12話 悪そな士官と育ちの良いお紅茶

ソ・ダネ大佐は、ショウマ・ドーキンス少佐(26♂)とカタリナ・ヒメネス少尉(16♀)を一瞥した。


「お前ら育ちの悪さ隠せてねーよ」とでも言いたげな視線だ。

「めっちゃ鋭い」カタリナ・ヒメネスはビビった。


カタリナ・ヒメネスは、決して育ちが悪い訳ではない。たまたま、育った場所がそんな場所なだけだ。それに15バンチでは良い子の優等生キャラだ。


月面都市連合の有力者マリアナの執務室の奥にあるプライベートスペースで、ドーキンス少佐とヒメネス少尉は戦況の説明を受けていた。


マリアナの3人の秘書。通称マリアナシスターズの美少女感は半端なかった。

美少女達はみんな腰にブローニング拳銃を装備しているが、雰囲気から軍所属ではなく、使用人と言った感じだ。


「どのお紅茶にしますか?」


マリアナシスターズ(1号)は、それはそれはとてもお上品に聞いた。

ショウマ・ドーキンス少佐は、紅茶の銘柄など解らなかったので、カタリナ・ヒメネス少尉に助けの視線を向けた。ヒメネスは、「ここは任せて」と視線を返し、


「それじゃあ、【育ちの良いお紅茶】で」


それ15バンチの自販機で売ってる奴やん!

あまり治安の良くない15バンチの自販機で売ってる、決して育ちの良い人が飲む紅茶ではない。

それを清楚系のマリアナシスターズに、自販機までパシらせる気か!

銘柄って言ったら、紅茶の産地的な事だろう!

って事はドーキンスにも解った。


ショウマ・ドーキンス少佐も、治安の良くない15バンチ出身だ。

悪そうな大人になる人はいるが、士官になる人はまずいない。


ゆえに軍内では肩身が狭い。


マリアナシスターズ(1号)が困った表情をしたので、ドーキンスは

「お任せで」

と上品ぽく微笑んでみた。

その微笑がこの場に不似合いだったのか、マリアナシスターズは少し怯えた。


「おい!やんのか、コラ!」的な微笑だったのかも知れない。

育ちの悪さは隠せなない。

エリートが多い士官の中で、慎重に育ちの悪さが出ないようにしているのだが。


しかし、さすが、マリアナシスターズがいれた紅茶の香りが、この場の格調を高めた。


マリアナは一口紅茶を飲むと、

「現在我軍は、地球連邦の反攻作戦に対応する為に、戦線の再構築を進めている。

その一環として、ドーキンス少佐には、巡洋艦ルナメルを与える。

貴公は連邦の77万キロの補給線を破壊してもらいたい」


地球連邦の艦隊が集結しつつある第六ゲート小惑星から月までの距離が約77万キロ。光の速さで約2、6秒。地球上では考えられない補給線の長さだ。


「了解しました」

2人は声を揃えて返答した。

その声があまりにも揃っていたので、マリアナの一瞥を受けてしまった。

もしかすると教官時代の教官と生徒の禁断の噂を知っているのかも知れない。



ソ・ダネ大佐がリモコンを操作すると、大きなスクリーンに、ルナメルが映し出された。軍広報が撮った今話題の盗撮動画だ。


ルナメルのブリッジで、ココとエイミアがぼんやりと外を眺めていた。

マリアナが嬉しそうにニヤけ、


「わたしが撮らせた動画だ」


「お前かよ!」とカタリナ・ヒメネスがツッコミを入れられる訳がなかった。


ココ・ルキと同期のカタリナ・ヒメネスは、ココの年上キラーぶりを何度も目にしていた。とにかく可愛いのだ。

女教官とそう言う関係になりそうになるのを、エイミアと共に阻止したこともある。


マリアナは、嬉しそうにココを見つめた。

そのマリアナをソ・ダネが見た。

ソ・ダネを無視して、マリアナはドーキンスに語った。


「わたしはルキ家の坊やのオムツを変えてあげた事もあるのだよ」

「オムツを?」

「・・・」

「・・・」


沈黙に終止符を打ったのはカタリナ・ヒメネスだった。

彼女は、敬礼すると、

「すべて了解しました」

マリアナは微笑み

「では貴公たちの健闘を祈る」

と。



つづく




【エイミア・サトー】ココ・ルキの幼馴染。他称・まあ出来る子。

【ココ・ルキ】落ちぶれ貴族ルキ家の次男。他称・まあ出来ない子。


【イク】五次元人

【メリッサ・カステラ―ニ】イクの担当技官


【サネトモ・トキトウ】エイミア&ココと同期のパイロット。もっとも優秀な同期。

【ユージン・カイム】エイミア&ココと同期のパイロット。もちろん友人は皆無。

【ショウマ・ドーキンス】士官学校時代の教官。ヒメネスとの情事で懲戒免職

【カタリナ・ヒメネス】ドーキンスの恋人?エイミア達と同期。


【シェーラー家のマリアナ】ココが好き。

【マリアナシスターズ】桜乃 梅乃 桃乃 の三人組。美少女感は半端ない。

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