章間 わがまま?
『王都ユグルド』。それはシーファンネル王国の主要都市。街は大河が集まる湖の上にある。4つの門以外に入る術はなく、鉄壁を誇る大壁が街全体を覆っている。
そして王城。シーファンネルの国王が住まう宮殿でとある騒ぎが起きていた。
「父様に話がある!急いで取り次いで貰えないだろうか!」
小さな体に似合わない大きな声で叫ぶのはこの王国の第二王子、イグニス・M・シーファンネルだ。
「ちょっ!王子様!止まって、止まって!」
王子の服を思いっきり引っ張っても不敬にならない。必死にしがみついてるのは従者のエマ。
さっきからずっとしがみつかれているようだ。
衛兵が王子を宥める。
「王子様、お待ち下さい。今、国王陛下は会議中でして……」
「そんなものいつでもできる!いいから早く取り次いでくれ!頼む!」
「王子様!会議がいつでもできるわけではないのですよ!?あぁもう!あの女に会ってからずっとこんなじゃん!私、今日休日なのに〜!なんで休日返上で働かないといけないんですか〜!?ブラックな職場に改善を求めますー!」
「騒がしいぞ。私は今、会議中だ。……イグニスか、どうかしたのか?」
そう言って現れたのはひげを蓄えた50代くらいの男。皆、彼のことを『国王』と呼び国民から親しまれる存在、クリス・L・シーファンネルだ。
「お父様!どうかお願いがあります!聞いていただけたいでしょうか!」
「………ひょっとしてそれだけのために私を呼んだのか?」
呆れているクリスにイグニスが反論する。
普段、クリスは多忙であり、なかなか家族との時間は取れない。
「それだけなんてものではありません!僕にとって最も大事な要件なんです!」
「……?何だ、申してみよ」
どこか焦ったような声音のイグニスにただ事ではないと警戒するクリス。
狩りに出たときにS級冒険者でも勝てないようなモンスターでも出たか?いやいやそれとも……と考えている間にイグニスは覚悟を決めたように言葉を口にした。
「どうか!私は魔術学校に行きたいのでその手配をしてください!」
「え?」
クリスは首を傾げ、意味わからんこと言ってる息子に問うた。
「魔術学校てあの?え?お前剣士を目指すのではなかったのか?小さくても剣士になれるもん!みたいなことでなるのではなかったのか?」
イグニスは顔を赤らめ、もじもじしながら言う。
「………………。ええと、アメリト平原で…モンスターに襲われたときにぃ……助けてくださったエルフ?ハーフエルフだと思うのですが…その人になんていうかその……。その人が学生さんでしてあれほどの魔術を使うなら魔術学校に行くのかな…なんて思ってその………。うぅぅ……。お父様、だめですかね…?」
クリスは信じられぬものを見たかのように驚き、膝から崩れ落ちた。クリスの体は震えている…。
怒られる……!とイグニスが身構えたときだった。
「ついに……ついに!我が息子に春がやってきたぞーーーーーー!!!!!!」
「「「は!?」」」
クリスの大声の数秒後にイグニス、エマ、衛兵さんの声が重なる。
城中に響き渡る大声で叫んだものだから、イグニスちゃんのお顔は真っ赤。
「お父様!それはなんていうかその……!」
「そうか、そうか!ついにお前に好きな人かぁ!小さい頃あれだけ『女の子は嫌い…』なんて言って婚約とかしなかったイグニスが!!奥手で知られるイグニスが!」
「!?僕は奥手ではありませんよ!そういう気がなかっただけで…今はその……」
「これは妻にも報告せねばならんな!いや、今すぐ報告しに行こう!」
「話を聞いてください!別にそういうのでは…!」
クリスはイグニスの肩を掴んで、揺する。
「恋に落ちたんだろう!?はっ!!その子の名前は!聞いていないのか!?」
「聞いてませんけど……ってそうじゃありません!恋に落ちたとかそんなのではなくてぇ…!」
「!?そういうのだから私に相談したんだろう!?普段はこんなわがまま言われても答えられないからな!全力で答えてやる!だが!!その前に!!妻に報告だぁぁぁ!!!」
「国王殿下!会議はいかがなされるのですか!?」
「そんなん解散に決まってるだろう!後はなんとかしておいてくれ私は忙しい!」
「職務放棄ですか!?隣国との対応を話すのではなかったのですか!?」
「そんなんより、こっちのほうが重要だ!」
早口でまくし立てたクリスは走ってどこかへ行ってしまった。
女々しい王子のイグニスは顔を覆って「穴があったら入りたい………」と呟いている。耳まで真っ赤。衛兵さんもフォローのしようがないほど。
エマはずっとイグニスにくっついている。というよりぐったりしてる。クリスの大声でぶっ倒れた。
イグニスは恥ずかしがりながらも、我らが主人公、安藤さんに想いを寄せた。
安藤さんはその瞬間くしゃみをし、身を震わせた。
ちなみに無事王妃にも知らされ、イグニスは学校へ行くことが決まりましたとさ。
めでたし?
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