15話 スナイパー、怖いよ~(泣)
サネトモ・トキトウ少尉は、訓練から帰還中に司令部より連絡を受けて、高機動型ゼム1機で、現場の7番宇宙船ドックに向かった。
「7番宇宙船ドック上空に到着、ドックは炎上中」
司令部へ連絡を入れた。
7番宇宙船ドックの上空には、宇宙巡洋艦が、滞空していた。
滞空していると言うか、ウロウロしてると言った方が正確だ。
宇宙港付近での光学迷彩は危険とは言え、丸見えの宇宙巡洋艦が、敵ゼムに襲われたら、ひとたまりもないのに。
宇宙巡洋艦のブリッジの上部には、カルル少佐専用艦であることを示す、日本の武将の兜を被っていた。
「ルナメル?」
だとすると、トキトウ少尉の同期のエイミアやココが乗ってる艦だ。
ゲリラに乗っ取られた可能性も含めて、マシンガンを構えながら近づいた。
「こちらトキトウ少尉」
「トキトウ少尉?」
とエイミアの可愛い声が聞こえた。
その声が、トキトウ少尉にスイッチを入れた。
「エイミアちゃん!!!!!!
俺俺、サネトモ・トキトウ、エイミアちゃんの恋人のサネトモ・トキトウだよ!
愛しのエイミアちゃんに会いに、只今参上しました」
ルナメルのブリッジの大きなスクリーンに、高機動ゼムと時任実智の顔が映し出された。
「ウザい」
エイミアは嘆いた。
「見て見て、俺、高機動ゼムに乗ってんだよ。凄くない?やっぱ俺、天才だよね」
「・・・」
「冗談だよ!エイミアちゃん、そんなヒーローを見る目でみるなよ」
「・・・」
「俺は遠くに行ったりはしないよ。いつまでもエイミアちゃんのトキトウだよ。」
「・・・」
「あっそうだ。任務中だった。ルナメルの中に入れてもらえる?
司令部に報告しなくちゃいけないんだ」
「どうぞ」
「イエ――――イ」
スクリーンの向こうで、まだトキトウ少尉が騒いでいるので、音声を消した。
呆れたカステラーニは、
「彼、今の現状を理解してるの?空気を読めないアホなの?」
エイミアはカステラーニの横顔を見た。
一見、普通の女子大生に見えるが、18歳で大学院の研究生をやってるとあって、知性は隠しきれていない。
16歳のエイミアに取って、この年上のお姉さん感は、とても安らぐ。
ただ何を研究してるのかは、言葉を濁された。軍関係には機密が多いのだ。
「彼は一応、同期ではゼムの操縦はトップクラスで、カルル少佐の再来とおだてられてた。でも、どちらかと言うとアホね」
「エイミアさんの恋人とか言ってるけど」
「奴の妄想、彼はいつもお花畑を走ってるの」
トキトウ少尉の報告は、軍司令部を安心させた。
7番宇宙船ドックに進入したゲリラは、軍の治安部隊に鎮圧された。
ドック周辺の月面には、月面用戦車が展開を開始していた。
「ルナメルは、N3地点まで進入し、上空の警戒に当たれ、ゲリラに呼応した工作艇がいる可能性がある。トキトウ機は、引き続きルナメルの護衛に留まれ」
人使いの荒い軍司令部は早速、命じた。
使えると解ったら、素早く使う。
組織としてまだ新しい月面都市連合軍には、その傾向があった。
しかし、色んな事が済し崩し的に進められる事に、エイミアは怖さを感じた。
唯一の幸運は、誰にでも馴れ馴れしいサネトモ・トキトウが、ユージン・カイムをかなり苦手としている事だった。
カイムの暗黒ボッチオーラの前に、トキトウの陽気なリア充オーラは、吸収され委縮される。
ユージン・カイムの強行偵察ゼムと、サネトモ・トキトウの高機動ゼムは、仲良く警戒に出た。ゼム同士だと、仲よさげに見えた。
ルナメルはまだ航路上なので、光学迷彩モードへの移行が出来ない。
戦時下と言うのに、融通が利かない。
ココはルナメルの操舵に慣れたのか、静かにを月面上空に上昇させた。
月の重力から離れ無重力へと移行した。
エイミアは身体が軽くなり、心も軽くなったような気がした。
無重力が心に与える影響について、考えながら、冷たい宇宙空間を眺めた。
でもまだ仮の艦長代理状態のエイミアには、クルーが誰なのかを把握していない。
ただ索敵・管制担当オペレーターの3人の少女は、何となく解る。
マリアナシスターズだ。確認した訳ではないが独特の匂いがある。
それに90点以上の美少女が3人もそう揃う訳がない。
「桜乃、梅乃、桃乃とか言ってたっけ」
まあ監視要員だろう。
しかし、直接ルナメルを監視する程の価値があるのか?
