32話目 九芒星の魔術師

『ソルティナ、わたしがんばるね!』


「ええ、私も頑張ります!!」


二人の声が、想いが、重なる。

その瞬間、私達の魔力が急上昇し、空に魔術陣が浮かび上がる。



精霊魔術Lv10『スピリット・フィールド』!


辺り一面の魔力が高まる。精霊魔術の威力と成功率を上昇させる魔術。これならどんなに難しい魔術も簡単に使える。



精霊魔術Lv10『イフリート』!


一瞬、巨大な魔術陣が浮かび上がると、その中から出てきたのは腕と足が炎に包まれた少女だった。



『何の為に吾を呼ぶ?力か?富か?名声か?』


高い声があたりに響く中、私は答える。



「あなたの力を貸して。私は倒すべき相手がいるの」


少女が恍惚の笑みを浮かべて嗤う。


『ならば相応の対価を!』


「そうね…。マシュマロ一年分でどう?」


『なっ、何ぃぃ!?マシュマロ一年分だとぉぉぉ!?』


王都で人気の菓子、マシュマロ。ふんわりとした食感と甘い味で人気を博すあのマシュマロ。


精霊(イフリート)はとことん甘いものに目がなかった。この間、なんとなくお菓子をあげたらスイーツ大好きなことが発覚。なら甘いものを対価にすればイフリートは結構簡単に出てきてくれるのだと知った。



『い、一日に3マシュマロだったのが、365日…!

吾のスイーツ天国はここにあった!!!』


外見10歳の少女がマシュマロにはしゃぐ図。傍から見たらそれはもうカオスなのだろう。



『契約成立!!それでは吾はお主に力を貸そう!』


すると少女に変化が訪れる。

腕と足の炎が少女の全身を包む。そして現れたのは一振りの槍が現れた。その槍は炎を纏う。



「それでは、第2ステージです。本気で行きますよ!」


『ソルティナ、あわせるよ!』


「二人まとめてかかってこい!」


私は槍を手に、セラとともに駆け出した。




           ★



あああぁぁぁぁぁぁ、だめだ、ものすごく強い!!

ソルティナの動きが急に良くなった!セラっていう精霊もちょくちょく大ダメージを叩き込もうとしてくるし、かと言ってソルティナを無視しても危険。あの炎の槍からはヤバい雰囲気を感じる。

久しぶりにこんな猛攻された。二人に注意を割くのってだいぶきつい!これが一対多のバトルか!


言ってる場合じゃない!



精霊の弱点ってなんだっけ!?得意な属性とかあるみたいだけど、苦手な属性はなし。媒体が必要ではあるけど、その媒体はソルティナだし、ソルティナ自身は防御魔術で守られているわけで。

控えめに言っても詰みなんだよなぁ…。破るには本気を出さないといけないし。




………………。




もういいか。本気を出しても。これ以上の戦いを続ければ私が負ける。このまま戦っても、ソルティナはもう十分に戦う力を残さずに、次の試合で負ける。なら、私が倒す。


再び、スキルを発動して、自身を強化する。


私は……手加減しない。






理の魔術『八芒星オクタグラム






私の周りに8つの水晶が顕現する。虹色を灯し、

ただ私のためだけに輝く。



「なっ!?何ですか、これは!!」


『ソルティナ、きをつけて!これやばい!』



直後、水晶は形を変え、鋭い剣になる。



「行け」


8つの剣が舞うようにソルティナを襲う。

ソルティナが剣で防ぐが、間を縫うように剣がソルティナを斬る。



「次。元に戻れ」


剣は攻撃をやめ、元の形を作る。



冥黒魔術Lv10『ブレイクアロー』



私が1本、水晶が8本の漆黒の矢を放つ。

この魔術は精霊キラーと言ってもいいほどの効果を持っている。



「セラ!近くに寄って!」


防御魔術Lv10『エリアプロテクション』!


半円のドームが9つの矢から私達を守ろうとする。

1本が当たった瞬間、ドームが壊れる。



「なっ!?」


8つの矢がソルティナを命中した。

砂埃が舞い、ソルティナが見えない。



「危ない………あれ?痛くない?どうして…」


その瞬間、ソルティナの剣が光り、元の少女に戻る。その少女の目には憎しみが宿っていた。



『………よくよく考えるとマシュマロ一年分はありえぬのか?この大会での賞金で賄えるほどの金だと思わないのだが…。はっ!まさか吾に嘘を!?

