第6話「新歓の勧誘とか」

 四月中旬。

 その日、涼介は一人、レストスペースで時間をつぶしていた。


(うーん、四限も授業を入れるべきだったかなぁ……)


 三限、そして五限に授業を入れている関係で、どうしても時間が空いてしまう。とはいえ、家に帰るのも面倒なので、仕方なくここで時間をつぶしていたのだ。

 周りにも、似たような生徒がちらほら見受けられる。

 スマホをいじったり、読書をしている学生。友達と集まって、駄弁っているグループ。そして、なんだかチャラそうな男に絡まれている女子学生が一人。


「ね、いいじゃん。タダだよ、タダ」


 なにやら紙を見せながら、「無料だからお得だよ」と、宣伝している。

 すぐ近くの席で繰り広げられているため、涼介の耳にも、嫌でも会話が入ってくる。


 内容は、どうやら新歓の誘いのようだ。

 そういえば……と、涼介も自分のカバンの中身を思い出す。

 今日だけでも、似たような勧誘をいくつも受けた。「タダで飲み食いできるよ」「別に、サークルに加入しなくてもいいんだよ」と。


 食費が浮くのはありがたいな……と考えた涼介は、いくつかの新歓に参加しようか、などと、ぼんやり考えていたのだが。


「あ、あの……えっと……」

 どうも、目の前の女子学生は、その勧誘に困っているようだった。

「ね。君みたいな可愛い子には、ぜひ来てほしいな」

「わ、私……」


 ふむ。傍から見ると、ナンパされて困っている場面に見えるな。

 男子学生も、新歓に誘うことが目的なのか、その後に計画しているであろう情事を目的としているのかは分からないが、少なくとも、この女子学生は、新歓へ行く気はないようだ。

 だが、気が弱いのだろう。その誘いを、キッパリ断ることができないようで……。


「ここにさ、名前と電話番号書いてくれればOKだから。ね?」


 半ば強引に、約束を取り付けようとする男子学生。

 ……仕方ない。このまま見過ごすのも、後味が悪いし……と、涼介は立ち上がり。


「──ここに名前を書けばいいんですね?」


 と、名簿を横から奪い取った。

「……え? 君、誰?」


 突然の出来事に、驚きを見せる男子学生。しかし、そんなのお構いなしに。


「新歓、興味あるんですよ。ちょうど先輩の所属してるサークル……ええっと、なんて読むんですか、これ」

「レリーフだけど……。って、お前、サークル名の読み方も知らねえくせに、興味あるとか嘘だろうが!」

「いやいや、本当に興味あるんですって。いいでしょ、俺も新入生ですし」

「いや、だから俺はこの子に──」

「はい、バッチリ名前書きました。んじゃ、当日よろしくお願いしますね」


 男子学生の言葉をすべて遮り、無理やり話をまとめる。

 そして、座っている女子生徒に向かって。


「それじゃ、行こうか。向こうでみんな待ってるから」

「……へ?」


 一瞬、何が起こったのか分からないという表情だったが、やがて自分を助けてくれたんだと理解し、「は、はい」と、涼介に続いて、その場を後にすることにした。


 一方、男子学生はと言えば……。

「……クソ。なんだったんだ、あいつ」


 これ以上しつこくすると、周りの目が集まってしまうと判断したのか。それ以上、涼介たちに絡むことはなく、別のターゲットを探し始めるのであった。

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