第2話 麻里香の章 その4
ブーッ。ブーッ。ブーッ。
うーん。何よ、うるさいわねえ。
私は枕元に手を伸ばした。さっきからスマホのアラームが鳴り続けている。
今、何時・・・・・・?
え、ええっ! もう、9時なの!? いやだ、式が、式が始まっちゃうわ!
私は慌ててベッドから飛び起きた。今日は待ちに待った私の結婚式。私が一番輝く日。大勢の人が私の輝く姿を見に来る日。それなのに、よりにもよってこんな日に寝坊するなんて。
ママったら、どうして起こしてくれなかったの!?
私は寝癖がついた髪を必死にブラシでとかした。ああ、もう、嫌、髪がすっかり絡まっている。いいわ、式場で何とかしてもらうしかない――。
私はとにかく最低限度の物だけバッグに詰め込んで、急いで玄関に向かった。
「ママ、ママ、いるの? ねえ、どうして起こしてくれなかったの、私、先に行くから! 」
そう言いながら、下駄箱から必死で靴を取り出した。けれど、お気に入りのスウェードのフラットシューズの爪先に、大きな傷がついているのに気が付いた。やだ、こんな傷、いつ付いたのかしら、これじゃみっともなくて履けやしない。
仕方ないわ、もう、これでいい――。
私は普段あまり使っていないパンプスを取り出して履き、玄関の扉を閉めるのもそこそこに走り出した。本当はパンプスだと走りにくいから嫌なんだけど、そんな贅沢は言っていられない。式は午前11時から、式場には8時にはお入りください、そう言われていたのに。
ハア、ハア、ハア。
秋とはいえ、全力で走っているせいか、背中から汗が流れ出ていて、なんだか気持ちが悪い。ああ、間に合うかしら、ううん、式に間に合ったって、私が仕度をする時間が十分になきゃ、困るのよ。だって、皆、私のウェディングドレス姿を楽しみにしているのよ。ああ、こんな汗まみれになっちゃうなんて、式場で体を拭いてもらわなくちゃ。もう、いや、このパンプス、なんて走りにくいの。足がもつれちゃう。
そうだ、郁人さんに連絡しなくちゃ。ごめんなさい、こんな日に遅れてしまうなんて。
私は走りながら郁人さんに電話を掛けたけれど、何度コールしても、彼は出なかった。どうしたのかしら、郁人さん。ひょっとして、彼はもう仕度中で、それで電話に出られないのかもしれない。私は電話を掛けながら、必死で歩道橋を登っていった。駅に近いこの歩道橋は、土日でも人の往来が多い。
「あの、すみません、急いでいるんです、通して――」
私は向こうから来る人たちにそう謝りながら、歩道橋を駆け抜けた。そして、階段を降り始めたそのとき――。
ドンっ。
背中に強い衝撃を感じて、私は――。
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