吾を謀ったのか、オロカモノめ!お前をマシュマロみたいに焼いてしまおうか!!』


「謀ったって…!私はちゃんと契約しましたし、マシュマロ一年分も用意するつもりです!」


『ではその用意する分だけの金があると!一日3個は当たり前じゃから365かける3で…ええと、ええっと……』


「そんな気にしなくてもちゃんと用意しますよ!前年の優勝賞金がありますから!」


『ソルティナ、あなたおかいものでつかってなかった?』


「ちゃ、ちゃんと貯金してるぶんから出しますから!」


『ええい、怪しい!もー、こうなったらやけだ!吾とセラ以外を焼き尽くせばよかろう!?』


「なっ!?待ってください、イフリート!そこまでしなくても…」


『うるさい!吾に指図するとは偉くなったものだな、人族!』


『イフリート!ソルティナをわるくいわないで!』


味方と思っていたイフリートの反抗に驚くソルティナ。イフリートが辺りに炎を撒き散らす。それに怒るセラ。止めようとするが間に入れないソルティナ。自分でやっててカオスすぎる…。



冥黒魔術『ブレイクアロー』はすべてのものを壊す矢である。それは相手の魔術を壊したり、肉体を破壊したり。そして、対象に繋がっている契約や、友情関係すら壊してしまう、破壊の魔術。

建前の契約や、できて間もない友情は壊れやすいが、2年以上の友情は壊れにくい。だが、壊れてしまえば、治すことは難しい。


とりあえずソルティナの攻撃手段を破壊するためにセラ以外の精霊との契約を壊した。イフリートとの契約は途切れ、イフリートは暴れている。


巻き込まれないようにしているソルティナを無視し、私はイフリートへ語りかけた。



「おい、精霊。そんな雑魚より私と話さない?」


『むむ?人族にしては強い魔力だな、お主。なんだ?マシュマロが貰えない私はちょっぴり不機嫌だぞ?』


「マシュマロかぁ。美味しいよね、アレ。私の方についてくれるなら一年分は叶わないけど、美味しいマシュマロを手作りできるよ!どう?」


『な!!??マシュマロを手作り、だとぅ!?

あ、あのふわふわを作れるというのか、お主は!

う、嘘だ!嘘に決まっている!!騙されんぞ、吾は!』


「それは残念。じゃ、そこどいて。私が彼女を潰すのに邪魔なの。」


焰絶魔術Lv10『九つの焔』


私と8つの水晶により、魔術は増えて81。




『81の星焰』


狙ったのは、ソルティナ。

たとえ彼女が防御魔術を使っても、ダメージはあるだろう。



「必死で受けなよ、優等生?」


「なっ!?この魔術は!?」


驚くソルティナに魔術を放とうとしたが、ある考えが浮かんだ。



「……でも…。先に精霊から倒したほうが楽か」


魔術をイフリートに向ける。精霊がいなければただの人。急がば回れ。回りくどいかもしれないが、こういうちょっとしたことが勝負に影響してくる。



『まっ、待ってくれ!吾は死にとうないのだ!せっかくこの世界に降りられたのだし、お主の味方につく。吾は手作りマシュマロが食べられる!お主は吾を排除するという手間が省ける!うぃんうぃんだろう?!』


焦った様子を見せるイフリート。仮にも精霊が媚びへつらう姿など見たくなかったなぁ。まぁ外面はかわいい少女だし、許してあげるか。



「なら、約束して。この勝負に手を出さないでね」


『ははぁぁ〜〜』


イフリートは平伏し、炎に包まれると姿を消した。

さて。次はこいつ等だな。



「降参してくれると助かる。私もあまり人を傷つけたくない。あなた達に勝ち目はないのだし、早くこうさんしてくれ」


「…………嫌です」


「何故そこまでして勝ちたいと思うの?」


「………ただのプライドですよ、ちっぽけですけど」


プライドか。私にとってそれはないわけではない。だけど、他人との間で意地を張るほどでもない。

そんな私と正反対な彼女はプライドの為に戦っているのか。なんともまあ、くだらないな。



「そ。じゃあ次でおしまいにしようか?」


81の星焰を消して、次の魔術を用意する。


禁忌魔術Lv10『ゼロ・ランス』


それが九つ。私の後ろに展開された魔術陣はとてつもなく大きく、魔術陣の点を繋げれば九芒星が描かれる。


「ばいばい。楽しかったよ」


『ゼロ・ランス=エニアグラム』





九つの白槍が放たれた。



「セラ!こっちに!」


『ソルティナ!!』


精霊魔術Lv10『サモン・スピリット・デメテル』!


召喚されたのは生の精霊デメテル。しかし、圧倒的な破壊の前にデメテルが顕現できたのは数秒。精霊からすれば出てきたらとんでもない痛みですぐに消し飛ばされた、という大変不憫な結果となった。




後に残っていたのは、精霊を新たに召喚し、その精霊を盾に身を守ったソルティナ。術者の魔力がなくなり、顕現できなくなったセラが元世界へと戻る光景があった。


この試合を見ていた観客は静まりかえっている。優勝候補があっという間に倒されたから。誰も勝てないと言われていたソルティナを倒す実力を持っているから。


ソルティナは一歩踏み出し、魔力を練った。それが限界だったのだろう。彼女は意識を失って倒れた。


精一杯戦ったのだからせめてこれぐらいは、と回復魔術をかけてあげる。一瞬で彼女の傷は消えた。



圧倒的な勝利を見せた私は転移魔術で会場へと移った。静まりかえる観客も私の実力を認めたからか、ミカコールがはじまる。声援を背に受け、私は控え室へと戻った。



これは後に多くの功績を残し、『九芒星の魔術師』と呼ばれた魔術師が、戦った記録の一番古いものである。

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