[2] 初戦闘

 3人で会うのはだいたい1か月ぶりでなんだかひどくなつかしい。

 そのまま話しこみそうになったけど「ゲームの中なんだからもっといろいろやろうよ」というクレハの提案で街の外に出て戦ってみることになった。


 いや違う、その前に街をうろついて買い物をしようということになったんだった。

 1人500Bずつ持ってたから3人合わせればなにかいい装備が買えるかもしれなかったけど、真剣に攻略してるわけでもないのでやめておいた。

 私はおいしそうなりんごを見つけたからそれを買った。

「なんでそんなの買ってるんだ」と言われたけど結局2人だって喜んで食べてた。

 2人は相談して薬草やらなんやらを買いそろえていた。そういうのを買うんだったと私も後になって気づいた。

 でもまああのりんごだって本物みたいにおいしかったしよかったと思う。

 繰り返しになるけど2人だって食べてたことだし。


 準備を整えて今度こそ街の外に出た。

 遠くまでよく見える背の低い草原が広がっていて、涼しい風が吹いていた。街道を外れればモンスターと遭遇できるらしい。

 最初に出くわしたのは緑色をしたゼリーみたいなので名前はグリーンスライム。クレハによればザコ敵の代表みたいなやつとのことだ。


 一番槍もらったと私は駆け出したつもりだったのだけれど気づけばスライムを通り過ぎていた。

 思ったよりこの体はよく動くらしい。不思議そうにしてる私をクレハが笑ってた、覚えてろ。

 今度は慎重に歩いて接近するとスライムに斬りかかった。ぽよんとした感触。ダメージは低い。

 次に燈架が大剣を振りかぶったけれど重さに慣れていないせいか攻撃は大きく外れた。

 最後に私と燈架が横にどいてからクレハが「ファイアボール」と唱えると杖の先から火の玉が撃ち出されて見事にスライムにぶつかると弾け飛んだ。


 私と燈架が「このゲーム、武器で攻撃するのむずかしいね」と話していると、クレハが「2人ともなんで魔法使わないの?」と言ってくる。

「魔法使いじゃないからよ」と私が言い返せば、「魔法使いじゃなくても1つか2つ覚えてるはずだよ。チュートリアルで言ってたもん」とさらに言い返された。

 燈架は言われて思い出したようで「そう言えばそんなのがあった気がするな」と言っていた。

 私は「え、ほんとに? 私のチュートリアルだとなかったよ。なんかおかしいのかな?」と言っておいた。


 ステータスをよく見てみれば私も1つ魔法が使えて、「ウインドエッジ」と唱えれば双剣がびゅんびゅんと風の刃を帯びるようになった。風切り音がしゅぱしゅぱ鳴って実にかっこいい。

 これはいいと双剣を振り回してたら「危ないから人に向けちゃだめだからね」とクレハが言ってきた。そんなことするわけないのに私のことをなんだと思ってるのか、こいつ年下の癖に。


 ともあれ魔法の使い方を覚えて2戦目突入。敵は同じくグリーンスライム。

 通り過ぎないようにいい感じに調節して斬りかかった。

 手ごたえあり。グリーンスライムのHPが一気に削れて残り半分になる。

 つづけて燈架が大剣を振り下ろせば、魔法で筋力を強化したおかげで狙いはばっちり、緑色のゼリーをずんばらりと両断した。


 なるほどこれはれっきとしたザコ敵で、それからこのゲームおもしろいかもとこの時思った。

 その後はグリーンスライムやら目つきの悪いブラックウルフやらを10匹ほど倒していった。

 自分の体じゃないみたいにすぱすぱ動けるのが楽しい。いや実際、自分の体じゃないのかな。


 何度かウインドエッジをかけなおしていたらMPがなくなっていた。

 クレハ情報ではMPは休むと回復する、あとMPを回復できるアイテムもあるけど値段が高いとのこと。

 燈架もMPが残り少なくなっていたからこの日はそれでお開きにしようということになった。

 明日も会う約束をして別れる。まあ約束してもしなくてもクレハとはどうせリアルで会うんだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る