29話目 禁忌魔術の使い方





『さぁ、次の試合は!1年生トップと2年生トップの高レベルな戦いが始まる!

1回戦第4試合!

1年生の代表!授業でのダンジョン攻略の結果は1位!役立たずなんて言わせない!今試合でそれを完全証明できるのか!

アリシア・マーレ選手!

対するは2年生のトップ!

圧倒的女王!入学からトップをキープし続ける才女!3年生のソルティナ選手のライバルであり、今年はリベンジに燃える!邪魔をするなら容赦はしない!

ダリア・アルティアナ選手!』


ついに私の試合が始まろうとしています…。


もう……半分諦めがついたと言いますか。

何ていうか…隅っこで三角座りをしたいです。


私の目の前には凄い険悪な瞳で私を睨んでいるダリアさん。そして観客席には1年生トップと2年生トップの戦いを一目見ようと集まるたくさんの人。


今日私のお母様が来ているんです。お母様は私と似ていて心配性の引っ込み思案な性格です。

娘がこんな大舞台に立つと知ったときは数時間倒れていたみたいです。


観客席の右側にお母様の姿が!

お母様、助けてください!あなたの娘はプレッシャーで潰れてしまいそうなんです!


必死に目線を送るも笑顔で手を振るだけでした。

この恨みは忘れません、お母様。

お土産にあなたの嫌いなにんじんが入ったキャロットパンをたくさん買っていきますね?



「何変な方向を向いてるの。今から私との試合だというのにずいぶんまぁ余裕ね?これも1年生のトップだからかしら?」


「えっとぉ…。別に余裕なわけではないですし、あなたを侮っているわけではないのですが…。むしろこの大会の中で要注意人物の一人として考えていますから」


ふと気を緩め、ほんの少し嬉しそうな顔をするダリアさん。照れているのでしょうか?


「そう?その要注意人物は何人いるのかしらね?」


「3人です。ダリアさんとソルティナさん。そしてミカさんです」


「ミカ?あぁ、ソルティナと戦う奴ね。どうせソルティナが勝つのに何故そんな心配をするのか、不思議ね?」


この人はミカさんの恐ろしさを知らない。なんてったってミカさんは…。



「勝とうが負けようが注意すべき相手を注意していて損はないと思います。それに…。ミカさんが本気を出せば、私なんて瞬く間に倒されちゃいますから」


「そ。別に私には関係ないしいいわ。すぐに潰れないで?ウォーミングアップにはちょうどいいもの」


ダリアさんの影が伸び、日傘が出てきました。

それと同時に影の中から黒い狼が出てきます。

日傘を手に取ると影が元の形に戻りました。

傘が武器なのでしょうか?



『第4試合!アリシアVSダリア!試合開始っ!』







           ★



先手必勝!


闇魔術Lv10!『ダークバレッド』


黒色の弾丸が4つ、傘を媒介にして放つ。

小手調べぐらいの威力だけど詠唱する時間が短い。

バレッド系の魔術は大きさや速さを弄ることができる。

今回は弾丸小さめの速さ重視。小石くらいの大きさだけど、速さは目で捉えることは難しいわ。

さて、どうするのかしらね?



「『概念吸収』!」


私の放った『ダークバレッド』はアリシアが深い黒色の穴を発動させて、吸収した。



「え?」


「それじゃあお返しです!『放出』!」


なんだか嫌な予感がするわ!

私は傘に魔力を流して傘を堅くして盾にした。


その瞬間。アリシアから私が放った

『ダークバレッド』がとんできた。



「なっ!?これ、私が放った魔術!?」


「こ、これぐらいの速さの魔術ならまだまだ余裕です!」


「嘘!?舐めてると痛い目にあいそうね!じゃあ、これはどう!?」


影魔術Lv10!『影道』!

火炎魔術Lv10!『ファントム・フレア』!


