唐突…なウエスタンブーツ男

 出張の為、新幹線に乗っていると隣の席に怪しい男が座った。

 七三分け、スーツ姿にウエスタンブーツという出で立ちである。


「ハロー、全米ロデオ協会の者です」

 男は唐突に話し掛けてきた。

「ロデオ分かりますか?」

「あぁ…あの暴れ牛に振り落とされない様に乗るやつですよね」

「暴れてると言っても、所詮牛なので、基本的にずっと乗っていられます」

「でも、みんな数秒で落ちてますよね?」

「あれだけ上下に揺れると、ポケットの中の物が落ちるんですよ。そして家の鍵が落ちたら、完全にギブです。みんな反射的に牛から落ちます。空き巣怖いですからね」

「空き巣?」

「お兄さん、ただの空き巣じゃないですよ、アメリカの空き巣です。怖いでしょう」

「まぁ…怖いですね」


「それと、牛から落ちてみると分かりますよ。本当に沢山の小銭やポイントカードが落ちてるんです。これまで色んな人がポケットから落としたんでしょうね。私はその中から、ポイントがかなり溜まったカードを持ち主に届ける仕事をしてるんです」

「…ロデオに届ける仕事があるとは知りませんでした」


「あと、牛から落ちた人はヨロヨロしてます」

「そりゃ、体がガタガタになるでしょうからね」

「違います。陸酔いおかよいですよ。みんな『あれ?まだ牛の上みたい』って口を揃えて言います。私は『目を覚ませ』と言って、頬をグーで殴るんですよ」

「凄い仕事ですね」

「そこは仕事じゃなくて、趣味でやってます」


 男がそう言った瞬間、俺の前の席のリクライニングが倒れた。

 俺は慌てた為、全米ロデオ協会の男と肩がぶつかった。

 気が付くと、俺と男は体が入れ替わっていた。

 俺は、仕方なくポイントカードの束を見つめ、それぞれの住所を確認していた。

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