第4話 金蓮花

 僕が射的で貰ったお菓子と、くじ引きで当てた詰め合わせ&カップ麺。そして牡丹が貰った小さなぬいぐるみと、当てたお菓子群を有料の大きな袋で持ち、僕らは3階から2階に降りた。


「……ねぇ牡丹、本気なの?」

「ほ、本気だよ? 私、嘘言わないし……」


 うん。知ってる。嘘言わないね。うん……。

 僕らは2年生の出し物である『お化け屋敷』に並んでる所で、黒い画用紙の上に赤い斑点の付いていて看板の一つもない壁を見て、無駄に凝った恐怖を煽る装飾に少し足踏みしている。

 実は僕も牡丹もそこまで恐いのは得意じゃない。なんなら牡丹より僕の方が怖がりだったりする。


「で、本当に入る気なの?」

「今日で制覇するって決めたし……さあ突っ切るよ!」

「たぶん走っちゃ駄目だと思うけどなぁ」


 暗いし、障害物多そうだし。

 二つの教室を繋いでいるし、確かお店の名前は『恐怖迷宮』だったから、確実に走るの厳禁だと思う。僕も怖いのは嫌だから止めないけど。


 なお入って最初にあった説明で『走っちゃ駄目』と言われたので、律儀なことに牡丹は走らずに攻略することになった。


「ひぅっ!」

「ぐっ……!」


 お化け屋敷の迷宮とはいえ、迷宮自体はそんなに難しいわけではなかった。暗さもギリギリ足元は見えるくらいだし……というか最初に答え見せられて『覚えられるもんなら覚えてみやがれ』と言われたくらいだ。あれ、たぶん怖いの苦手な人向けな奴だよね。ありがたい。

 そして僕は、牡丹にがっしりと右腕を掴まれて迷宮の正解の道を歩いている。牡丹の記憶力様々であり、役得ではあるのだけれど、驚く度に聞こえる可愛らしい声と共に腕に可愛くない痛みが走るのは煩悩を持っている僕への罰なのだろうか。

 なお怖がれてはいない。牡丹が怖がりすぎすぎて僕が怖がれないというか、痛みのほうがお化け屋敷の恐怖に勝るというか。兎に角、何故か無駄なことばかりを考えてしまい怖さを微塵も感じていない。


「ちょ、泉、前行ってよ」

「いいけど迷うよ?」

「私がナビゲーションするから!」


 ここまで必死な牡丹を見るのは、初めてホラー映画を一緒に観たとき以来かもしれない。アレは僕も怖かった。二人でくっついてガタガタ震えながら観たのが懐かしい。

 ともあれ僕が先頭になり、牡丹の記憶力頼りにお化け屋敷を歩く。それでも怖がれないのは、牡丹が小さな音がしただけでも「ひぃっ!」という可愛い声と共に腕を痛いほど締め付けるからだろう。なお役得とは思えない僕は痛みに耐えながら女性的な膨らみを堪能出来るほど豪胆ではないようだ。



「はぁっ……はぁ……」

「凄い、疲れた……」

「どっかで休憩しよ」


 同意。

 僕は憔悴しきった様子の牡丹と共に、適当な空き教室に入って休憩する。


「あー、もうお化け屋敷なんて何が楽しいのかしら……」

「わかりたくないけど……スリルってやつを体感したいんじゃないかな」

「……そういえば泉、怖がってなかったよね」

「隣であれだけ怖がってる人がいたら一周回って怖がれません」


 ぐでー、と机に伏せて顔だけをこちらに向けて批判的な視線を送ってくる牡丹に、正直オブラートに訳を話す。


「……まあいいや。さて、そろそろ次行こう!」

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