『影道』は影を媒介にして放つ魔術。私の影を通った物質を影がある場所に通す。例えば魔術。例えば食料。生物以外なら何でも通す。

『ファントム・フレア』は火炎魔術の中では威力は弱いけど、その強みは数。無数と言ってもいいほどの火の玉が相手を襲う。


死角からの大量の魔術。これなら吸収しきれないでしょう!?



「『概念吸収』!」


アリシアがスキルを発動するとあっという間に

『ファントム・フレア』が飲み込まれてしまった。


残りの魔力は約6割。流石にまずいかしらね?


少し焦り始めていたとき。

………アリシア?あなた、何をやっているのかしら?






           ★



「『設置』」


『ファントム・フレア』を吸収したあと。私は反撃の準備を始めます。


魔力を流して魔術陣を作成。その魔術陣を

隠遁魔術Lv5『インビジブル』で隠す。


今作っているのは私の中で最高威力を叩き出す魔術で、その扱いはミカさんでも「難しい」とのこと。


流石に過剰かもしれませんがそれでも足りないかもしれません。どれだけ保つのかわかりませんし、防御しきられたら打つ手なしなので。


会場を時計回りで移動しながら魔術陣を作る。

魔術の威力増加、命中率上昇、制御能力上昇。

魔術発動の確率上昇。


全て魔術の精度を増す魔術陣。それを12個。

その魔術陣でラインを作り、更に魔術陣を作る。



「走っているだけでは勝てないわよ!

闇魔術Lv10『ダークアロー』!」


「くっ!痛いですよ、その魔術!やめてください!」


「やめるわけ無いでしょう!?どれだけ私をおちょくるのよ!」


おちょくる暇なんてないんですよ、ダリアさん。

最後のラインを書き終えました!



「なーんかきな臭いわね?ここかしら!」


「あっ!」


ダリアさんは『ダークアロー』を地面に放ちました。やっぱりバレますよね…。



「これは…魔術陣?しかも『制御能力上昇』?何か嫌な予感がするし、一気に壊しちゃおうかしら!」


火炎魔術Lv10!『フレア・レイン』!


広範囲に火の玉を撒き散らす魔術!

それでも。



「リスク無しで放てるほど実戦は甘くないですよね!」


魔術が発動する前に。



私は魔術を放った。





           ★





無属性魔術『ゼロ・ランス』。圧倒的な威力を誇る魔術だけど、それにかかる負担は決して軽くはない。

無属性魔術という物自体あまり知られていない。

むしろ誰も知らない。私だってミカさんに教えてもらう前までそんなものは知らなかった。



『無属性魔術っていうのはいわゆる殲滅専用の魔術だね。禁忌魔術に分類される魔術だよ。その魔力の使用量と魔術の威力から封印すべき魔術として扱われるようになったんだ。『ゼロ・ランス』はその中でも弱い方の魔術だね』


『こ、こここここ、これで、ですか?』


私の目の前に広がるのは遥か遠くまで抉れてある大地。これはミカさんに魔術を教えてもらっていたときのことです。

ミカさんがこれを『概念吸収』して、と言ったので発動しましたが、吸収しきれなかった余波でこの被害です。



『殲滅専用なんだからこれぐらいの威力がないとだめでしょう?昔の人はこれを危険だと思って封印したのだろうけど、そんなに危険ではないわ。並の魔術師が命を賭して発動させるような魔術なだけで』


『そ、それを禁忌魔術というのですよ?!』


『うーん、まぁ大丈夫でしょ!』


『軽すぎませんか?!』



           ★






そして私は魔術を空へと放ちました。

なぜって?そりゃもちろん、誰も殺さないように、です。



『ゼロ・ランス』!



魔術の余波で、観客席が揺れ、街が揺れ、近くの森にまで届く爆風。


真っ白な一本の槍は大気さえも消し飛ばす、一筋の光となって消えていきました。







その試合の結果?はっきりとは言いませんが、私の母は気絶して、ダリアさんは……言わないほうがいいこともあるでしょう。乙女にそれはあまりにも残酷ですので。

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