7話 優しい侍女と美少女とサウナで出会う月の都市にて

エイミアは1人、オープンカフェでクレープを食べていると、20歳前後の女子が、隣に座った。


「初めまして、とある侍女です」

「はい?」


知らない人に唐突にそんな事言われて、隣に座られても困るのだが、とある侍女は、金貨を、テーブルの上に置いて「多くを語らなくても大丈夫でしょう?」って視線を送られたので、エイミアは会釈した。


どこかで、見た事がある金貨だ。

5歳か6歳の頃、父といた時に見た事がある。

その金貨に何の意味があったのかは思い出せないが、重要だって事は覚えていた。


少なくともエイミアが、ルキ家側の人間だと知って接触してきたのだ。


誰の侍女かは解らないが、雰囲気から侍女で間違いない。

そんな侍女が、まだ士官学校生に過ぎないエイミアに、接触してきたのかは不明だが、断る理由もなかったし、好感を持てる顔立ちだったので、エイミアは、その侍女に誘われ、のこのこと着いて行った。


いざとなれば拳銃も所持しているし、拳銃の扱いは同期で一番だったし。


戦場では考えている間はもなく生死が決まる。

身体に覚え込ませた直感で動かなくては行けない。

その直感が、エイミアに「行け!」と囁いた。


そして、月面都市ネクタールのサウナの100度近い熱気は、エイミアに心地よい刺激をもたらしていた。


一般人は絶対は入れないレベルのスポーツジムのサウナだ。

しかし、初対面の相手と裸の付き合いをするのは、女同士とは言え照れる。


タオルだけを巻いた姿で、拳銃をロッカーに入れてしまっていた。

美しい侍女の裸に見惚れて、ふわふわな気分になって、つい油断をしてしまった。


しかし侍女の柔らかな体つきから、格闘戦になれば楽に仕留められるし、侍女を人質にする事も可能だ。


世間話から察するに、どのあたりの人間なのか、ある程度は察しが着いた。

ルキ家の敵ではない。味方よりではあるが、表だって味方とは言いずらい陣営。


「ルナメルに誘われた?」


年齢は20歳前後の汗まみれの侍女は、エイミアに聞き返した。

軍人と違い、とある家の侍女は、優しい香りに満ちていた。


「はい」


とある侍女に、膝の上に座られたままのエイミアは深く深呼吸をした。

とある侍女はボケとして、エイミアの膝の上に座ったのだが、エイミアのツッコミがないので、動くきっかけをつかめずにいた。


誰かが入ってくると、変な勘繰りを入れられる恐れがあるのに。

バスタオル越しとは言え、侍女のお尻の感覚はきっちり伝わってきた。


何故だが女子は大体エイミアの膝に乗りたがる。

「なんだか安心する」と言われて事はある。


エイミアは、初対面の相手に限らず相手に無防備に背中を晒す事はない。

心の奥にある人に対する恐怖が、それを制止する。


背中をさらせる女子を羨ましく思う時がある。


「ルナメルは今や訳あり物件よ」


「訳あり?」


エイミアは、とある侍女の後ろから抱き着いて見た。

百合的と言うよりどんな反応を示すか知りたかった。

とある侍女はなんの反応もせず、エイミアに体を委ねた。


「元の艦長の黒猫少佐がある件で左遷になったの。

ルナメルは元々アロハ中将から、戦役の功績により譲り受けた艦。

それで左遷でしょ。軍上層部では今後の扱いに揉めてるらしい。

すでに士官は、バラバラに異動になってるはず」


「副官のポポフ大尉に来るように勧められたんだけど」


「ポポフ大尉は最も有能な部類の軍人だから、もしかしたら未来を見越して、あなたたちを誘ったとか?裏はないと思うけど」


「未来を見越して?ルキ家の未来を見越す?」


「それもあるだろうけど、あなたたちの未来も含めてじゃない。

副官の直感で何かを見抜いたのかも。

でもどちらにせよ今のルナメルは、軍上層部の覚えは良くない沈み掛けの船ね」


サウナのドアの向こう側で、人の気配がした。

とある家の侍女は素早く、エイミアの膝の上から立ち上がり、隣に移動した。

侍女の横顔は、見た事がない程上品な顔立ちをしていた。


「って、どこに座ってんねん」

その横顔にエイミアは、明らかに遅すぎるツッコミを入れた。



サウナのドアが開き、エイミアと同年ぐらいの黒髪で東洋系の顔立ちの全裸の少女が入ってきた。

エイミアと侍女は、タオルを巻いているのを見て、少女は慌ててタオルを巻いた。


侍女の胸が大ならエイミアが中、そして彼女が小と言ったところだ。


「イクちゃん」

侍女は紹介した。


イクも早速エイミアの膝の上に座った。

何かの流行なのだろうか?


「この娘は、月の宝石」

「月の宝石!?」


半裸の月の宝石の少女が、今エイミアの膝の上に座ってる!


「ちょっと訳ありのこの娘の面倒を見て欲しいと、わたしの主からの依頼です」

「訳あり?」


侍女は、エイミアの質問に微笑むだけで、


「また会える?」

「はい」

「じゃあね」


と侍女はエイミアと訳あり月の宝石の少女を残してサウルームから出て行った。

訳あり月の宝石がエイミアの太ももにお尻を押し付けてくるので

「って、どこに座ってんねん」

と再び明らかに遅すぎるツッコミを入れた。


ルナメルと言いこの娘と言い!

何で訳ありばかり、わたしに押し付けるの?

わたしはまだ士官学校生よ!


でも月の宝石の少女を手に入れたのは、良い兆候だ。

月の宝石と呼ばれる少女たちは、特別な能力を持っているらしい。


月の宝石のイクちゃんを後ろから抱きしめると、イクちゃんは慌てて立ち上がって離れてしまった。


これが彼女の距離感なのだろう。



つづく

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