第3話 魔術団総長






 まずいまずいまずい・・・実にまずい事になった・・・。

城の魔術団に勤めて55年、人生始まって以来最大の厄日が後半年で城勤めを辞するという時に訪れるとは・・・!!!


 魔王が復活して自分達の功績を上げるために魔術団団長が国王陛下に『異世界から魔王を倒す勇者を召喚して見せましょう』と宣ったのが一昨日のこと。そして昨日は考え直す様に国王陛下に進言し、団長に忠言し宰相や軍務大臣にも止める様に願い出る等多くの者に頼み込んで回ったが1人の意見など聞き入れられる事は無かった。


 ーーそして今日召喚の魔法陣を発動させたのは間違いない。


 一度大きな魔力の波動を感じたのは恐らく魔法陣を発動させたものだろう。しかし、その後に感じたのは勇者とは程遠い異常な魔力の波動だった。


 私は急いで魔術塔に向かい地下の訓練場に降りた。そこには血の匂いが満ちており、魔術団のローブが20枚以上散らばっている。ローブの中には他の物と比べ豪華な刺繍が入ったものを見つけた。




「・・・何故こんな事に・・・」



 団服が血で濡れる事も構わず総長は膝を突き、ローブを丁寧に拾い上げた。

その血で濡れたローブは魔術団団長の物であった。


 私が異世界からの召喚に反対していたのは『異世界の者を無理矢理連れて来て、その者と関係ない魔王を倒す危険な旅をさせるのは人道に反している』と思ったからであった。しかし、そこで召喚されたのが勇者でなくこの国にとって危険な存在だとは思いもしなかった。



 内密に国王陛下に伝えるべく国王陛下の身許へ急いだ。







「それは誠か!?」


「恐らく・・・。団長含め23枚ほどの血濡れのローブが落ちておりました・・・」


 国王陛下は頭を押さえ考える。



「至急その危険なものを魔術団と騎士団で捜し出し捕らえろ。抵抗する様なら始末しろ」


「・・・かしこまりました」



 詠唱なしで魔法を放てる魔術団長を抵抗する前に殺せるものを捕獲できるとは到底思えない。これは命懸けの捜索になるだろう・・・。一体どれだけの被害が出るか・・・。






「これは魔術団総長、最近よくお会いしますね。さて、本日はどう言ったご用件で?」


 騎士団総長は黒い髪を後ろに撫で付けた男性で国民の憧れの存在である。四十代前半でその地位に登り詰めた実力者だ。

捜索の件で騎士団総長に会いに行った。召喚の事や魔術団団長、魔術師達合計23名が一瞬にして消された事を包み隠さず話した。



「これ程の失態良く隠しませんでしたね。貴方で無かったら少なからずいくつかの事は隠していたでしょう」


「つまらぬ意地の為に隠して油断させるきっかけにする訳には出来ん。今軍事力が落ちてしまったら悪魔達が攻め入ってくる可能性が否めんだろう。これ以上この国を危険に晒す訳には参らん。これがこの老ぼれに出来る最後の仕事やも知れんから出来れば後を頼みたいのだ・・・。騎士団総長、君はまだ若い・・・命を決して粗末にしてはならんぞ」



「ーー貴方様も命は粗末になさってはなりませんよ。ただでさえ有能な魔術師達が多くいなくなったのですから、貴方様までいなくなられては誰が魔王勢力に対抗するのですか?・・・お孫さんもうすぐ15歳でしたね。お孫さんの為にも生きてください」


「・・・気遣い感謝する」


 背中を向けていた魔術団総長のお礼を述べる声は震えていた。











 

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