第4話 恭子の物語 恭子の章その2

 勝って嬉しい花いちもんめ

 負けてくやしい花いちもんめ

 あの子がほしい

 あの子じゃわからん

 相談しましょ

 そうしましょ


 ああ、いやだ。花いちもんめなんて大嫌い。

 ほら、また香織ちゃんが一番に抜けていく。欲しがられていく。

 右手と左手がじんわりと汗で濡れて気持ち悪い。

 私の汗だけじゃない。知ちゃんも、由香ちゃんも、手から汗をかいている。

 だって、わかるもん。私も知ちゃんも由香ちゃんも、一番にほしがられる子じゃない。

最後に残るかもしれない。

 わざとなのかどうか知らないけど、最後に残るのは、だいたい私か知ちゃんか由香ちゃん。

 一番にも二番にも選ばれない。

 かといって、いつも最後に残るわけじゃない。

 最後に残す子がいつも一緒なのは、選ぶ方も嫌なんだろうか。

 香織ちゃんたちは、私が最後に残った次の日は、知ちゃんか由香ちゃんを残す。

 知ちゃんが最後に残った次の日は、私か由香ちゃんが残る。

 どうせ、自分たちが仲がよい子ばっかり先に選んでいくくせに。

 どうして私たちを誘うんだろう。

 ・・・・・・どうして私たちは、いつも「いやだ」「今日は遊ばない」って言えないんだろう。

 昼休みのこの時間はどうして長く感じるんだろう。


 「ゆーかーちゃん!」

 ああ。今日は由香ちゃんが先に選ばれた。

 私よりも先に知ちゃんが選ばれちゃったらどうしよう。

 ・・・・・・どうして私はそんなこと考えちゃうんだろう。

 こんなこと、ただの遊びなのに。

 気にしなくていいのに。

 それでも、どきどきする。怖い。いやだ。残さないで。私を選んで。


 「とーもーちゃん!」

 ああ。今日は選ばれなかった。私が残された。

 ・・・・・・泣きたい。もういや。明日こそ言うんだ。「今日は遊ばない」と。


 でもわかっている。私はきっと明日も言えない。そして明日は私は残されない。その代わり一番に選ばれることもない。

 早く、違う遊びが流行ればいいのに。こんな遊び、なくなればいいのに。いっそ昼休みがなくなればいいのに。


 右側にも左側にも誰もいなくなったのに、私の手はさっきよりももっと汗をかいていた。

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