第5話 窓際通訳官
子猫になったレンはミュナの服の中で揺られながら、気持ち良くなってきて眠ってしまった。図書館からお城の職場に退勤する為に戻る。退勤時には魔道具に手を置いて退勤しなければお給金が貰えないので、行きたくなくても行かなければならない。
戻る途中、騎士団や魔術団の人たちがウロウロして何かを探していた。レンを探しているのはこの人達なのだろう。怪しまれない様に心を無にしてやり過ごした。
「あら?今日は早いお戻りね?どうかなさったの?」
「もう図書館を追い出されましたか?」
「なんでいるの?」
「平民が戻って来ているのか?お前の席あっちに移動させたから」
通訳官は私以外は家を継げない貴族の御令嬢と御子息達だけである。出勤時と退勤時私を見つけたら意気揚々と嫌味や挨拶の無視をしてくる。
居心地悪い通訳官の職場は図書館にいる間に、いつのまにか更に居心地悪い職場へと進化していた。自分の席は勝手に移動されており、隣の資料室の窓際に置かれていた。せめて窓際に置くなら椅子と机を壁側に付けないで欲しい。まぁ移動めんどいし机に座れば良いか。
「(別にお給金もらえるなら良いけどね。ついに物理的にも窓際族かぁ)」
定時になっているので蔑んだ目から逃げるようにさっさと退勤して出て行った。
ここでもう少し稼いだら辞めて王都から離れた土地の安い町に引っ越そう。それまでの辛抱だと思って乗り切ろうと思う。もう二度とブラック企業で働きたくない、最低限しか働きたくない私としては天職なんだけどね。もう既に人生の半分程は働いたと思うし。
帰りながらそっと自分の服の中で大人しくしているレンを服の上から優しく撫でた。少しもそもそと動いたのが可愛くてときめいてしまう。これからはレンと一緒だと思うと心が暖かくなる。
帰り道余り良いものは買えないけれど、少し高いお肉をレンの為に少量買った後はパンと野菜を買って帰った。
アパートの部屋に戻った後、優しくレンを服の中から取り出しまだ寝ていたので自身のベッドの上に寝かせた。猫用の食事なのか、人用の食事を出せば良いのか悩んだ結果猫用を作った上で自分の食事の量を若干増やした。人用だった場合は猫用に買ったお肉を焼いてそれに自分のおかずを足せば良いし、いらなければ明日の朝食にすれば良いと思ったからだ。
『ーー美味そうだな』
食事を並べコップを置いた時、後ろから抱きしめられ耳元で囁かれ耳に柔らかいものが触れる。飛び上がりそうな程驚いた。ミュナは元の世界ではブラック企業に勤めていた為に恋愛を諦めていた。男性免疫皆無のミュナに低音イケメンボイスと触れたものに腰が砕けそうである。
「れっ、レン!!!そんな事したらダメですっ!!」
『ん?我は何をした?』
耳を真っ赤にしたミュナは潤んだ目で抗議の声を上げるものの、レンはどこ吹く風といったところである。
「本当無自覚女誑しなんだから。もぅいいです・・・」
結構レンは無神経なところがあると今日一緒に過ごして分かったので、レンの無自覚女誑しについては諦め始めている。言ったところで自覚がないので怒り損なのだ。
レンは暖簾に腕押しって言葉がぴったり当てはまる人だとミュナは思う。
「猫の食事か人の食事か分からなかったのでちょっと中途半端になっているんですけど、人用でいいですか?今からお肉焼くので待っていてください」
『我は生肉でも喰えるぞ?早く喰わねば我は腹が減ってーーミュナを喰ってしまうやもしれんぞ?』
今度は顎を持ち上げられ艶っぽい目に囚われる。レンの顔は平均的であるが、男性免疫皆無であるミュナは何度もドキドキさせられ全力疾走した後の様に心臓の鼓動が激しく動く。
これ以上続けられたら心臓が持たないとお肉はそのまま出し食事を始めた。
「ちょっと今日は奮発したから、しばらくお肉買えないですけど我慢してくださいね?お金が貯まったらもう少し良いもの作りますから」
『ならばこれからは我が食事の用意をしよう』
「え!?材料あんまり無いですけど大丈夫ですか!?それに料理出来るんですか!?」
『失敬な。我は魔法が使えるのだぞ?料理程度魔法で用意するに決まっておろう』
「そ、それならお願いしようかな?」
『良いぞ!!これからは一心同体であるからな!!我もミュナの為に力を貸すのは当然である、任せておけ!!』
一心同体なんて大袈裟な事を言われ満更でもなく、こんな生活も良いなとミュナは思っていた。
しかし、それはレンにとって物理的な意味であった。
食後、部屋にある狭いシャワー室に交代で入る。ミュナはお金がないのでこの世界に来るときに中に着ていたシャツを寝巻きにしている。レンはシャワー室から出てくると用意していたタオルを無視して全裸であった。真っ赤になったミュナが慌ててシャワー室からタオルを持ってきて腰に巻く様に言う羽目になった。
「取り敢えず今日は同じベッドで良いですか?明日休みなのでレンの毛布とか一緒に買いに行きましょう」
お金がないのでもう一つベッドを買うことは出来ないので、せめてシーツや毛布をレンの為に買わなければとミュナは話した。
『ん?我はミュナとずっと一緒に寝るに決まっておろう。シーツは確かに洗濯するのに替えはいるだろうから用意せねばなるまい。我は洗浄系の魔法は苦手だからな』
「え?ずっと一緒にですか?」
『ーーー嫌なのか・・・?』
「むしろレンが嫌なんじゃないんですか?こんな今日あっただけの女と」
『我はミュナの事を気に入ったのだ。我は一緒で無ければ許さん』
「ーー分かりました。じゃあもう寝ましょう」
また我を通し始めたのでミュナはめんどくさくなってもう寝ようとベッドに横になる。
『そうだな、我もいい加減待てぬから早速契りを交わすぞ』
「ーーーへ?」
レンは横になったミュナに止める間もなく覆い被さって来た。そこからミュナの記憶は曖昧である。
「う・・・うぅ・・・」
『起きたかミュナ?朝食・・・昼食になってしまったが用意をしたぞ』
ミュナは起きあがろうとするが起き上がれない。下半身の違和感とシーツの下は何も着ていないことに気がついた。
昨晩の事を思い出してしまい首の後ろまで赤く染め上げベッドに突っ伏した。
『昨夜のミュナは可愛くあったのぅ・・・。我は今日は出かけず一日中まぐわっておりたいのだが、ミュナはどうだ?買い物に出かけるか?』
レンはミュナにコップを差し出して水を飲ませた。
「・・・ずみません、今日はぢょっと買い物は無理です・・・」
喉を枯らしたミュナはベッドで休んでいたいという意味で言ったが、レンには全く違った捉え方をされていた。
『うむ!!ミュナも買い物よりも我と一日中まぐわいたいか!!任せておけ、昨晩と違いミュナも楽しめるであろう!!』
「ーーーえ、ちがっ・・・」
ミュナはレンと一緒に暮らす事に今更後悔しながら意識を失った。
次に再びミュナが目が覚めたのは翌日のお昼であった。
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