10話 友人皆無のおやつタイム
宇宙で産まれ宇宙で育ったユージン・カイムは、強行偵察型ゼムで、1人、宇宙空間を漂っていた。
宇宙の暗闇の中、連邦の艦隊が通り過ぎるのを、成りを潜めて待機していた。
宇宙空間の冷たい暗闇が孤独感を強めた。
しかしユージン・カイムに取って、それはとても心地よいものだった。
逆に大勢の人の中いる時の方が、孤独を感じてしまう。
「もうすぐおやつの時間だと鑑みて、早めに任務を終わらせたい」
ユージン・カイムは、コックピットで呟いた。
生きて帰る事が前提だが、食堂のおやつタイムには間に合わせたい。
男子一人では食べる事がない、めっちゃおしゃれなおやつがでるのだ。
食堂でボッチで食べなくては行けないと言う過酷な事実もあるが、その苦行も含めてのおやつタイムだと自覚している。
タブレットには、月面都市連合軍広報サイト動画が流れていた。
盗撮された動画の中で、士官学校同期のココとエイミアが、ルナメルのブリッジで寂しく立ち尽くしていた。
ココはやたらアホっぽく、エイミアはやたら賢く見えた。
「何やってんだか」
ユージンは1人呟いた。そして、
『見上げる空の向こうに敵がいる恐怖は、宇宙に住む人には解らないと思うよ』
エイミアが誰かに言っていた言葉を思い出した。思慮深い少女だ。
「宇宙に住む人」
遠い昔の人にとってはSFに過ぎなかった話だ。
ココとエイミアが、まだ士官学校の卒業試験をしている頃、優秀なグループは先に戦地へと送られていた。その優秀なグループの1人がユージン・カイムだ。
漢字表記するとして【友人皆無】になるが、それはそれだ。
漢字圏の人間ではないユージンには関係のない事だ。
ただユージン・カイムに友達が1人もいないのは事実だが。
「さて」
ユージン・カイムは1人呟いて、強行偵察型ゼムを動かした。
視線の向こうには、地球連邦の宇宙空母機動艦隊が侵攻を開始していた。
強行偵察型ゼムが、連邦の艦隊に向かって通常の5倍の速さで突進した。
光学迷彩の透明な状態で、宇宙を駆けると不思議な気分になる。
もしかすると自分は存在し無いんじゃないかと。
滞空していた浮遊集音ポットの横をすり抜けた。きっと音は探知されたはずだ。
宇宙駆逐艦の対空砲から、アンチ光学迷彩弾が強行偵察型ゼムへ浴びせられた。
強行偵察ゼムの姿が、宇宙に浮かびあがった。でも、
「見られたからと言って、当たらないんだな、これが♪」
月面都市連合最速を誇る機動力とフットワークの軽さは、簡単には撃ち落とせない。
しかし、Gが半端ない。
それが解っているにも関わらず、よりGが高い操縦をしてしまう自分がいる。
意識が飛びそうになる程のGは、快感でもある。
敵の砲撃を躱しながらも、カメラは全自動で連写され続けた。
アルメイダ級宇宙要塞に待機していたゼム群が動き出した。
それをこまめにユージン・カイムはカメラで連写した。
しかし残念ながら無武装の強行偵察型ゼムが、この宙域に留まるのは危険すぎる。
強行偵察型ザクは、素早く戦線から離脱した。
誰も追い付く事が出来ない速さで。
「おやつタイムには間に合いそうだ」
ユージン・カイムは呟いた。
つづく
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