第7話 元窓際通訳官










 レンが行きは鳥になって図書館の入り口で先に待っていると言い、朝食後鳥に姿を変え窓から飛び立って行った。


・・・それが出来るならこの前も鳥の姿になって、お城の外で待っていてくれたら良かったんじゃ?と喉元まで出掛かっていたが、どうせいなされると思い飲み込む。帰りもきっと鳥でアパートまで戻ってくるんだろうと思いこれから放置する事にした。毎回振り回されてはたまったものじゃない。



「(はぁ・・・仕事に行くか)」



 またいつものめんどくさい職場に行くんだと思うと、憂鬱な気分になりつつもレンが待っているので重い足取りながらも向かった。






 ーーードンッッッ!!!



 職場の前に着きドアを開けようとするといきなり勢いよくドアが開き、中から人が激しく肩でぶつかってきたので思わず尻餅をついてしまう。見上げると同僚の貴族の男が手を貸す様子も無く見下げていた。



「なっなんですか!!いきなりぶつかってきて!!痛いじゃ無いですか!!」

 

「あー・・・すみません。でもこっちも君の汚い平民の汚れが肩に付いたんだけれど、どう責任を取ってくれるんですか?この服もう着られないから責任を取って買い取ってくれますよね?」


「ちょっとぉ〜可哀想よ〜?平民で仕事出来ない女なんてお給金そんなに貰ってないじゃ無い?それに貴族じゃ無いんだからその服買い取らせたら無一文になっちゃうわよ?」

「金がないなら売女になると良いよ。君に合った職業でしょう。一人前に男は居るみたいですから」

「えっ!?何その話詳しく教えなさいよ!!」

「昨日街で男と仲良くくっついて歩いていましたよね?君が男連れているの見て驚きましたよ。君みたいな能無しの平民でも男を作れるんだって」

「顔はどうだったの?」

「それ私も気になる〜」

「普通のどこにでもいる様な男でしたね」

「お似合いじゃない?どこにでもいそうな空気みたいな奴って事でしょ?」

「「本当だな!!」」



ミュナとレンが出掛けていたのを見たと言った男は、会う度に足を引っ掛けたりする他の人達とは違い今までほとんどミュナに関わってくる事がなかった。それが今回は甚振る事を先陣切ってしている事に少なからずショックを受けた。


 一人を囲んでみんなで嘲笑っている状況に思考がグチャグチャになっていく。私の事は本当だから何言われても良いけど、私と一緒にいてくれるレンの事をこんな奴らに悪く言われるのは怒りを通り越して悲しくなる。



そんな事を思っていると、1人の同僚男性が嘲笑い口を開いた。



「そうそう、お前今日で解雇になったから」

 

「え・・・」


「当たり前だろ?お前みたいな役立たず置いておいたって仕方ないから、昨日上官に報告したらすぐ返事貰えたんだよ」

「そもそもお前本当に通訳出来んの??仕事している所見た事ないし」

「以前どっかの領で功績上げて来たらしいけど、学生でもできる簡単な仕事だったんじゃないの?」


「通訳の仕事くれないのは貴方方が回さないからじゃ無いですか・・・それにちゃんと功績はーー!?」




 ーーードンッッッ!!!


 異常な圧力が身体を駆けた次の瞬間建物が大きく揺れる。


 ーーーーパァンーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!


 建物が揺れたと同時に全ての窓ガラスが勢いよく弾ける様に割れ室内に吹き飛んできた。



「「キャァァァッッッッッッッッッッッッ!!!」」

「イヤァァァァッッッッッッッッッ!!!」

「うわぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!」





 ミュナが悲しみを堪えていると、轟音と共に衝撃がお城を直撃し窓が木っ端微塵に弾け飛んだ。ミュナは周りに人が囲んでいた為に窓ガラスの破片は当たらず怪我をしなかった。同僚達はミュナの周りを囲んでいた為に背中や頭にガラスが刺さり大怪我を負っている者が多くいた。



「(今のなんだったのかしら!?まさか魔法を使ってレンを捜索していた魔術団もしくは騎士団と戦っているんじゃないでしょうね!?図書館に行かなきゃ!!!)」



 大怪我を負っている者たちは自分たちの貴族パワーでどうにかするだろうと捨て置き、急いで図書館に急いだ。








 図書館の前にはレンが人の姿で立っていた。ミュナがレンの元にたどり着いた直後、多くの足音が聞こえ振り返ると騎士団や魔術団の団員達が剣や杖を構えていた。ミュナはレンと団員達の丁度中間にいる。




「(あれ?なんかヤバくない?)」



 流石にあの異常な出来事に騎士達がすぐ駆け付けるのは当たり前であった。



「君、早くここから立ち去りなさい!!」


 騎士に腕を掴まれぐいっと騎士達の方に引っ張られる。


「え?私ですか?」

「君以外に誰がいるんだ!ここは危険だ!!」


 そう言われても困ると思ってどうしようかと悩んでいると、いつの間にかレンの片腕に抱き抱えられていた。


「ーーなっ!?時空魔法を使えるとはっ・・・」


『これは我のだ・・・我のモノに触れるとは・・・この国には躾が必要の様だな』


「何を言っているか分からんな・・・まずい状況かも知れん」

「総長はもうすぐいらっしゃる、それまで何とか我らで足止めせねばならん!!」

「魔術団総員、あれの足止めはどの位可能だ!?」

「わ、我々の魔力では足止めにすら・・・」

「くそっ!!!」


『・・・中々攻撃して来ぬのだな?つまらぬ虫共よ、そろそろこちらから行くぞ』


 レンの指先から魔力が渦を巻き始める。知らない内にレンの眷属にされてしまっているミュナですら感じる異常な圧迫感に息が苦しくなっている。

団員達の殆どが地面に膝を突けてしまった。



「お待ちください!!」


「「・・・総長!」」


 周りの膝を突いている騎士の制服とは違う騎士と、ローブを纏ったお爺さんが駆けてきた。長い白髪が乱れたお爺さんは息を切らしており、倒れそうで心配になる程顔色が悪い。気付けばレンの指先の魔力の渦は少し小さくなっていたので話を聞く気ではある様だ。


