3話 乳兄妹だと、つい甘やかしてまう

月の裏側コロリョフ盆地の、訓練空域を飛行する桃色の是無(ゼム)。

是無(ゼム)と呼ばれる大型の人型兵器は、光学迷彩使用時はもちろん透明なのだが、通常は色が着いている。


訓練用の複座式ゼムは、車の様に、二人並んでまるでドライブデート気分だが、月面への着陸が上手くできず、地面に倒れ込んでしまった。月面着陸は初歩の初歩なのだが。


「出来ない。出来ない。ぜんぜん出来ないよー」


と操縦席で泣いている少年は、ルキ家の次男。

【自称・やっても出来ない子】ココ・ルキ(16)。


「泣かないの」

と教官席であやしている少女は、

【他称・まあ出来る子】エミリア・サトー(16)。

2人は乳兄妹の仲だ。

現在、士官学校のパイロット課程追試を控えての補習中だ。


ココは人前だと泣くことはないが、2人きりだと、すぐ泣いてしまう。

「甘やかせ過ぎかも」とエイミアは思うのだが、物ごころ着いた時からそんな関係だし、今更仕方がない。


「ゼムが僕の言う事を全然聞いてくれない!絶対シンクロ率ゼロだって!」


ココは世界とのシンクロ率が大体低めだ。

エイミアがいないと、大体、悪そうな人に苛められてる。


ココの頭を撫でると、ココは少し落ち着いた。

「僕、もういいよ」

「ココには、ルキ家の復興が掛かってるのよ」

「それも含めて、僕、もういいわ」

「カルル少佐だって、戦場の戦いで勝って出世したんだよ。

だからココも戦場で勝って出世を」


エミリア・サトーの家は代々軍人の家系だ。


ゆえのこの思考。


「カルル少佐は、士官学校を1位で卒業。

僕は、課程すら落としそう。出来が違うんだよね。

士官学校だって、ルキ家のコネで入ったんだろう、とか言われてさ」

「ルキ家のコネだなんて、そんな噂に過ぎないよ。信じちゃダメよ」


嘘は!言ってない。

ルキ家のコネではない。シェーラー家のコネだ。


理由は解らないが、シェーラー家のマリアナが動いたらしい。

落ちぶれたルキ家に、利用価値があるとは思えないのだが。




つづく



【エイミア・サトー】ココ・ルキの幼馴染。他称・まあ出来る子。

【ココ・ルキ】落ちぶれ貴族ルキ家の次男。他称・まあ出来ない子。


【ユージン・カイム】エイミア&ココと同期のパイロット。もちろん友人は皆無。

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