30話目 『氷炎の魔術師』

色々あって1回戦最終試合、第15戦試合。

私から見ていてもそんなに面白いようなものではなかったので、寝ていました。


『さぁさぁ!続いての試合は!

イグニス選手の従者であり、隠された盾!

エマ選手!

対するはドラゴンと人の間に生まれたドラゴニュート!強靭な肉体とその巨体からは想像できない速さ!3年生ランキング2位の実力者!

ラードン選手!』


アナウンスが次の試合を知らせる。お眠だけどちょっと起きて見ておこうかな、と思うミカであった。




           ★



〈ねー、まじでやんの?逃げない?棄権とかもありじゃないかな?〉


「そういうわけにはいかないわ。この大会でいい感じの結果を残して、それなりの人生を過ごしてほのぼのした生活を送るのよ!」


〈老人かな?君さ、歳の割に意外と渋い考え方するよね?〉


うら若き乙女に何を失礼なことを。そう思いながら会場へと入る。


会場へと入る廊下に一人の大柄な男性がいた。



「おっ!あんたがエマか!俺はラードンっていうんだ、よろしく頼むぜ!」


「よ、よろしく」


「あんたイグニスの従者なんだろ?お互い正々堂々とした試合になるよう頑張ろうな!」


「はぁ………。………………ッッ!!」


ラードンが手を出し、握手をした瞬間だった。



〈毒だね、スキルで言うなら毒魔術Lv5ぐらいの威力だけど…。これくらいしか使えないのによくこの大会に出ることができたね?〉


「…何が正々堂々よ、クソ野郎」


「ハッ!いい目をしやがる!どんだけその威勢が続くか楽しみだなぁ!」


まだ始まっていないのに、こんな堂々とせこいことをしてくるものなのね。



会場へと入って準備ができた。



『それでは!1回戦第15試合!開始!』






あんな奴とまともに取り合っても意味ないわね。


火魔術Lv6!『マグマトラップ』



フィールドに6つ魔術陣が浮かび、ランダムに動いて姿を消す。魔術陣を踏むと効果を発揮する陳式魔術の効果を含ませた。効果は一定時間の火炎の持続ダメージを与える。


ユーラさんに教えてもらったけど、練度はあの人に届かない。だから『叡智』で魔術の効力を底上げできるよう、私用に組み直した。



「ッチ!小手先の魔術じゃ、できることも少ねぇんじゃねえの!?」


「あなたみたいに考えなしなことはしたくないからこうやって先手を取るのよ?」


「めんどくせぇなぁ……んじゃこういうのはどうよ?」


猛毒魔術Lv10『アシッドウェーブ』



嘘!〈んー。一筋縄じゃいかないよねぇ…〉


毒の波が広範囲を埋め尽くす。


火魔術Lv6!『フレアガード』


炎の盾が毒の波から私を守る。けどそれでも…。

漏れ出る毒は私の体を蝕む。


「くぅぅっ!やっぱり堪えるわね…。毒魔術じゃなかったのね、それ。猛毒魔術まで使えるのね?」


「俺は毒竜と人の子から生まれたドラゴニュートだ。使えるのは猛毒魔術だけではないんだけどな。これ以上は使い勝手が悪いから普段は使わないだけだよ」


「とんだピエロね。早く本気を出したほうがいいんじゃない?」


〈君も本気を出したほうがいいんじゃない?僕を使う?〉


嫌よ、あんな疲れるのは。『叡智』に頼るのはすごい疲れる。ミカにも届く威力を発揮する。

でも、反動もそれなり。ものすごく身体が軋む。

一時的に魔力を流して『叡智』の効率を上げる。

魔力を体に流して強化するのは一般的だけれど、反動で筋肉痛や頭痛のような状態になってしまう。『叡智』を使えば一般的な筋肉痛や頭痛とは比べ物にならないほどの痛みが体を襲う。

だからこれをできるのは身体的にも精神的にも限界である3分間。



「このまま誰にも見せずに、切り札にしておきたかったのになぁ…」


〈このままジリ貧で負けるよりはいいんじゃないの?〉


「切り札があんのか?なら使えよ。こっちも本気を出してやるからよ!」


スキル『ドラゴンモード』Lv5!


