唐突…な喪服男

 今日は付き合いのあった社長の葬儀だったが、俺は仕事が押してしまい、止むなく途中参列となった。

 葬儀場に着いて俺は驚いた。焼香台まで歩くのに、みんな阿波踊りをしているのだ。

「いい葬儀でしょう」

 唐突に喪服の男が小声で話し掛けてきた。


「えっ…?」

「お焼香は伝言ゲームみたいなものですからね。みんな前の人の作法に倣ってやるんです」

「…まぁ、作法は宗派で多少違うので、確かにそうかも知れませんね」

「時々私はお焼香の列に入り、作法を変更しているんです」

「なぜ、そんな事を…」

「みんなが分かりきった作法だとダレますからね。葬儀の緊張感がなくなりますよ」

 男は語気を強めた。

「…そうですかね」

「いゃあ、しかし、こういう大きな葬儀はいいですよ。作法の変更のしがいがあります。圧巻でしょう、阿波踊り」


 男はまた、阿波踊りをしながらお焼香の列に並んだ。

 そして、お焼香の後、遺族に一礼すると郷ひろみの様なジャケットアクションをした。

 勿論、次の参列者も見様見真似で続いている。

「そんな事をして問題にならないんですか?」

「みんな喪服ですからね。大きい会場だと同じ人が2度出ても3度出てもバレないんです」

「はぁ…あなたは何者なんですか?」

「人は私を葬儀と寝た男と呼びます。あと香典泥棒とも呼ばれます」


 男がそう言った瞬間、俺の数珠が切れた。

 誤って珠を踏んだ男はよろめき、俺とぶつかった。

 気が付くと、俺と男は体が入れ替わっていた。

 俺は、仕方なく次は作法をどう変えてやろうか、そして香典は誰か管理しているのかと考えていた。

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