっ!!そ、そもそも、レンと私はお友達っていう話だったじゃないですか!!なんで、こ・・・恋人の様な関係になっているんですか!!」


『ミュナが図書館で情事に及びたいと言ったではないか。それに我は一緒に寝ると言ったであろう?人間はまぐわう事を「一緒に寝る」と言うのであろう?我でもそれ位は知っておるのだぞ。我とミュナの関係は友達であり運命共同体であり髪の毛1本すらも我の所有物だ』



「それはベッドが一つしかないから一緒に寝るって意味ですっ!!私が言ったのは比喩でもなんでも無いんです!!!・・・なんでそこは比喩と捉えんのよ・・・こんなに会ったばかりの男に振り回されるなんて・・・しかも独占欲とかっ!!」


 ミュナはそう言い放つと頭を抱えていた。



『何を蹲っっている?痛むのか?』

「ひぃっっ!!!もう余計な事触れないでっっっ!!行くからっっ!!」

『うむ、暮れる前に戻ってこねばな』



 ミュナに手を引かれレンはアパートを出た。

お昼をかなり過ぎており、人の波も落ち着いている。



『ミュナ、まだ昼食を摂っていないのだから腹が減っているであろう?何か食べたらどうだ?』



 レンを引いていた手を止めミュナに見上げられる。その顔は不機嫌そうに頬を少し膨らませていた。



「・・・昼食だけじゃ無いしっ!!昨日何も食べてないし、今日は朝食も食べてないっ!!」

『何を怒っている?食べれば良かったでは無いか?ーーーそうか、我がミュナに欲情した所為で食い損ねたのであったか。』

「ふぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!なんて事外で言うんですか!?」

『ミュナが大声を出さなければ我らの話など誰も聞いてはおるまい』


 今にも泣きそうなほど目に涙を溜めたミュナを宥める。もう帰って食べるから良いとミュナは拗ねさっさと買い物を済ませることにした。寝具屋に行き買い物をしていると、ここの店の商人らしき男が話かけてきた。



「おlんwbjbじょp;m、あl:い0kdpl?」

『なんだ?・・・貴様我に殺されたいのか?』


 少し離れた所にいたミュナが慌てて寄って来た。



「レン!!どうしたんですか!?なんか不穏な空気感じたんですけど!!」

『この男は呪詛を吐いたやもしれん。跡形も無く消してくれよう』


 男がミュナに何やらまた呪詛らしき言葉を放っている。我のモノも害そうとは・・・やはり消すしかあるまい。しかし、ミュナに此奴の血が万が一飛んで汚れるのは許せぬな。血も残さず消す事も出来るがあれは少し異臭がなぁ・・・。いっその事異空間に投げ捨てるか?


「この人店員さんで寒がりか暑がりか聞いたらしいんだけど・・・」

『何?我には全く理解できぬ言語で喋っておったぞ?其奴がミュナを謀っておるのでは無いか?』

「店員さんもレンの言葉が分からないみたいで、何か気分を害す様な発言をしたのなら謝罪したいそうですよ?」


 よくよく男をみると魔力を一切持っていないのがわかった。どうやら勘違いだったらしい。


『いや、我の早とちりであった様だ。其奴に謝罪は不要だと伝えろ』

「はいはい」


 男も納得し安心した様でミュナに商品を説明している。・・・近いな・・・やはり今消すべきか?


 レンがそんな事を考えている間に、ミュナは買い物を終えて大きい包みを抱え戻ってきた。


『それは我が持つ』

「ありがとうレン!!・・・そういえばなんであの人の言葉が通じなかったのかな?・・・あそこの野菜屋さんが何を言っているか分かる?」

『・・・何故だ?全く分からぬ。それに下に書いてある文字も読めぬぞ?』

「もしかして・・・。早くアパートに戻って話しましょう!!」



 何かに気がついたらしいミュナに急かされアパートに帰ることにした。ほとんど買い物が出来なかったがミュナは他に買い物は無かったのであろうか?まぁ、もう街は大体分かったのでミュナの必要なものはこれからは魔法で作ってやろう。さすればミュナが我を残して買い物に行く必要も無いからな。



『で、ミュナが気がついた事とはなんだ?』

 

夕食を魔法で一瞬で用意した後、ミュナと食事を摂りながら話す。


「多分なんだけど・・・、私は人為的に召喚された訳では無いから女神様とかに転移者特典みたいなので翻訳機能を貰っていて、レンは強制的に召喚されたから言語はそのままなんじゃ無いかと・・・」

『そうかであったか。だからミュナはこの星で通訳をやっておるのか・・・』

「そう、この国の事も一切知らないしなんの職業が元の世界の職業活かせるのかも全く分からないから、どこの国の言葉も理解できていることに気付いて仕事を探したんだよね」

『やはりミュナとは一生離れる事が出来ぬな』

「まぁ・・・そうですね・・・異世界なので勉強して覚えられるのかもよく分かりませんしね」

『覚えたところでミュナとは一心同体であるから、引き離そうとする者は塵に変えてくれるわ』

「レンってたまに物騒な事言っちゃうよね?まぁー・・・周りにもレンの言葉が分からないのがある意味救いかも?今日の街での発言も誰にも聞かれてないって事だし!!」

『ではこれから外でも気にせず喋るとしよう』

「いやいや!!今日も気にして無かったでしょう!?」



 ミュナがとても疲れていたので、我が手伝ってシャワーを一緒に浴びたら何故かもっとぐったりしてしまった。やはり人間はよく分からん生き物だ。


 取り敢えず今後の方針としては、ミュナに我の魔力をゆっくり馴染ませつつ馴染んだ後はこの国の王を消しこの国を支配下に置く。その後近隣国の王共を消し向かってくる様であったら焦土に変え、全て消し炭にすれば良かろう。新しい魔法を構築する練習台にしても良いな・・・。

この様に気分が高ぶるのは、強い魔力を持った敵将と対峙した時の高揚感に似ておる。あれは一瞬で終わるがこれがずっと続くと考えるだけで血が滾る様だ・・・。





 レンが魔王という事をまだこの世界の誰一人も気付いていない。








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