月軌道上を横切る壊れた人工衛星の様な物が見えた。
「見て見て、ゼム同士がお手手を繋いでる。意外と仲良いじゃん」
エイミアは、微笑んだ。
ゼムは、手をつないだまま光学迷彩モードになり、姿を消した。
カイムの強行偵察ゼムは、トキトウ機の手を握ると
「あのスペースデブリ何かいる気がする」
トキトウ機にカイムの声が聞こえた。
「熱源は?」
「今はない」
カイム機は、スタンガンを手にした。
出来れば捕獲したい。
「俺、ちょっと見てくるわ」
トキトウ機が静かに人工衛星に近づき、マシンガンをパンパンと撃った。
「人工物に熱源反応あり!」
ルナメルのマリアナアシスターズが叫んだ。
マシンガンのアンチ光学迷彩弾で人口衛星の一部が弾け飛び、射撃体勢に入っていた敵のゼム・スナイパーが姿を現した。
と当時に、スナイパーを守るように、ゼム・コマンド―がトキトウ機に銃口を向けたが、トキトウ機の射撃の方が早かった。
しかし弾倉が切れた。まだ恐怖から、すぐ撃ちすぎてしまう。
ヒートソードを手に、スナイパーに襲い掛かるが、爆炎と爆風が邪魔した。
同時に飛び出してきた移動砲台のヒューボットが、強行偵察型ゼムの頭部メインカメラを吹き飛ばしていた。
「間に合わない!ルナメル避けろ!」
カルル少佐専用艦でも、さすがにゼム・スナイパーの狙撃を避けるだけの瞬発力はない。
「狙撃手がブリッジを狙ってる!もう避けきれない」
イクの言葉にエイミアは血の気が引いた
「ブリッジを?わたしたちを?」
突然訪れた「死」をブリッジのクルーは覚悟した。
「せめてココを見ながら死にたい」
エイミアは、ココの後姿を見つめ、5次元人のイクは、エイミアの胸に顔を埋めた。
イクとエイミアの二人をカステラーニさんが抱きしめてくれた。
抱きしめてくれたところで、敵スナイパーの射撃の直撃を受けたら誰も助からない。
でも死ぬ時は一緒。「ありがとね」エイミアは小さく呟いた。
走馬灯のように色んな事が想い起こそうとしていると、ブリッジの天井で破壊音がした。
「助かった?兜がなけれが即死だった?」
カステラーニさんは言った。
そう、確かカルル少佐専用機は、三日月の兜をかぶっていた。
「ふっふっふっ、量産型とは違うのだよ!量産型とは!
地球連邦め調子乗ってんじゃねーぞ!ボッチとお花畑野郎やっちまえ!」
エイミアは叫んだ。
お花畑野郎?俺の事か?と考えが浮かびながらもトキトウは、叫んだ!
「野郎!!!!!!俺のエイミアちゃんを狙いやがって!」
しかし、高機ゼムが攻撃する前に、首のない強行偵察型ゼムのスタンガンによって、スナイパーは動きを止められていた。
「俺の見せ場が・・・」
トキトウは1人嘆いた。
つづく
【エイミア・サトー】ココ・ルキの幼馴染。他称・まあ出来る子。
【ココ・ルキ】落ちぶれ貴族ルキ家の次男。他称・まあ出来ない子。
【イク】五次元人
【メリッサ・カステラ―ニ】イクの担当技官
【サネトモ・トキトウ】エイミア&ココと同期のパイロット。もっとも優秀な同期。
【ユージン・カイム】エイミア&ココと同期のパイロット。もちろん友人は皆無。
【ショウマ・ドーキンス】士官学校時代の教官。ヒメネスとの情事で懲戒免職
【カタリナ・ヒメネス】ドーキンスの恋人?エイミア達と同期。
【シェーラー家のマリアナ】ココが好き。
【マリアナシスターズ】桜乃 梅乃 桃乃 の三人組。美少女感は半端ない。
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