第3話 銀梅花

 焼きそばやわたあめといったお祭り特有の食べ物を持ち、僕は牡丹と共に3階に戻ってきた。

 3階は僕達一年生の教室があり、僕達の『ポーカー喫茶』を含めた4つのクラスが出し物をしている。


「最初は……そうそう『縁日』ね!」


 牡丹は全校生徒に配布されていた文化祭のスケジュールを見てから言う。『縁日』は僕達のクラスの隣で行われている別クラスの出し物だ。事前にあった紹介や廊下に貼られている宣伝広告には、射的やくじ引き、型抜きといったお祭りらしいことをしているらしい。

 ちなみに結構本格的ではあるらしい。あくまで聞いた話だけど、信頼のおける筋からの情報なので、信用するには値する。


「何かホントにお盆のお祭りみたいだね」

「本当だ。祭りやぐらも置いてある」

「アイツの言ってることもたまには信用できるのね」


 たまにて……刺のある言い方だけれど牡丹の言う通りで。彼は信用の置けない部分もあるけれども、基本は信じてもいい。賭け事の時は例外として。

 それに自分のクラスの出し物の喧伝なのだ。嘘は──良くは言っても悪くは──言えないだろう。何せ彼の恋人が文化祭の売り上げで一位とろうとしてるらしいし、そもそもその方面じゃ冗談ひとつ言わない奴だし。


「いらっしゃ──あ、一華ちゃんと篝火くん! 待ってたよー!」


 ちょっと待っててー、と元気に教室から飛び出していったのは、僕らに出し物を教えてくれた友人の恋人──そして数秒後には、隣のクラスでポーカーでもしていたらしい友人、風車かざぐるまが連れられてきた。


「やぁ、来たよ」

「え、早くね?」


 そりゃあね? 巻いてるもん。何せ牡丹は今日中に全ての出し物を巡るつもりらしいし。


「全部二人で一回ずつやるつもりだから……二人分のチケットを頂戴?」

「はいはーい。あ、クーポン持ってるなら使えるよ?」

「泉」

「はいはい」


 僕は財布から、昨日風車から貰ったクーポン券とお金を風車に渡す。ちなみにクーポン券は屋台に参加する為のチケットを二割引きで買えるというお得なものだ。


「それじゃあこれで」

「二人分丁度お預かりいたしまーす!」

「はい、これがチケットです。じゃあかっちゃん。後はお願いねー!」


 じゃねー! と僕らにチケットと渡し、風車を置いてバックヤードへ戻るのを横目に、僕は渡されたチケットを牡丹に渡す。すると牡丹からは一人分の料金が返ってきた。


「いいの?」

「さすがにジュース代のように奢りに出来る金額じゃないでしょ」


 ならばジュース代も返して──はくれないですよね。僕は素直に一人分のお金を受け取り、財布へ入れる。

 牡丹は出入口に書かれている縁日の出し物を見ていた。


「型抜き射的くじ引き……スーパーボールすくいって昔ならなかったよね」

「金魚すくいはさすがに学校じゃあ無理でしょ」

「それもそうかー……で、どれからやる?」


 どれから……と聞かれても正直どうでもいいんだけど。


「あ、型抜きやりたいかも」

「昔から好きよね……」


 そりゃあ奇麗にくりぬければお金がもらえるし食えるし……やらない理由なくない?


「ん、篝火かがりびってもしかして型抜きも得意なん?」

「そこそこだよ」

「牡丹さん。どうなんです?」

「東洋の龍とかでなければ難なく奇麗にくりぬくわよ」


 この友人、僕の自己申告を無視して過大評価する牡丹に聞きにいったし。ホントのこといってるだけなのに……というか龍のあれ、出来る人そんなにいないと思うんだけど。


「な、なんだと……っ」

「あら? その様子だとそこまで難しくないみたいねぇ?」


 突然、風車が絶望の縁に立たされた人のような事を言ったと思ったら、牡丹が悪役のような台詞で応戦し始めた。何この茶番劇。


「クソッ! 俺達は篝火に全てを奪われる運命なのかっ!」

「それを制限するためのチケットじゃないの?」

「そうともいう」

「いやそれ以外にないでしょ……」


 とりあえず教室をぐるっと回るように遊ぶことにした。で、まず型抜きからなんだけど……。


「よっしゃ田中! 目茶苦茶難しいやつを出してやれ!」

「お前何言ってんの?」


 野次馬のように風車が付きまとっててなんか萎える。なお本人が言うには『お目付け役』らしい。僕たち問題児扱いされてない?

 僕は田中くんに「冗談だから気にしないでくれ」とアイコンタクトで伝える。伝わったかどうかはわからないけど、取り敢えず出された型はペンギン……それも薄い。


「これ出来たら何円になるの?」

「チケット一枚分免除」

「んー、微妙じゃない?」


 取り敢えずやってみよ。気張る必要はないんだし。

 僕は型抜きの屋台の隅にある爪楊枝の束から一本拝借して、さっそく型抜きを始める。


「おお、器用だなぁ」

「だろー? これ何度もやられたらヤバいぞ?」

「そうだな。の呼んだお客さんやべぇわ」

「あ、おいその名前で俺を呼んでいいのは蓮花れんかだけだっての!」

「別にいいじゃない

「減るもんじゃないんだからいいじゃん

「牡丹さんはまだしも篝火まで!? てかお前は口動かしてないで手ぇ動かせよ!」


 風車は顔を真っ赤にして叫んでいる。よく観察してみると耳まで赤くなっていた。

 僕はいいと思うけどね? 国民的太鼓ゲームの青い方を思い出すような可愛い名前だし。

 なお手は動かしてます。これくらいなら会話しながらでも出来る。


「──はい。どうですか?」

「すげぇ。完璧だ」

「だろ? じゃあ景品な!」


 自棄っぱちになった風車からチケットが一枚贈呈された。もう一度遊べるのカッ! かっちゃんだけに。

 ちなみに牡丹は景品をしっかり吟味してから、簡単な魚の型抜きを行った。景品、お菓子らしいけど……正直チケットよりお菓子のほうが嬉しいよね。


「じゃあ、これは一番胡散くさ──難しそうな射的にでも使おう」

「大物一つを狙い打ちしてく感じ?」


 流石は幼馴染、良くわかってらっしゃる。

 ちなみに風車は僕の判断に文句はない様子。先の会話も「俺は、何も、聞いてない」と呟きながら記憶から消している様子。このまんま型抜きばかりしててもつまらないし、長居するつもりも更々ない訳だし許して。


「一枚で落とせたらくじ引きで使っちゃえばいいし」

「それもそうだね」


 なおスーパーボール掬いを二回もやる気はなかったりする。食い物じゃないし、一つくらいは取って記念にしようかなとは思っているけれど。

 射的の屋台はコルクを弾にした、大きなお祭りで一つはある、あの銃を使って景品を取る仕様らしい。僕も牡丹もそこまで本格的なのは想像もしていなかったのでこれには驚いた。


「凄いね……」

「うん。まさかここまで本格的とは……」


 ついつい、僕も牡丹もこの驚きを口に出してしまい、風車が胸を張って「そうだろう」と言うように頷いている。


「「景品以外は」」

「それは言わなくていいだろう!?」


 なお景品は適当にお菓子を一つ取って、後は適当に難易度高そうな奴をそれっぽく狙ってた。牡丹はガチの大物である巨大ぬいぐるみを狙っていたようだけど失敗。重り入れてるのかな?

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