9話 自身の予知能力にアクセスしているはずと信じて・・

地球連邦の宇宙への渡河拠点エグジット要塞が、目視出来る宙域。


連邦のゼムは、陽動作戦に乗せられ、遥か遠くの宙域にいるはずだ。

この宙域に駆け付けたのは、連邦の宇宙戦闘機のみ。

運悪く遭遇したと言った感じか、でもどうやら単機で攻撃を掛けるらしい。

逃げれば背後から撃たれるだけだと判断したらしい。


アンチ光学迷彩弾が、光学迷彩で透明だったゼムの周囲でさく裂した。


ショウマ・ドーキンス大尉の漆黒のゼムと、カタリナ・ヒメネス少尉の深紅の機動コルベットが姿を晒してしまった。


敵は感の良いパイロットらしい。


それを待ち受けていたかのようにエグジット要塞から、要塞砲が射撃を開始した。

ドーキンスは機動コルベットに掴まり、ヒメネスに要塞砲の回避を任せた。

機動コルベットは宇宙をフィギアスケーターのように、踊っているように見えたが、カタリナ・ヒメネスは必死の形相で、操縦桿を操った。


「対艦用の要塞砲が、簡単に機動コルベットの当たるはずがない。対艦用の要塞砲が、簡単に機動コルベットの当たるはずがない・・」


神経を研ぎ澄ませ、要塞砲の進行方向を予測した。考える暇など一切ないから予知と言った方が良いかも。自身のどこかのあるであろう予知の能力にアクセスしているはずと信じて。


要塞砲に当たれば、そのまま地球の重力に掴まって、燃え尽きる。

ヒメネスの視界にその地球が映った。死の恐怖と同時に地球への安堵感を感じた。

地球は優しく、そして厳しい。


ドーキンスは、敵の意気込みに感心しつつ、漆黒のゼムのガトリングで、宇宙戦闘機を撃ち落とした。直後、飛び出した脱出カプセルを素早く掴まえた。ここで飛び出だしても大気圏に落ちていくだけだ。


漆黒のゼムを操るショウマ・ドーキンス大尉は、巨大な地球を見おろした。

機動コルベットに収容されれば、大気圏突入が可能だが、ゼムだけでは大気圏で燃え尽きてしまう。


地球に畏怖しながら、大気圏ギリギリの宙域のスリル感は半端ない。

今、落ちると確実に連邦の勢力圏のど真ん中へと落下する。

ゼムと機動コルベットだけでは、どうしようもない数の敵に殲滅されるだろう。


地上から、リニアによって打ち上げられた定期便の物資輸送用無人コンテナが見えた。


仕事は簡単だ。その無人コンテナを撃ち落とせば良いだけの事。


ガトリング砲を放つと、コンテナは眩く輝きを放ち地上に落下していった。


戦闘だけが戦争じゃない。

補給がなければ、そもそも戦闘すら出来ない。

武人系の多い軍では、戦闘こそが武人のやること考える奴が多い。

補給線を潰せば、戦う必要すらないのだ。


ディスプレイにカタリナ・ヒメネスが映り


「大尉、また敵を助けたんですか?」

「捕虜から情報が取れるかも知れないだろ」


カタリナ・ヒメネス少尉は、普段は優しい女子なのだが、今は戦時下。

そう言った行為は、やはり偽善に見えてくるのかも知れない。

士道がどうこう考える余裕は、まだないのだろう。



つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る