第2話 まりかの章

「麻里香はかわいいな。まるでお人形さんだ。いや、お姫様だな。世界で一番かわいい、パパのお姫様」

 パパの声が聞こえる。

 パパはいつもまりかを「かわいい」と言ってくれる。「世界で一番かわいい、パパのお姫様」と言ってくれる。

 でも、ママは?

 ママは私とパパがきらいみたい。

 私とパパがなかよくしていると、ママはいつもおこった顔をしている。

 この間も、ママはパパとけんかしていた。

「お前は麻里香がかわいくないのか」

 パパがそう言うと、ママは黙っていた。

 

 ママは、わたしがかわいくないんだ。好きじゃないんだ。だっていつも怒ってばかり。

 パパみたいに抱っこもしてくれない。

 なぜ? どうして? ママはまりかのことが嫌いなの? 抱っこしてくれないの?


「ママはね、麻里香に焼きもちを焼いているんだよ。麻里香がかわいいから。特別だから。気にしちゃいけないよ。麻里香にはパパがいるじゃないか。パパがずっとずっと、麻里香を守ってあげる」


 うん、そうね。だから気にしない。わたしのことが嫌いな人は、わたしに焼きもちを焼いているの。大丈夫。パパが言ったとおり、笑おう。わたしが笑えば、きっとみんなわたしのことを好きになってくれる。だって私はかわいいんだもの。パパが言うとおり。

・・・・・・ママだけは、どんなにわたしが笑っても、怒ってばかりだったけれど。


 なのにパパはいなくなってしまった。

 どうして? まりかのことを、ずっとずっと守ってくれるって言ったじゃない。

 パパがいなくなったら、誰がまりかのことを守ってくれるの? ママはまりかのことが嫌い。だから守ってくれない。抱っこしてくれない。


 そうだ。王子さまを見つけよう。パパが言ったもの。

 パパの代わりにまりかを大切にしてくれる王子さまを。


 ・・・・・・それでいいの、まりか? 

 王子さまなんて、本当にいると思っているの?

 本当は分かっているでしょう。自分は特別かわいいわけでも、「お姫様」なわけでもないってこと。

 女の子たちに嫌われる理由も。

 奈津子が物言いたげにしていること、私といるとき、時々嫌そうな顔をしている理由も。

 ママがわたしに口うるさく言う理由も。


 ・・・・・・知らない。知らない。

 いいの、このままで。パパの言うとおりにしていれば、王子さまが現れるの。

 そうすれば、わたしは守ってもらえる。抱っこしてもらえる。


 たとえ、ママがわたしのことを嫌いでも。ママが私を抱っこしてくれなくても。

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