恋愛感情のない双子の兄妹が、二人暮らしをするとどうなるか?
ミヤ
第1話「唐突な提案」
こうして呼び出されるのも久々だなと、待ち合わせ場所へ一足先に到着した
高校を卒業し、春休みを迎えた今日。
ここ『喫茶ラズベリー』へとやってきたのは、妹からの呼び出しが理由だった。
「……あいつ、人を呼んでおきながら遅刻かよ」
時計を見ながら、愚痴っぽく呟く。待ち合わせの時間は、すでに五分近く過ぎていた。
大学の入学式に向けて、色々準備しなきゃいけないこともあるんだがな……と、途中で投げ出した書類などを思い出しつつ、頭を掻く。
今日は三月の上旬。入学式までは一か月近くあるとはいえ、ここから遠く離れた東京の大学へ進学が決まっている涼介にとって、この時期は、決して暇なタイミングとは言えなかった。
何しろ、まだ住む場所が決まっていないのだ。
本来、アパートを探すのは最優先事項なのだろうが、父親の仕事の都合などもあり、なかなか手続きが進まなかった。
その結果、入学式まで一か月切ったこの時期なのにも関わらず、入学後に住む場所が決まっていないのである。
「ゴメン、涼介。遅くなったわ」
やがて──。
申し訳なさそうな表情を浮かべ、呼び出した張本人──妹の、
「遅いぞ。集合は一時じゃなかったか?」
「だからゴメンってば。時計が遅れてたのよ」
「はあ……まあ、別にいいけどさ」
呆れつつ、葉月に座るよう促す。
そして涼介は、さっそく本題へと入った。
「……で、何の用事だ? 言っとくが、俺も引っ越しの準備で忙しいんだ……」
「あ、うん。その話ももちろんするけど……すみませーん」
こいつ、待たせたくせに優雅に注文までしやがって……。
と、わがままというかフリーダムというか、相変わらずの妹様っぷりに、怒る気すらも起きず、ため息をつく。
「──んー、おいしい。やっぱここのミルクティーは格別ね」
「はぁ、それはよかったな」
やがて、注文したミルクティーを、それはそれはおいしそうに味わう葉月。
そろそろ本題に入ってくれないかな……と考える涼介のこともお構いなしに、
「ここのミルクティーとお別れするのだけは、ほんと残念だわ」
と、そんなことを口にした。
しかし、その言葉は涼介に引っかかった。
「お別れ? なんだお前、引っ越すのか?」
「ん? そうよ。だってアタシも、春から大学生だもん」
「いや、そりゃ知ってるけど。お前、どこの大学行くんだ? てっきり地元から出ないのかと──」
「──西北よ、
「……は?」
西北大学。東京郊外に位置する、ランク的には中の中な、どこにでもあるごく普通の大学。東京から遠く離れた田舎住みの自分たちには、縁もゆかりもない学校。
しかし、涼介はその大学をよく知っていた。
「ちょっと待て、葉月。お前、西北なのか?」
「そ。今日呼び出したのも、それが理由」
涼介が反応した理由。それは……葉月の通う西北大学は、自分も春から入学する学校だったからだ。
「アタシ、憧れだったのよねぇ、東京の大学って! なんかカッコいいじゃない?」
「──むっ」
「でも、勉強は苦手だし……。で、結局、西北を選んだの」
「──うぐっ」
葉月の説明一つ一つに、思わず反応してしまう涼介。
それもそのはず。涼介も、葉月と全く同じ理由で、東京の大学を受験したからだ。
憧れの一人暮らし。それも、東京での生活。
あいにく、学業はそれほど得意でなかったため、郊外の中ランク大学を選択せざるを得なかったが……それでも、こんな田舎と比べれば、都会も都会。
そしてそれは、妹の葉月も同じだったようだ。
田舎を出たい。だが、勉強は苦手だから、ちょうどいい感じのランクを選んだ、と。
(この兄にして、妹ありって感じだな……)
さすが双子。変なところが似てやがる。
しばらく一緒に暮らしていないとはいえ、それでもやはり血のつながった兄妹。似ているところは似ているなと、改めて感じる涼介。
──
だが、涼介とは一緒に暮らしていない。もう、十年近く。
小学生のころ、二人の両親が離婚したことをきっかけに、別々に暮らすこととなったのだ。
その際、涼介は父親に、葉月は母親に引き取られることとなった。
ゆえに、葉月は『仁科葉月』から、母親の旧姓である『七瀬葉月』へと名前が変わった。これが、二人が兄妹でありながら、名字が違う理由。
しかし、不仲なのは両親だけ。涼介自身は、別に葉月に対してどうこうという思いもないし、それは葉月も同じ。
なので、こうした互いに用事があれば、よく二人で会うこともあった。
休日など、葉月の呼び出しで街へ何度も繰り出したことがある。
閑話休題。
東京の大学へ進学すると聞き、それが呼び出した理由と知った涼介は、いよいよ本題を切り出した。
「……お前、知ってたのか? 俺も西北だって」
「うん。お父さんに聞いたよ。びっくりした、まさか涼介も同じ大学なんて。やっぱりあれだね、アタシたち兄妹だよねぇ」
「ああ、全くだ。俺も同じことを思ってた。それに理由まで一緒とは……」
ため息交じりに続ける。
「で、それはいいとしてだ。今日は結局、何の用だったんだ? まさか、大学が一緒だって報告だけか?」
「あ、ううん。その報告もあったんだけど……一つ、涼介にお願いしたいことがあって」
「お願い? 言っとくけど、貸す金はないぞ? 俺も金欠なんだから──」
「──そう!」
「うおっ!?」
涼介の『金欠』という言葉に反応し、いきなり席を立つ葉月。
驚き、涼介は思わずのけぞってしまう。
「そうなの、金欠なの。涼介がそうなように、アタシも」
「まあ、そうだろうな。高校生の懐事情なんて、たかが知れてるし。春休みもなんだかんだでバイトする暇ないしなぁ」
「ええ。でも、春から大学生でしょ? せっかくの東京暮らしだし、色々遊びたいじゃない?」
気持ちはわかると、葉月に同意する涼介。
田舎暮らしの涼介にとって、都会は憧れの場所。もちろん、節約を心掛ける気持ちではいるが、多少の無駄遣いだってしたいところだ。
「一応、アタシもバイトはするつもりだけど……やっぱ学生だから、稼げる金額もたかがしれてるじゃない」
「そうだなぁ。親父も仕送りには期待するなって言ってたし」
とはいえ、涼介も最初からそこは当てにしていない。
学費を払ってもらう以上、生活費や家賃は、自分のアルバイトで賄う予定だった。
「で、アタシは考えたの。何かいい方法はないかって」
「ほう。それで、思いついたのか?」
「ええ、もちろん。だから涼介を呼び出したの」
「? どういうことだ?」
「アタシが考えたとっておきの作戦には、涼介、あんたの協力が必要なのよ!」
「……ほう。で、その作戦ってのは?」
「それは……涼介とアタシが、ルームシェアすればいいのよ!」
「…………は?」
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