第2話「意外と乗る気」

「だから、ルームシェアよ、ルームシェア。意味わかる?」

「いや、バカにするなよ。意味くらいは分かってる。わかったうえでの反応だ、今のは」


 突拍子もない提案に、思わず顔をしかめる涼介。


「あー、でも兄妹だと、ルームシェアとは言わないのかな? 同居? も、なんか違う気がするし……」

「いや、俺が言いたいのはそこじゃない。そんなことは、本当にどうでもよすぎる」

「? じゃあ、何が引っかかってるの?」

「ルームシェアしようって提案そのものが全部だよ。いきなり突拍子もない提案をされたら、流石に突っ込まざるを得ないだろう」

「そう? でも、理由は節約のためだって説明はしたし……あとは、何を話せばいいの?」


 逆に何が気になってるの? と、不思議そうな表情の葉月。

 そんな葉月の顔を見ていると、なんだか間違っているのは自分の方なのでは、という錯覚に陥りそうになる。


「まず、どこまで本気なのかを聞きたい」

「どこまで……うーん、結構本気? 別に、冗談で言ってるわけじゃないけど」

「なるほど。じゃあ次。お前はいいのか? 俺と二人で暮らすってことだぞ」

「うん、別に気にならないけど。涼介って、料理苦手よね? なら、食事当番はアタシが担当するわ。その代わり、掃除とかはやってくれると嬉しいかも」


 そういうことを聞きたいのではない。

 と、ツッコんでしまったら余計話題がそれそうなので、グッとこらえる。


「……親父たちには、もう言ったのか?」

「言ったよ。二人とも賛成だって。むしろお父さん、アタシのことが心配みたいだったから、その方が安心だって言ってた」

「……もしかして、親父が一向に部屋探しを進めようとしなかったのは、それが理由なのか……?」


 やれ仕事だなんだと、部屋探しに非協力的な父親への不満を募らせていた涼介だが、その理由がなんとなくわかってしまい、余計ストレスとなってかかってくる。


 父、大輔は、とにかく葉月のことを溺愛している。

 離婚した原因は、母親とのちょっとした喧嘩が原因だと聞いている。そのため、後になって死ぬほど後悔したと、涼介は子供のころから何度となく聞かされてきた。

 そのため、父は今でも復縁を望んでいるようで、あとは母親の返答次第というところ。そこまで険悪というわけでもないので、もしかしたらそのうち、そういうことあるかもしれない。

 ともかく、そんなわけで……普段会えない分、大輔は葉月のことを、とにかく大事にしている。本人がウザがるほどには。


「とにかく、涼介はどう? アタシは、別に涼介なら一緒でも構わないけど」

「そうだな……」


 突拍子もない提案に、最初は驚いた涼介だったが、改めて考えてみると、案外悪くない提案なのでは、と思い始めていた。

 葉月の言う通り、一人暮らしは何かとお金がかかると聞いている。

 それに、住む場所は東京。こことは、物価も大きく異なる。

 となると、節約は必須だ。月の出費で一番大きくなるであろう家賃、光熱費をある程度浮かせられるというのは、非常に魅力的なのである。

 そして何より、相手が妹だというのも大きい。

 家族相手あれば、変に気を使う必要もないからだ。


「……まあ、アリかもしれんな。選択肢としては、悪くない提案だ」

「でしょ? 涼介にだって、十分メリットあるしね!」

「そうだな。……わかった。とりあえず、前向きに検討してみる。親父にも相談しないとだし、一応母さんとも話をしときたいからな」

「ほんと、やったー! それじゃ、お母さんにはアタシから話とくね♪」


 ──そんな話し合いから、一か月後。


 その間、とんとん拍子で話は進み、無事に引っ越しを終えた。

 母の知り合いの紹介で、かなり安くいいアパートを借りることができた二人。

 家賃はなんと、五万円。それでいながら、間取りは2LDK。風呂トイレ別という、大学生の住む部屋にしては、十分すぎる環境。


 そんな場所で、今日から涼介と葉月、”恋愛感情を持っていない”男女──兄妹二人の、ルームシェア生活が始まるのであった。

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