周囲の毒がラードンの覇気で吹き飛ぶ。

ラードンの見た目が人の姿から二足で立つトカゲのような姿になった。

体からは魔力が放たれていて、身体能力が向上している。


ラードンは私を倒すための最後の一手をうったのだろう。これ以上小細工はないと断定する。

相手がチャンスだと思った瞬間が私のチャンス!




『叡智』100%。


代償は決して軽くはない。


でも…。




私は私の人生を生きるの。





だから私は本気を出す。



「〈僕、降臨っ!〉」




           ★




「〈僕、降臨っ!〉」


はーい、皆さんどうも、歌って話せるイケメンスキル『叡智』でーす。

今の状態を説明するねー。スキル『叡智』の100%はオートバトルモードって言うと、わかりやすいかな。僕がエマの身体を借りて、意識を僕が掌握している状態。

これは本人の魔力とスキルの適正によって持続時間が変わるよ。エマは今までのスキル所有者の中でも、トップクラスの魔力と適正を兼ね備えてるのに、本人は「疲れるから」ってだけで僕を頼らないんだよねー。ああいうのをツンデレと呼ぶのかな?



「〈まぁ、どうせすぐ終わるしいいでしょ。さ、遊んであげるよ?おいで、トカゲモドキ〉」


「上等じゃねえか!やってやるよ!」


付与魔術Lv10『エンジェルウィング』

光の翼で空へと浮かび上がる。

そんな僕を追いかけようと、トカゲモドキが大地を割って、跳んで僕に襲いかかる。

そんな汚い顔しないでよ、汚物は目に毒だね。



「〈火炎魔術Lv10『エクスプロージョン』〉」


「なぁっ!」


空中に誘い込んで魔術を置く。


真正面に魔術をくらうトカゲモドキ。

潰れたカエルみたいな声を出して落下した。仮にもドラゴニュートなんていう半端もんなんだからこれぐらいは避けてほしかった。



「〈ねぇ、早く本気を出してくれないかな?時間制限はないけど、こんな茶番をする暇はないし、早くしないと怒られちゃうから〉」


「おっ、お前、何なんだよ!?さっきと口調も魔力も違ぇじゃねぇか!」


「〈さぁね?人ではあるけれど。……そうだね、

君とおんなじ半端者だよ〉」


そんな会話の中で僕は魔術を完成させた。巨大な魔術陣が空中に浮かび上がった後、僕の手の中に収まった。



「〈それじゃ、改めて自己紹介。僕の名前はエマ。イグニス君の従者でそれなりに強い魔術師。

昔は『氷炎の魔術師』って呼ばれてたね。

それでいて僕は……。そうだな…彼女の中にいるもうひとりのエマ、ということにしよーかな。なんかそっちのほうがかっこいいしね!〉」


魔術をラードンへと向ける。



「〈それじゃ、またね〉」


炎氷魔術Lv10『クリスタル・バースト』



手の中の魔術陣が巨大な魔術陣へと拡がったその瞬間。魔術陣が凍てつき、壊れる。氷でできた結晶の欠片に変わった魔術陣は雪が舞うように空から降り注ぐ。

そしてそれは美しい花が咲き乱れるように。

欠片に触れた彼から水色の炎が吹き出して、

彼を凍てつかせた。


『クリスタル・バースト』は氷結魔術と火炎魔術を混合させた魔術。対象を燃やして凍らせる。

燃えた相手ごと氷の中へと閉じ込める。炎で氷が溶けることはなく、炎が氷で消えることもない。

もちろん、燃やすだけでもいいし、凍らせるだけでもいいから、使い勝手がいい。



「痛たたたたた………。これで終わり?

案外早く終わって良かった…。

次の試合はミカなのね。彼女のことだから特設フィールドとか必要だと思うのだけれど、大丈夫なのかしら?」



氷像となったラードンに関心を示さず、自分のペースで生きるエマ。彼女が気にしているのは次の試合のことだった。








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最近投稿できてなくてスミマセン。

誠に申し訳なく思っています。

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