第5話 梔子
お化け屋敷を抜け、次に僕と牡丹が向かった先にあるのは、教室のある建物とは別棟で行っている茶道部の出し物。『茶道体験』だ。
茶道部は部員も10人に満たない部活であるが、この高校が開校されてから今日まで潰れずに残ってきた歴史ある部活であるらしい。
ちなみに茶道部の部室は校庭の隅にある茶室であるけれど、遠いし外に出ないと行けないため、毎年体育館の一角でマットレスを敷いて行っているとのこと。まあ一日で全出店を制覇してる側からすると、近くにあるのは誠に有難い事なわけだけれど。
「──はい。次の方どうぞ~」
和服に身を包んだ茶道部員の先輩に連れられて、牡丹と僕の順で
和服の先輩がお茶を立ててる横で、顧問らしき先生──先生が言うには顧問ではなく指導の先生らしい──が茶道で使う道具を紹介している。今後触れる機会はないと思うけれど、とても面白かった。作法も教わったし……使うかどうかはさておき。
お茶も美味しかった。苦味が強いけど、僕個人としてはそれがいいくらいに感じた。
一通りの茶道の作法は十分足らずで終わった。先輩がお茶を立ててる時や茶碗を洗っているのは見ていて飽きなかったし、何だか普段は触れない世界に触れられて得した気分になった。
「そういえば二人はお付き合いしてるの?」
茶道体験を終えた僕と牡丹にそう聞いてきたのは、茶道の指導をしているという先生だった。明らかに興味津々といった様子で、答えなければ逃がしてくれそうにもない。
「いいえ、僕達幼馴染みなんです」
「そうなの? 彼氏彼女の関係じゃなくて?」
疑るような眼差しに、追究してくるような声音で先生は聞いてくる。
「はい。恋人関係にはないです」
「そうなの? 距離も近いしお似合いだから付き合ってるのかと思ったわ」
先生は本当に意外であるかのように言う……そう言われて嫌な気分にはならないし、誤解されるような間柄ではあるけれどね。
その後少し雑談──大半が僕と牡丹が付き合ってるのか聞いてくる内容だった──をして、僕は牡丹と体育館を出て、また教室のある棟へと戻る。
去り際に先生に何かを言われた牡丹に、腕を強くひかれながら。
「牡丹。痛いよ」
「……」
牡丹は顔を見せず、無言でずんずんと前を行く。怒っているのとはまた異なるっぽいけれど……心なしか耳まで赤くなっている。んー、もしかして僕と恋人に見られるのが嫌だったとか? ちょっとショック。
けどまあ、僕も牡丹に嫉妬心のようなものは抱いていたから、お互い様なのかもしれない。
その日、休憩が終わって帰る頃になっても牡丹が僕と話すことはなかった。その様子を見ていた風車が「お、夫婦喧嘩か? 長年の円満夫婦生活に亀裂か?」と煽るように言っていたけれど……もしかしたらそうなのかもしれない。
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