31話目 特別な日。
『そして!ついにやってきたのは1回戦第16試合!本大会の優勝候補!2年連続優勝の女王は3度目を迎えるのか!3年生第1位!
ソルティナ・グランドリオン!
対するは魔術の天才!いや、天災!異常な魔術の才能を持つこの人が優勝候補と戦う!
1年生第10位!アンドウ・ミカ・ゼルディア!』
会場に声が響く。しかしその場にソルティナもミカもいない。
だがその場には4枚の巨大なスクリーンがあり、彼女たちはそこに映されていた。
『この試合は魔術の威力が強くなるという予想がされたため、別会場をアメリト平原に作り、万が一にも王都に被害が出ぬようにするためとなっています!また!このスクリーンに映っているのは付与魔術の応用になっています!』
わかりやすい説明の中、ついに試合が始まる!
『それでは!1回戦第16試合!スタート!!!』
★
『ホープ・インフィニティ』、『器用貧乏』、
『社畜精神』、『マナドライブ』発動。
最初からフルスロットル!
猛毒魔術Lv10『ダーディーウェーブ』!
状態異常『鈍化』の影響を及ぼす波がソルティナに襲いかかる。
スキルの並列使用。『ホープ・インフィニティ』で魔術の威力を強化。『器用貧乏』でできる限りの強化。『社畜精神』で状態異常無効化。『マナドライブ』で攻撃、魔攻、俊敏を上昇させる。
限りなく最速に近い魔術。
でもまぁ、これは小手調べ。
「開始と同時にここまでの魔術を展開させるのですね。流石、と言ってもいいですが…。私にはあまり効いていないみたいですよ?」
当然のように黒い波の中からソルティナが出てくる。鑑定Lv10で見ても、状態異常は……効いていないか。
「これで終わられても困るし。もっと君と戦っていたいんだよ」
「これが俗に言う戦闘狂?と言うやつですね」
「物騒なこと言わないでよ。乙女にそんなこと言ってると…………痛い目見るよ?」
相手が反応する前に近づいて殴る。
「!!」
「まぁまぁ速いですけど…。これくらい反応できなくては2連続で優勝していませんよ?」
拳を止められた。先手を取ったと思ったのに。
私の拳は彼女の掌に止められていた。
私のラッシュはことごとく止められる。
「なるほど、じゃ、これはどぉ!?」
氷絶魔術Lv10『アブソリュートゼロ』!
触れた部分が凍てついていく『アブソリュートゼロ』をラッシュに混ぜてノータイムで放った。
だけど。
ダメージが通ったようには見えない。
「これくらいで私を止められるとでも?」
「いいね…ノッてきた!」
このくらい、やりがいがなくちゃ!
ミカはソルティナと距離を取り、魔術を展開する。
禁忌魔術Lv10『ゼロ・ランス』!
アリシアに教えた禁忌魔術。
純白の槍はソルティナを貫こうと閃光とともに走る。その白に視界はすべて塗りつぶされた。
映像でも何が起こったのかわからないほどの白が映されていた。
砂煙が上がり、誰もがこの試合の終わりを想像する。しかし。それで終わるほどの相手ではないことがミカにはわかりきっていた。
「ほーら、やっぱり。ピンピンしてるじゃん」
「禁忌魔術まで使えるのですね。ここまでの威力を出すほどとは…。ここが王都でなくて心底ホッとしていますよ」
「これも効かないってことは…。防御魔術の類
かな?それを常に展開することでダメージを無くす。実質的なダメージは、普通の防御魔術で。状態異常などの特殊なものは、別の防御魔術で」
先程の4回の攻撃で掴んだ。どれも手応えはあるけど何かにぶつかったような手応えだった。
「……見抜いてしまうのですね。あなたほどの一流の魔術師がいるとは…。ダリアさんでさえ、私の魔術を見抜けなかったのですから」
「そこまではわかったのはいいけど…。どうしよっかな、コレ。君の魔術を貫く程の魔術を私は使えるけど、威力が高すぎる。そこからさらに手加減しても私の魔術は通らずに君からの反撃が来る。逃げ回ってもいいけど、それじゃ面白くないしなぁ…」
「それでは、どうしますか?」
「こうするかな」
禁忌魔術Lv10『オール・リセット』
その瞬間。ミカのスキルの効果が掻き消え、スキルや魔術によって消費された魔力が元に戻る。
そして、ソルティナの魔術も効果を失う。
「なっ!?私の防御魔術がっ!?一体、どうしてっ!?」
自分の魔術が効果を失い、動揺するソルティナ。
その隙を見逃すようなミカではなかった。
閃光魔術Lv10『ライトニング・フィスト』!
