[9] 休みの前の日

 ダンジョンに潜ることになった。

 明日は休みだからがっつり遊びたいって私が言ったところ、強い敵と戦うのはどうだろう、森で猪とぶつかり合ったのは楽しかったと燈架が賛成し、そういうことならダンジョンに潜ってみようよとクレハが提案してきた。


 ダンジョンって何よと私がきけば、クレハが「迷路みたいになってる閉鎖された空間で敵とか罠とかいっぱいあるかわりに、いいアイテムとかもいっぱいあるところだよ」と教えてくれる。

 教えてくれたはいいけどその後に「まあ今の話は全部チュートリアルで言ってたことだけどね」とかなんとか余計なことを言ってた気がするが、そこのところについては適当に無視しておいた。


 さてそうして話は一応まとまったのだけど、今度はダンジョンに潜るにあたって何が必要かという話になる。しかし考えたところで見当がつかなかったから、ひとまず現地に移動しようということになった。

「初級ダンジョンクリアで初心者卒業、できることが飛躍的に増えるって話だったな」と燈架。

「そうだよ。いろんな場所に行けるようになるから、できることが増えるんだって」とクレハ。

「そうそう、チュートリアルでそんなこと言ってた。めっちゃよく覚えてる覚えてる」と私。

 クレハは立ち止まると私の方をじっと見つめてきた、あきれた目で。「今のは白さんに聞いた話だよ」

 なんでこの娘はそんなトラップを仕掛けてくるのか、性格がねじくれまがってる。


 北の門から出て街道ぞいにてくてく歩いてったら、ダンジョンなんてモンスターもトラップも多いというしわかりにくいところにあるのかなって思ってたのだけれど、『ダンジョンはこっち!』って看板まで方々に出ててわかりやすかった。

 看板に従って進むにつれて人が増えて騒がしくなっていって、道まちがえた可能性あるかもだけどとりあえずこのまま進んでみるかって話になりながら、そうしてたどり着いた先にはどかんと遺跡みたいなものがあって、『ここがダンジョン入り口です!』という大きな看板までたっていた。


 どうやらそこが目的のダンジョンであっているようだったが、その前にはたくさんの露店が立ち並んでいて、活気に満ち溢れている。

 なんというか、これから敵地に踏み込もうという私の覚悟に似つかわしくない。

「どうなってるのよ?」とクレハをつっついて訊いてみたところ、「多分だけど初心者が最終的にみんなここにやってくるから、それ目当てで商売する人も集まってきたんじゃないかな」という答えが返ってくる。

 なるほど、理屈だ。

「まあ何の準備もなしにここに来てたからちょうどよかったよ」燈架は入口手前の露店で『これさえあればオールオッケー! ダンジョン探索初心者セット』なんてものを買っていた。

 多分、役に立つだろう、多分。たとえ今日は役に立たなくても、いつかそのうち役に立ってくれるはず。役に立ってくれるといいなあ。


 なんだかしまらない空気のまま、遺跡の内部に足を踏み入れる。その瞬間、空気がぴりりと変化したのがわかった。思わず身構える。さっきまでの喧騒が嘘みたいに静か。

「さすがにダンジョン内までこみあってたらつまんないから、パーティごとに別空間に飛ばされるんだって。だから今このダンジョン内には私たち3人しかいないんだよ」

 そういうことは先に言っとけ、クレハのバカ。

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