28話目 練魔の魔術師は剣を振るう


『さぁ、1回戦第3試合は!この好カードの戦いだぁ!

我らが国の第二王子!その深紅の瞳と白銀の髪が輝く!彼の圧倒的な炎は燃え尽きることを知らず、その剣はすべてを焼き切る!

1年生第2位!

イグニス・M・シーファンネル選手!


対するは2年生第4位!

魔術の才だけでなく、剣の腕前も一流!魔術と剣術の二刀流が輝く!努力の騎士!

エドガー・スーゼル選手!』


アナウンスが響き、両選手が会場へと入る。二人の瞳には、燃え滾るような情熱の炎が宿る。


エドガーは金髪碧眼。ガタイもよく、服の下に隠されている鍛えられた肉体とクールな表情が観客を盛り上げる。


『二人とも剣術と魔術の凄腕!どのような戦いが見られるのか、楽しみだぁ!』


二人が会場で相対する。お互い睨み合いながら、

エドガーがイグニスに話しかけた。



「汝と戦うのを心待ちにしていた。お互い魔術でも剣術の2つで優秀と言われてきただろう。2つの強力なスキルを持ち、天才だと言われてきただろう」


彼が話す身の上話。だが、イグニスはそれをくだらないと思うことはなかった。



「あぁ、そうだな。天才という言葉を並べられ、お飾りを身に纏っていた。周囲はそれを誇り、賛美した」


何気ない会話。だがその中には、この二人だけしか見ることができないものがあった。



「そういう奴らこそ…」


「「『我の』『僕の』努力を見ていなかった」」


そう、それは見えないもの。例え大きな力を持とうと、慢心せずにただ、剣を振り、魔術を唱え続ける。その積み重ねが彼らをここまで登らせてきた。


だからこそ、天才という陳腐な言葉で片付けられるのが気にくわない。自分が才能だけでここまでやってきた人間だと思われたくないから。見えない努力で相手に勝ちたいから。



「僕は、ここで負けて、折れるわけにはいかない。努力でここまで来たからこそ、誰にも、負けたくない。僕の父や友にも証明しなければならないしな」


「努力を怠らなかった魔術師である汝に敬意を。しかし、努力は我もしている。ならばこそ、努力で負けるわけにはいかない」


二人の熱い想いがぶつかり合う。


そして。



『第3試合!イグニスVSエドガー!試合開始っ!』





           ★






強い。迷いのない剣筋と魔術の組み合わせ。

剣を振ったあとにできる隙を、火炎魔術を体に纏うことで、剣が当たらないように工夫している。

一つ一つの動きがなめらかで、剣術と魔術が互いに邪魔をしていない。


まさかここまでの実力者だったとは。


エドガーは剣を振りながらイグニスの隙のなさに驚いていた。


イグニスが剣を振るったあとに続くように一直線上に炎がすり抜ける。距離はそこまでないものの、剣を真っ向から受ければ厄介なことこの上ない。仮に避けたとしても、次の剣がくる。


しかも…イグニスは速い。剣を振るうスピードは勿論のこと、次の攻撃に移る速さや、攻撃の溜め、魔術の詠唱までギリギリ目で追いつけている状態。


多少威力が低い剣撃でも、魔術による攻撃で欠点をカバーされている。剣に魔力が通っているので、剣を振った後の炎が剣撃の威力のカバーをして、攻撃力を補っている。

さらに、距離をとったときに追撃での火炎魔術!

足元に設置する魔術から直接飛んでくる魔術まで!

多種多様な戦いで並の者なら翻弄させられているだろう。


このままでは圧倒的に不利ではある。


だんだん我に攻撃が当たり、ダメージが蓄積される。ここまでダメージを与えられると、流石に保たない。一か八かではあるし、できれば最後まで取っておきたかったのだが…我の奥義を出すしかない!






閃光魔術Lv10!『ライトニング・エレメント』!


突風魔術Lv10!『エアロ・ブースト』!




『ライトニング・エレメント』は中距離に4つの剣を顕現させて、相手を切り裂く魔術。1分の間顕現し、範囲内に入った相手を自動で攻撃する。

『エアロ・ブースト』は我の俊敏を上昇させ、風の鎧を作る魔術。風で作られた鎧に触れると、一定のダメージが与えられる。




魔術の複合発動!だいぶ魔力が削られるが…!


「本気でいこう、魔術師イグニス。汝の剣を見せてみよ!」





           ★





まさかこんな切り札があったとは。エドガーが魔術の複合発動をして僕はなかなかに追い詰められていた。


エドガーの攻撃が急激に速くなり、反応するので精一杯。剣で攻撃を受ければ、背後から4本の剣が私を襲う。必死になって回避し、攻撃をしても、風の鎧に阻まれる。元々速い剣撃で相手を翻弄しながら戦っていたが、それは相手が僕より遅ければ、の話。ここまでエドガーが速いと、後手にまわってしまう。


ついに僕は、足を絡ませて、膝をついた。



「ハァ、ハァ。まさか…魔術の複合発動とは…。

相当な手練だと思っていたが、予想を上回る強さだな、エドガー」


「なに、大したことではない。もうそろそろ魔力が底をつきそうなのでな。最後の一撃で決めさせてもらうとするか」


エドガーが僕に接近し、剣を振りかぶる。

その瞬間。走馬灯だろうか。

私はミカとの会話を思い出した。





           ★




それはダンジョンを攻略していたときのこと。

分断される前にミカが淡々と火魔術を放っていて疑問に思ったことだった。



『魔術の威力を強くしたい?』


『ああ。普段ミカが使っている魔術は通常よりも威力が高いだろう?僕の火炎魔術とミカの火魔術で同等の威力があるというのはおかしくないか?

