第4話「なんでもする」
「──あー、面白かった」
買い物を終え、家路につく途中。
先ほどの店員とのやり取りを指しているのか、はたまた、今日一日のことを指しているのか。
そんな葉月の言葉を聞き、涼介は一つ息を吐きながら。
「カップルに間違われるの、これで何度目だよ……」
「ま、アタシたち全然似てないもんね。店員さんもしょうがないでしょ」
「そうかもしれんが……。というか、お前も笑ってないでちゃんと説明すれば……」
「だって面倒なんだもん。それに、別に涼介となら、勘違いされてもそんな気にしないもん」
「は?」
「だって──兄妹でしょ、アタシたち。なら、別に恥ずかしいとか思わないし?」
「……ま、そうだな。確かに、恥ずかしくはない。どっちかと言えば、俺は面倒くささが上だ」
「へー、面倒だって思ってたんだ」
「そりゃそうだろ。高校時代、どれだけ嫉妬の目を向けられたことか……」
「あー。ごめんね、アタシが可愛くて」
「うぜぇ……」
そんな、軽口を叩きながら帰り道を歩く二人。
すると、葉月は少しだけ表情を変え。
「ね、涼介。ちょっと寄り道しない?」
「寄り道? どこへ行くんだ」
「この辺に公園があるんだって。ちょっと行ってみようよ」
「……はぁ。お前、ほんと元気だな」
こんな風に、葉月に振り回されるのは今に始まった話ではない。
先を歩く背中を見ながら、涼介は少し、昔のことを思い浮かべていた──。
◆
二人がやってきた公園は、綺麗な桜が咲いていた。
夕方。少しだけ肌寒さを感じつつも、春の訪れを感じさせる。
葉月は、そんな光景に目を光らせ、「インスタにアップしなきゃ」と、急いでスマホを取り出し写真に収めていた。
そして涼介はと言えば、流石に疲労を隠し切れず、ベンチへ腰かけて一休み。
家から近所とはいえ、食料品、日用品の入った袋4つを下げて歩くのは、流石に疲れたといったところ。とはいえ、葉月に持たせるわけにもいかないので、弱音を吐かずここまで頑張ったというわけだ。
やがて、満足いくまで写真を撮った葉月が、そんな涼介の隣に腰を下ろした。
「荷物、ありがとね」
「いいよ、別に。お前の荷物持ちは慣れてるし」
「あーそっか」
一つ笑い、桜を見上げ。
「桜、綺麗だよね。都会って、こういう場所全然ないのかと思ってた」
「はは、そうだな。確かに、ビルばっかりってイメージだもんな……」
公園をぐるっと見回す。
そういえば、子供の頃、葉月とふたりでこうやって遊んだりしたっけな……。
「──ね、涼介」
と、昔を懐かしんでいると。
葉月が、やけに真面目な面持ちで、口を開いた。
「ありがとね、色々」
「……え、なにが? 荷物のことは、いまお礼聞いたけど」
「いや、ルームシェアのことよ。正直、アタシのワガママを聞いてもらった感じになっちゃったからさ」
「あー、そういうこと。……なんか、お前からそうやって改まって感謝されると、ちょっと気色悪いな」
「ちょっと、なに! アタシだって、ちゃんとお礼くらい言うわよ!」
全くもう……と、ご機嫌斜めな葉月。
涼介は苦笑しながら。
「いや、スマン。……けど、別に気にしなくていいぞ。そもそも本当に嫌だったら、最初から断ってるしな」
実際のところ、涼介はこのルームシェアの提案を、迷惑だとは思っていない。
今日から生活が本格的に始まるので、これから色々面倒事も増えてくるとは思うが、少なくとも、後悔することはないだろう。
「それに、飯だって作ってくれるんだろ? なら、むしろ感謝するのは俺の方だ。一人暮らししてたら、きっと毎日コンビニ飯だったろうしな」
そんな涼介の言葉に、少しだけ安堵の表情を浮かべる葉月。
「あはは、そっか。ならよかった。……けど、感謝してるのは本当だから。それだけは覚えておいて」
「ん、わかった。なら、いずれこの恩は、何かで返してもらうとするかな」
冗談交じりに涼介は話す。
しかし、葉月はその言葉を正面から受け止め。
「お返し……。うん、そうね。なにか、お返しできることがあれば、何でもするわ」
そういい、考え込む葉月。
今の自分に、何ができるか考えているようだった。
「涼介はさ、なにか無いの? 困ってることとか」
「困ってることねぇ……。別に、金がないくらいか」
「それは……アタシにも、どうしようもないわ……」
「だよな。分かってる。別に、あてにはしてないから気にするな」
言いながら、スクッと立ち上がる涼介。
やがて、ベンチに座る葉月を見下ろすような形で。
「ま、なにか困りごとができたら、相談するわ。別に、今すぐ何かしてほしいってわけじゃないし」
「そっか、わかった。けど、何かあったらすぐ相談してよね。アタシにできることなら、協力するから」
「ああ、その時はよろしく頼む。……ぶっちゃけ、葉月のことは結構信頼してるからさ」
「あ、そうなんだ。アタシって、あんたの中で結構評価高かったのね」
「まあな。頼りにしてるよ、”妹”」
「ふふっ。任せて、”お兄ちゃん”」
互いに、慣れない呼び方をしたせいか、それとも柄にもないことを話したせいか。
顔を見合わせた二人は、段々と笑いがこみ上げてきて、思わず声を出して笑ってしまった。
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