4話 隣を見ても誰も見えない。

味方の強行偵察型ゼムが放ったアンチ光学迷彩弾が輝き、地球連邦の宇宙機動空母艦隊の姿が露わになった。


ワルキューレ級宇宙空母の大きさは半端ない。


それに対して、光学迷彩モードで、姿は見えないゼム戦闘群は、突撃陣形を整えを終えていた。


「38ゼム戦闘群、第一波攻撃開始!」


ゼムの無線機から命令が伝えられた。

サネトモ・トキトウ少尉にとっては初陣。

身体の奥が震えていた。

仲間といる時は、強がってはいたが、やはり怖い。


トキトウは、強くアクセルを踏んだ。

まだ光学迷彩モードで、こちらの姿は敵には見えてないが、味方の姿を確認することも出来ない。


味方が本当にいるのか?

隣を見ても誰も見えない。

まるで単機で、空母機動艦隊に突入している気がして心細くなる。


光学迷彩戦をどのように戦うべきか、まだ誰も理解してはいない。


心の準備をする間もなく、目の前に敵の姿を確認した。


敵は、マシンガンを構えて警戒していた。

目の前にいるトキトウ機の存在には気づいていないようだ。


シュミレーション通りにゼムの戦斧が敵を叩ききった。


その瞬間、アンチ光学迷彩弾が辺りを照らした。


実感はなかったが、アンチ光学迷彩弾を浴び、自身のゼム機の姿が露わになり、それが事実だと解った。


破壊した敵の機体を蹴飛ばし、周囲を確認した。


アクセルを踏み過ぎて、味方から突出していることに気付いた。

周りは敵だらけだ。多くの殺気を向けられている事実に嫌な汗が流れた。


俺は初陣で死ぬのか?


その時何かがゼムに引っかかり、激しく引っ張られた。

音速を超えるソニックの衝撃音が響いた。


無線から同期のカタリナ・ヒメネス少尉の可愛い声がした。

「トキトウいつも言ってるでしょう!

周りの空気を読めって、1人で飛び出したりして!」


何も見えないのに、周りの空気を読め?

日常でも空気を読むのが苦手なトキトウには無理難題だ。


トキトウ機は、まるでエイの様な前線管制戦闘機に掴まり、敵の包囲から脱出した。

音速を超える前線管制戦闘機の速度には、誰もついては来れないらしい。


「助かった」


危険を顧みず助けてくれた同期のヒメネスに、トキトウは涙した。


士官学校時代もそれ以前も、優秀なキャラとして生きてきた。

実際優秀だったし、それが、こんなミスをして死にかけて、さらに誰かに助けられて、涙するなんて、心の中で何かが崩れ去って行った。


「泣かないの、ここは戦場よ」

カタリナ・ヒメネスの可愛い声が聞こえた。


すぐに戦闘に参加すべく、マシンガンを構えたが、

「38ゼム戦闘群、第一波攻撃終了、全機散会撤退せよ!」

無線が告げた。


まだ戦域には宇宙空母ワルキューレは健在だった。

第一波攻撃程度で、落とせるような存在ではないらしい。



☆彡



トキトウは、この戦闘で一番槍の栄誉を受けた。

「さすが月に愛された世代だ」と。


そういう事ではないのだが。




つづく


【エイミア・サトー】ココ・ルキの幼馴染。他称・まあ出来る子。

【ココ・ルキ】落ちぶれ貴族ルキ家の次男。他称・まあ出来ない子。


【サネトモ・トキトウ】エイミア&ココと同期のパイロット。もっとも優秀な同期。

【ユージン・カイム】エイミア&ココと同期のパイロット。もちろん友人は皆無。



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