単にステータスの差、かもしれないが、ステータスの高い宮廷魔術師でもあそこまでの威力はないし、火魔術を使うことなど滅多にないらしいのだ。何か意識していることはあるか?良ければ、教えてほしい』


ダンジョンでミカが放っている魔術の威力は僕が本気で火炎魔術を放ったときよりも強い。

火炎魔術Lv10とは火魔術の上位版。火魔術がLv10でもここまでの威力はないが、どう見ても魔術は火魔術。

いくら無詠唱で放っているとはいえ、僕のように火炎魔術を鍛えているとそれくらいはわかる。


一体どうやって?



『うーん、魔術の威力かぁ〜。そこまで意識するようなことはないかな…。これでも威力は抑えているつもりだし…』


『こ、これで抑えているのか…』


『あ、でも強いて言うなら…。魔術を練ってることかな』


聞き慣れない言葉に僕は頭を傾ける。



『魔術を練る?それは一体どういうことだ?』


『えーと。普通の魔術って威力が決まっていて、魔術の威力はスキルのレベルや、術者のステータスでも変わるんだけど…。それじゃあんまり強くならないよね。火魔術と火炎魔術では威力が異なるし。

でも火魔術にもそれなりに良いところがあるよ?』


『良いところ?』


『そ。それは発動するときの魔力が少なくて済むこと。火炎魔術の消費魔力が10とすると火魔術は2くらいだよね』


『だ、だがそれは威力が低いという問題を解決しているわけではなくないか?』


根本的な問題。それをミカはとんでもない答えで返した。



『だから、魔術を練るんだよ。簡単に言うと、火魔術に使用する魔力を普段より多くして、それを魔術に馴染ませるんだよ。慣れないとそれ自体に時間はかかっちゃうんだけど、威力は数倍にまで跳ね上がるし、消費する魔力も少なくて済む。

そうだね、大体6ぐらいまで消費するけど、火炎魔術よりも威力が大きいからコスパも良いってことはとんでもないメリットではあるね。それこそ、火炎魔術に20くらいの魔力を消費させたら、

焔絶魔術Lv1の威力にまで行くと思うよ』


それまでの魔術を根本から覆してしまうような答え。

だが、それをできたら…。更にミカに近づける!



『ちなみにだけど、難易度は高いよ。魔術を練る間は慣れていないと数秒はかかるし、隙もできちゃうから、相手が大技を溜めるタイミングで練っていた魔術を放つ!

これが理想の勝ち方かなぁ〜』


『他に気にしていることは?』


『うーん、状況によるんだけど…。相手との一対一なら魔術を一点極にする。

例えば焔絶魔術の『インフェルノ』だとあれは

広範囲の魔術だよね。それを一点に絞る。

球場にしたり、一直線にしたり。そうすると、魔術が凝縮されてるわけだから、威力が上がるんだよね。当たりにくいから、相手が接近しているときに使うかなぁ。並の剣士とかは大体広範囲でも対応できるけれど、剣を極めたやつは、すごく突っ込んで魔術師に魔術を詠唱する時間を与えないんだ。

その中で魔術を詠唱するのはしんどいだろうけど、私だったら、油断を誘って魔術!って感じもある』


『そこまでのことができるなんて…』


僕の驚きにミカは笑う。



『結局は自分次第。頑張るか、諦めるかの二択。だったら頑張る以外の選択肢なんてないじゃん。常に前に進もうと思う人間はそういうもんだよ』




           ★





残っている魔力は大体5割。その全部を使えば間違いなくエドガーを倒すことができる。だけどそれは魔術だけで使うのではない。

剣術と魔術のスキルの複合発動。



僕の、僕だけの技。






「これで終いだ、イグニス!」


エドガーが剣を振ったその時。

僕は魔術を練り終えていた。



「蒼熾剣フラム…。燃え上がれ…ッ!」


剣に青色の炎が灯る。それは昔、練習で全力で

放ったときの炎の比ではない、圧倒的な熱量。圧倒的な光量。


まるでそう、一つの小さな太陽のようだった。



「これが僕の努力の証だ。誰にも終わらせることのできない、最強の炎だ!」



エドガーが駆けて『ライトニング・エレメント』の範囲に僕を捉える。そして僕に一撃をいれるんだろう。

だけど、そんなことにもお構いなしに僕はエドガーに突っ込む。


剣の間合い!エドガーの剣が当たる前に!最大威力で放つ!




「『第二章、天日』」










その太陽はエドガーに放たれることはなかった。

魔術が放たれていれば間違いなくエドガーが消し飛んでしまうからだ。だからイグニスは魔術を放つことをしなかった。


だがしかし。その炎は確実にエドガーを捉えていた。この瞬間、勝負は決まった。



『だ、第3試合、勝者はイグニス選手!イグニス選手が準々決勝に進出です!』


会場は大歓声に包まれた。


僕は魔術を解いて戦闘状態を解く。

まさかこんなに体力と魔力を削られるとは思っていなかった。大の字に寝転がる。思えば、だいぶ大きく賭けにでた。それでも僕は。



「勝った」





【スキル:焔絶魔術Lv1を取得】


【スキル:練魔Lv1を取得】


【称号:練魔の魔術師を取得】


[スキル:練魔…レアスキル。

魔術の詠唱の短縮。威力が1.5倍。]


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