[10] 第1層

 振り向いたらうっすら青く光る扉があって、触ってみたところ「ダンジョンから脱出しますか?」と音声が流れる。すなわちそっちは入口兼出口であるから、進むべき方向は前にしかないとわかった。

 前には石造りの通路がまっすぐ伸びていて、ぽつんぽつんと一定間隔で明かりが灯っているが、ずっと奥は暗くて何があるのか見えない。けれども歩き出さなければ何も始まらない。


 移動を開始する前に隊列を決める。

 先頭は私。1番前に立ってトラップの探知とそれから前からくる敵を警戒する役目。

 しんがりは燈架。後ろからくる敵を警戒する役目。もちろん前から敵が来た場合は急いで前にまわってくる予定。

 真ん中はクレハ。特にやることないのでマッピングを担当させることになった。つまりは迷ったらクレハのせいということだ、ある意味責任重大?


 まあクレハの仕事はどうでもよくて私は私のやるべきことをやるのだ、罠感知。

 そんなもん今までやったことないし知識もない。よくわかんないけど、よくわかんないままだとさすがに困ったことになりそうなので、素直に2人にきく。

「前の猪の時みたいに、危険だったら直感がはたらいてくれるよ」

「あとはあやしいと思ったところに目を凝らせば、ぴかっと光ったり詳しい情報出たりするらしいぞ」

「3人ともトラップにひっかかって身動きとれないところにモンスター来たらその時点で結構まずいと思う」

 私の仕事も結構責任重大なのか、プレッシャーかけるのやめろ。

 まあ3人しかいないんだからだれの仕事も重要なんだろう、改めて気を引き締めると私はダンジョン探索1歩目を踏み出した。


 最初のうちは恐る恐る歩いてたんだけど、なんにも起きないので普通に歩き始めたところ、不意にびびびっと直感が舞い降りてきた。

「ストップ」後ろ歩いてる2人を手で制止する。

「あれはさすがにわかるよ。トラップだね」

「あからさますぎるな。だれがどうみても罠だろ」

 ちょっと歩いた先、石畳のうちひとつだけが白く輝いている。うん、確かにあれがトラップに違いない。


 目を凝らしてみる。ウインドウがポップアップ。罠の情報が表示される。

『やさしい罠です。罠に対処する方法は大きく分けて2つあります。"罠が発動しないように避けて通る"または"巻き込まれないように距離をとって罠を発動させる"です。今回は試しに罠をあえて発動させてみましょう』

「――だって」2人には詳細な情報までは見えないようなので説明する。

「多分だけどあそこを踏むと発動するんだよね」


「ちょっと待ってな。こんなときこそ『これさえあればオールオッケー! ダンジョン探索初心者セット』の出番だろ。じゃじゃーん!」言いながら燈架が袋の中から長い棒をとり出す。

 だいたい3mぐらい? よくそんな長いのが入ってたな。

 でもまあちょうどいいのはちょうどいいので受けとる。離れたところから棒の先で白いタイルをつっついてみた。

 天井がぱかっと開くとぼよーんと黒い大きなものが落ちてくる。近づいてみれば口を大きく開いた狼の人形だった。


「え、なにこれ?」

「うるふくん人形だね。モンスターのブラックウルフをかわいくした感じの人形、マスコットキャラクター的なやつだよ」

「あんた、これいる?」

「いる!」

「邪魔だから自分で持ってくように」

 力強く答えたクレハに一抱えはある巨大人形を押しつける。

 なんだかぐっと力が抜けた。ほんの少しだけだけど緊張してたのがバカみたいだ。

 この調子なららくしょーでダンジョンクリアできそう、とその時は思った。

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