6話 カルル少佐主催新春シャンソンショー

月面都市ネクタールのショップの試着室にエイミアが入ると、先客のココはパンツを履こうとしている所だった。


エイミアは、チラッと下を確認した。別に初めて見るモノではない。

ココはエイミアの視線を気にする様子はなかった。

立場が逆だとしても、エイミアはココの視線を気にしない。

乳兄妹ではなく、本当の妹だったら、嫌悪感を抱くのかも知れない。


何なんだろう?

わたしたちの距離感って?


物心ついた時から、ずっと一緒にいた兄でもなく妹でもない乳兄妹。

この件は、誰にも言った事はないし、誰にも言わない方が良い関係性だ。



センスが絶望的なココの代わりに、エイミアが選んだ服を着たココの全身を確認した。もちろん、マリアナさまといつ結ばれても良いように、勝負パンツも履かせていた。


「うん問題ない♪じゃあカルル少佐主催新春シャンソンショーに行きましょ」


地球の重力の6分の1の月では、みんな飛び跳ねるように歩いている。

いつもこんな歩き方をしてるから、月の人は気持ちが軽いのだろう。

ある種の進化と言っても良いのかも。


ココに腕を掴まれている事もあって心が躍った。


カルル少佐主催新春シャンソンショーには、色々な重要人物がお忍びで来ると噂の、シャンソンショーだ。ルキ家復興の為には、かなり有用。


ネクタールの街は、戦時下とは言え、比較的に穏やかな雰囲気を維持していた。

エイミアは、ココと腕を組んで、ネクタールの街を歩いた。

これはデートなのだろうか?

いつも一緒にいるからその感覚はないけど、ココの嬉しそうな顔はきっとデート気分だ。


「ねぇエイミアは、カルル少佐のファンなん?」

「そんな事はないけど、まあカッコいいよね」


エイミアは嫉妬するココの腕に、胸を押しつけてみた。

もちろん、ココは少し照れた。


ココくん可愛い♪


黒猫少佐は、女子の間で人気で、めっちゃカッコいいのは事実だが、エイミアが気になるのは、カルル少佐に関する不穏な噂だ。

今後、ルキ家の復興を進めるうえで、確認しておきたい噂だ。


ライブハウスの前に着くと、小さな張り紙が中止を知らせていた。


「中止だって」

ココは大袈裟に言った。


月面都市ネクタールの小さなライブハウスは、閑散としていた。

恒例の黒猫少佐主催新春シャンソンショーは、中止になったらしい。


エイミアが色々手を回して手に入れた招待状が台無しだ。


2人が立ち尽くしていると、ライブハウスから太ったおっさんが出て来た。


「君たちも軍人か?」


エイミアはココのお尻をポンと押して、挨拶するように託した。


「はい、士官学校所属の、ココ・ルキであります」


「ルカ」と言う言葉に太ったおっさんは、ニヤリとしたようなしてないような表情を浮かべた。


「まあ、入れよ、これも何かの縁だ。カルル少佐はいないが、シャンソン歌手が一曲歌ってくれるそうだ」


ライブ会場内には、艦のクルーらしき人が10数人程いた。

全員が宇宙巡洋艦ルナメルのワッペンを付けていた。


ルナメル、確かカルル少佐の専用艦♪


「ポポフ少尉、いえ、ポポフ大尉出世おめでとうございます」


ルナメルのクルーを歓声をあげた。

ポポフ?たしかカルル少佐の副官。


「あまり大声を出すなよ、この時期」


「すみません。で、この子たちは?」


「ルキ家の士官殿たちだ」


ルナメルのクルーは、何か珍しい者を見るように、一斉にココを見た。

1つも2つも想うことがあるであろう視線だ。落ちぶれかけの家、故だろう。


「どうするんです?」


「確か、士官学校の学生も、学徒出陣だろ」


エイミアがココのお尻をポンと押すと、


「は、はい」


ポポフとルナメルのクルーは視線を交わした。

ココ・ルキに利用価値を見出したのか、それとも同情か。


「ルナメルに来ないか?どこも人手が足りない。

今や人手の奪い合いだ。

君の方から人事に希望を出してもらえれば助かる」


「了解しました。わたしともどもお世話になります」

エイミアは、ポポフを直視し、ポポフはエイミアを見返した。

一見、太ったおっさんに過ぎないポポフだが、出来る人間の目をしていた。


「助かる、よろしくだ」


シャンソン歌手とバンドがリハーサルの音を調整しだしていた。



つづく




【エイミア・サトー】ココ・ルキの幼馴染。他称・まあ出来る子。

【ココ・ルキ】落ちぶれ貴族ルキ家の次男。他称・まあ出来ない子。


【サネトモ・トキトウ】エイミア&ココと同期のパイロット。もっとも優秀な同期。

【ユージン・カイム】エイミア&ココと同期のパイロット。もちろん友人は皆無。


【シェーラー家のマリアナ】ココが好き。

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