[4] 猪

 私たちは一旦その薬草の群生地から離れてどうするか相談する。

 クレハが魔法使い専用装備の魔物図鑑で調べたところによれば猪の名前はビッグボアで東の森では結構強い魔物ということだった。


 私の意見。「戦いたい。MP残ってるから勝てるでしょ。それにまだ薬草取りきってない」

 燈架の意見。「わざわざ戦わなくてもいいんじゃないか。強そうだし。薬草は別のところで探そう」

 クレハの意見。「きちんと作戦立てて戦ったら勝てると思うよ。勝率80%ぐらい、多分」

 そういうわけで2対1の賛成多数でビッグボアと戦うことになった。


 まず私がこっそりビッグボアの後ろに回る。土を掘り起こすのに夢中なようでまるで隙だらけだ。

 そしてそのまま背後から双剣で切りつけた。

 驚いたビッグボアは後ろ足で私を蹴り飛ばして走り出す。

 多少ダメージを負ったけど私は無事着地、すぐに体勢を立て直す。


 あとはクレハと燈架の仕事だ。

 ビッグボアに向かって火の玉が立て続けに飛来する。それらをものともせずに猪は突き進んでいく。

 クレハの役割は敵の誘導だからあまり効いてなくても問題ない。

 巨大な獣の向かう先には燈架が待ち構えている。

 ジャストタイミング。黒々と盛り上がった額に向かって燈架は大剣を叩き下ろした。


 猪は――止まらない。

 正面から体当たりを食らった燈架はその背後にあった木に叩きつけられる。

 だいじょうぶ。このパターンも想定してあった。一撃だけなら燈架は耐えきれる。


 ダッシュ。再び無防備になったビッグボアの背中へと私は走った。

 その勢いのまま双剣を振りぬく。二連撃。深く猪の肉を切り裂いた。

 ビッグボアは森中に響かんばかりの雄たけびを上げた。

 そして倒れる。土ぼこりが盛大に舞い上がる。


 勝った! 3人で喜びのハイタッチ、イェイ!

 その巨体は自動的に消滅して代わりに『ビッグボアの肉』と『ビッグボアの牙』というアイテムが落ちていた。何に使えるのかよくわからないけどとりあえず持って帰ることになった。

 後は特に何も起きずに薬草を集めて街へと戻る。


 帰り道で「それにしてもよくリィナは気づいたな」って燈架がほめてくれた。

「なんかこうカンがはたらいたのよね、いわゆるプレイヤースキルってやつ」

「え、違うよ。犬族の種族特徴で危機察知能力が高いんだよ。もしかして知らなかったの」

「もちろん知ってたし!」ほんとにクレハは年上の私を気遣ってたてるということを覚えて欲しい。

 とにかく無事にクエスト達成、報酬を受け取ってその日はそこでログアウトして別れた。

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