光の速さの拳がソルティナを襲った。
ソルティナが吹き飛ぶ。地面を2,3回バウンドして倒れた。
映像を見る観客は信じられない光景を見て興奮し、ミカコールで湧いていた。
「結構大きなダメージが入ったけど…」
油断せずにソルティナを見るミカ。
これほどで終わるようなほど彼女はやわではない。
その予想が当たる。
ソルティナはフラフラしながらもまた立ち上がった。
「まだ…まだ負けるわけにはいかないのです…!」
ソルティナは引かなかった。
★
『公爵家の役立たず』
それは私が嫌というほど言われてきた呪いの言葉だった。私が生まれた公爵家は代々、火炎魔術の才能を持ち、王家に仕えてきた。6つの公爵家があり、それぞれ火炎魔術、氷結魔術、突風魔術、大地魔術、閃光魔術、暗黒魔術をそれぞれ使う。
私の家は才能主義。火炎魔術の適性こそが至上と言われ、かつて才能を持たない長兄を抑え、才能を持つ末弟が家を継ぐこともあったらしい。
そんな家に生まれた火炎魔術の適性を持たない私。そんな役立たずのことを優しくするはずなかった。父は私を殴り、母は私を罵り、後にできた才能を持つ妹は私を見下し、家族は私を家の恥として、社交界に出さず、閉じ込めてきた。
元より私には精霊魔術と防御魔術の才能があった。精霊魔術とは精霊の力を借りて行使する魔術。防御魔術は己の身を護る盾となる魔術だった。しかもどちらもLv10。だが、それで何かが変わるわけでもなく、親が私を認めることはなかった。私は部屋に閉じこもる日々を過ごした。
そんな私に優しくしてくれたのはたった一体の、いや、一人の精霊だった。名をセラ。元来より、精霊にはそれぞれ使える魔術は決まっている。だが、セラには全ての魔術にある程度の適性があった。それこそ、火炎魔術にも引けを劣らないような威力を出せる。
「ねぇ、セラ。もし私がここから出て、自由になれたなら、私と一緒に暮らしましょう?きっと楽しい毎日が過ごせると思うの」
『いいよ、いっしょにいよう!』
そんなある時。私は家を抜け出した。もう耐えることができない、という思いでいっぱいだった。日に日にひどくなる虐待。父が放った火炎魔術に焼かれたとき、私の家族という存在はセラだけになってしまった。防御魔術を使い、壁のような盾を出し、父に投げつけた。
庭から飛び出し、街を走り。決して捕まらないように必死に逃げた。逃げて、逃げて、逃げて。そしてついに捕まえられてしまった。ロープで縛られ、逃げられないようにして、家に戻された。
父に、最後に残す言葉は、と聞かれたとき、あぁ、やっと楽になれるのだ、と安心した。いや、諦めたのだろう。目を閉じ、全て終わらせようとしたその時。
「おい、グランドリオン。てめぇ、そんなことしてやがったのか」
「全く、裏のあるやつね、相変わらず。その子を離しなさい」
声が聞こえたかと思うと、私を縛っていたロープが切れ、抱きしめられた。ふと、目を開けるとそこに剣を担いだ男性と私を抱きしめて、守るように隠す女性がいた。
「貴様ら、何者だ!」
「割と有名になったと思っていたのに、ヘンリー。私達のことを知られていないなんて」
「さっきダンジョンに潜ってたっていうのに、お前は元気だな、アリス」
「なっ、ヘンリーにアリスだと!?まさか貴様らは!?」
「おっ、気づいた?まぁ、気づかんほうがおかしいか。そうだぜ、俺らは巷でちょっと有名な冒険者だ」
「調子に乗っていないで、早くなんとかして頂戴」
「んじゃ……、ホイッ。これで終わったかな?」
「クッ、貴様らが相手でも公爵家の魔術師として………………」
その瞬間。父だった存在はあっという間に肉塊へと変わった。
「やりすぎじゃない?」
「この子のためだ。これにずっと縛られた人生とか終わってるって」
「……まぁ、そうだけど。せめて一言、確認を入れなさいよ?」
「そんなこと言ったってなぁ〜」
彼らの話が聞こえてくるが、私の頭の中で理解することができない。彼はいつ斬った?仮にも公爵家の魔術師を切られた本人も気づかないほどの速さで斬るなんて。そして、それに気づいている女性の魔術師。
圧倒的。ただ、それ以外に言い表せなかった。
多分、無意識だったんだろう。私は女性から離れ、彼らの方を向いて、懇願した。
「どうかっ……、どうかお願いですッ……!私を弟子にしてください…っ!」
「おお!?弟子!?」
「あらまぁ」
二人は驚いてこちらを見る。それでも構わない。私はこの二人のように強く、気高く生きたい!
私はっ、あんな狭い部屋に閉じ籠もった人生を送りたくないっ!
「自由が…、欲しかったんですっ!閉じ籠もって逃げて怯えた生き方をやめたいっ!セラと一緒に楽しく暮らしたいっ!あなた達みたいに強くなりたいんですッ!」
なんともまぁ、みっともないというか。今の私から見たら、とてもはしたないのかもしれないです。
でも、その日のことを後悔したことなんてありません。
泣きじゃくって、蹲っていた私を救ってくれた二人の英雄に出会えた日ですから。
あの日から私の中にある一つの目標ができました。また、彼らに出会えたら。その時にこれだけ強くなったんだよって、自慢したいんです。
見ていますか?アリスさん、ヘンリーさん。
私は今、あなた達の弟子として、誇りを持って戦うことを誓います。
精霊魔術Lv10『サモン・スピリット』!
出てきて、セラ。
★
出てきて、セラ。
そう呟いたソルティナの側にソルティナよりも背の高い女性が現れた。人?いいや、違う。人が持つような魔力じゃない。だったらこれは……!
「あなた、精霊魔術も使えるんだね!」
「彼女はセラ。私の大親友で大精霊です。私達の本気、見せてあげましょう!!」
『いきましょう、ソルティナ。わたしたちで』
まだ、続く。
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