「(お爺さん顔色悪いし息切れているけど大丈夫かな?)」


『貴様らは何だ?』

「まさか言語が通じないのか・・・」


 そこでやっとミュナはレンとこの星の人が会話が出来ないことを思い出した。映画の中の様な光景に今まで他人事の様な目線で成り行きをぼんやり見ていたので思いつかなかった。


「あ、貴様らは何だって言ってますけど」

 

「君はその者の言葉が分かるのか!?」

「え、まぁ・・・」

「私は騎士団総長、ロッズ・オフェールと申す。こちらは魔術団総長のメルド・バレンスだ」

「お嬢さん君の名前を教えてくれるかな?」


「私は通訳官のゆなと申します。あ、でも先程解雇になりましたけど」


「通訳官!?それで彼と会話ができるのか!?その者の言語がどこの国のものか教えてくれ!!」


「え、いや私にはちょっと良く分かんないんですけど・・・なんでか私、彼の言葉が理解できるんです」


「「「・・・・・・」」」


 一瞬微妙な空気になったのはどう考えても、私とレンが会話できている事を怪しんでいるっぽい・・・。そりゃそうだよね、クビになったから仕事出来ない疑惑ある怪しい奴の事なんか私でも信じないと思うし。もう帰って良いかな?帰って新しい職探さないといけないし・・・。


「あの、もう帰って良いですか?」


「え?あぁ、構わないがその状況で何を・・・」


「はぁ・・・。レン私次の職探さないといけないんで先に帰るね?」


 大きなため息をついたミュナが言うとレンは降ろした。レンはミュナの顎を掬い上げみんなの見ている前で深い口付けをした。


「ふぁぁっっっっっ!?油断したぁぁぁっっっ!!!」



 昨日発言は気をつける様に言ったが結局言葉が通じない事が分かって油断していた。コイツは人前でやらかす奴だったと・・・。



「ひっ人前でするなんか何考えているんですか!?」

『奴らがミュナに何を言っているか分からんからな。我のモノだと牽制しておかねばならんだろう』


 レンの言葉に真っ赤にさせた顔を覆ったミュナは知らない人達に、ガッツリ見られ羞恥心で走り去ろうと通路に向かって走り出すと目の前に人が立ち塞がった。

羞恥で余り前を見ていなかったミュナは思いっきりぶつかり倒れそうになったが倒れる事は無かった。



「ふぁ??」

「すまない、ゆな嬢。帰るのはもう少し待ってくれないだろうか?」



 目の前に立ち塞がったのは騎士団総長のロッズ・オフェールだった。倒れなかったのは彼が背中を支えてくれているからだった。



「え・・・さっき帰って良いって言ったのに・・・騙したんですか・・・?」

「そう言うわけでは無いのだが・・・その・・・君が彼と会話が出来ると言うのを疑っていたんだ。すまない。ーーもう少し我々に付き合ってくれないだろうか?」



 支えられている状況のまま総長に話をされていると、急に呻き声が周囲から聞こえ見回すと。膝を突いていた団員達が地面に倒れ血を吐く者、気絶する者達で地獄絵図になっていた。原因はレンだった様で先程よりも大きくなった魔力の渦が真っ黒い色に変化していた。



「オフェール!!その娘を離せ!!」


 杖で身体を支えていた魔術団総長が大声で、騎士団総長に伝え私は総長の腕から解放された。その瞬間再びレンの腕の中に戻っていた。



『最初からこの国には腹が立っておったのだ。ミュナもう仕事は探さずとも良い。我がミュナの欲しいもの全てを手に入れてやろう・・・』


 そう言うと異常な魔力の黒い渦を地面に向かってゆっくり降ろそうと指を下げて行く。


 取り敢えず魔法を知らない私でも、これが地面に触れた瞬間この国は滅びるんじゃ無いかな?と何となくわかった。止めた方が良いのかイマイチよく分からない。この人たちも国の防衛任されているんだし、どうにか出来るんじゃ無い?っていう楽観的思考ともう自分の職場でも無いしなぁとそんな事を考えてしまう。

こっちに来た時に助けてくれた老夫婦がいたなら止めるだろうけど、レンを止める程この国に思い入れは無い。レンは人為的に召喚されたんだし怒りが無いはず無いと思うから、それを私が止める権利ないと思うんだよね。


 私が人為的に召喚された側なら滅ぼせる力あったら滅ぼすと思うし。



 そんな事を思っていたら、総長おじいさんが私に向かって苦悶の表情を浮かべながらも大声を上げた。




「きっ君を月、金貨ひゃーー金貨300枚で魔術団で雇うから頼む!!その者を止めてくれ!!」



「え?金貨300枚?ーーー本当ですか!?」



 新人通訳官のお給金は月金貨3枚というのを考えると破格の金額である。恐らくこのお爺さんよりも高い筈だ。



 ーークビにされて数十分の内にミュナの新たな職場が見つかった。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る